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言葉の表出にフォーカスした独自の療育メソッドを確立し、言葉の遅れや発達にアプローチ

メディアと音を使って発語を促す療育の専門家

長田有子

長田有子 おさだゆうこ
長田有子 おさだゆうこ

#chapter1

一人一人の課題に合わせた50音のトレーニングで発語を促し、周囲との意思疎通をスムーズに

 「メディアや音楽を使った発語トレーニングにより、言葉が出るようになったお子さんが多くいます。できるだけ早く取り組むことで、定型発達にキャッチアップできる可能性が高くなります」

 こう話すのは、「調布発達支援教室」の代表で、臨床発達心理士の長田有子さん。20年以上にわたり、障害のある子どもや虐待を受けた子どもの療育に力を注いでいます。

 「2~3歳になっても言葉が出てこない時、親御さんは他の子と違うのではないかと心配されます。通常は親が話すのをまねすることで自然と言葉を身に着けますが、さまざまな理由でできないお子さんもいます。当方では、独自のメソッドで発語を促します」

 子どもにとって受け入れやすい情報の伝達方法を使い、音と映像と文字と連想する効果音を一連の動きにして何回も繰り返すことにより、人の行動を模倣するミラーニューロン機能を刺激するため、発語に繋がります。

 「母音ができるようになったら、50音の発語に向けて子音+母音の発音を練習します。舌の位置や口の筋肉の動かし方など、課題を見極めて講師が一対一で丁寧に指導し、ものの名前や動詞を使った2語文、3語文へとステップアップします」

 言葉が出ず、かんしゃくや自閉的傾向があった子どもが自分の感情が表現できるようになり、落ち着いたケースも数多く報告されているそう。集団生活になじめるように、教室ではソーシャルスキルトレーニングも行っています。

#chapter2

コンピューターを使った音楽制作を研究し、子どもが受け入れやすい療育ソフトを開発

 長田さんは、1986年にアメリカのバークリー音楽大学に留学。IT界で急成長を遂げていたアップル社が初代マッキントッシュを発売した2年後のことでした。

 「大学に、コンピューターとシンセサイザーを使った音楽制作を学べる学科が設立されたんです。古楽器やチェンバロなどの演奏技術、楽器の歴史を学んできた中で、電子機器を用いた音楽に新しい可能性を感じ、渡米しました」

 帰国後は、音と映像を使ったパフォーマンスの先駆者として活躍。専門学校でコンピュータミュージック学科のカリキュラムを構築し主任に就きました。その後も美術大学で講師を務め、メディアを使った教育ソフト制作に携わったほか、フランス国立音楽音調研究所でプログラミングの研修を受け、デジタル分野への知見を深めました。

 「2000年からは廃校になった小学校を活用して、音と映像を使った子どもたちへの教育プログラムを3年間にわたって実践しました。研究内容を、東京大学医学部教授や国立小児病院小児医療研究センター初代センター長などを歴任した、故・小林登先生が目に留めてくださり、療育に応用できるのではないかとおっしゃったのです」

 小林教授にアドバイスをもらいながら、障害のある子どもが受け入れやすい療育ソフトの開発に着手。ソーシャルスキルトレーニングとして、国立成育医療研究センターや被虐待児施設(子どもの虹情報研修センター)において実践しました。後にその療育ソフトをさらにブラッシュアップし、自身の教室を設立しました。

長田有子 おさだゆうこ

#chapter3

大学進学や就職を果たしたケースも。教室での実践をもとに療育アプリもリリース

 長田さんが療育に携わるようになった初期に手ほどきをした子どもは、すでに成人を迎えています。3~4歳まで何も話せなかった子が、大学に進学し就職を果たしたケースも少なくないそうです。

 「迎え入れたお子さんの多くは、就学前の検査で支援学級や支援学校への進学を勧められていましたが、療育によって次第に知能を発達させることができ、普通級に進みました。重度障害の方も社会性が育まれ、グループホームに入所するなど自立していらっしゃいます。一人一人が成長していく姿をそばで見させてもらい、私にとっても大きな学びとなりました」

 長田さんは、遠方に住んでいるなど教室に通えない子のために、株式会社ビサイド、株式会社スマイルコネクト・イーと共同開発して「楽しい療育シリーズ」というアプリもリリースしています。
 発語がなかったり、遅かったり、発声器官に問題がある構音障害の子に向けた「すらすらことば」、発語から言える範囲を増やす「どんどんはなそう」、状況を読んであいさつや返事をすることが難しいケースに活用できる「いろいろ会話」を展開。「ぐんぐんきおく」では、短期記憶の強化を目指します。

 「言われたことをすぐ忘れてしまう、よく理解できないお子さんは、耳からの情報を整理する聴覚記憶が弱い場合があります。リズムと映像で遊びながら数字を記憶したり、思い出したりする練習を通じて、話を聞き取る集中力などを鍛えることができます。学習や訓練により柔軟に変化する脳の可塑性に富む幼少期のうちに、子どもの可能性を大きく伸ばせます」

(取材年月:2025年4月)

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専門家プロフィール

長田有子

メディアと音を使って発語を促す療育の専門家

長田有子プロ

臨床発達心理士

調布発達支援教室

20年以上メディアと音を使った療育に取り組み、発達に不安のある子と保護者をサポートしています。大学進学や就職を果たしたケースも多数。教室に通えない家庭のために「楽しい療育シリーズ」アプリもリリース。

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