キャスティングで三方よしを実現する声の専門家澤田賢一郎

キャスティングで三方よしを実現する声の専門家

澤田賢一郎

メンバー全員がプレーヤーでありマネジャー。技術力にマネジメント能力を兼ね備える

　「欲しい時に、欲しい声を、欲しい場所へお届けすることで、お客さまの未来に貢献したい。すべてのクリエイターを仲間と捉え、ともに協力できる世界を築くことが私の使命です」

　そう語るのは、「Futures V-net」代表の澤田賢一郎さん。声優やナレーターによるコミュニティー「フリーナレーターズユニオン（FNU）」を組織し、映像制作会社や広告代理店、一般企業に向けて声のプロのキャスティングを行っています。

　「FNUは、自立した表現者のボランタリーチェーン。全員がプレーヤーでありながら、マネジャーとしての役割も担う点が大きな特徴です。お客さまから『こんな声が欲しい』というご相談をいただくと、組織内で人材をスピーディーに手配します。フリーランスならではの柔軟さと、大手プロダクションにひけを取らない100人規模の豊富な内部人材を中心としたキャスティング力を両立しているのが強みです」

　このシステムが成り立つのは、個々の技術力に加え、一人一人のマネジメント能力があるからこそ。
　「メンバーに対してはビジネスの視点からの教育を実施しており、コンプライアンスはもちろん、事業主としての意識の持ち方なども身に付けてもらっています」

　クリエイターとして自立することで、顧客に貢献できると強調する澤田さん。
　「メンバー、お客さま、社会の三者が喜びを分かち合える三方よしをクリエイティブの世界で確立するのが私たちの理念。単なる技術提供者ではなく、映像作品などの制作パートナーとして、社会のお役に立ちたいと考えます」

シームレスなキャスティングに向け、ナレーション検索システムや映像制作のプラットフォームを展開

　声優やナレーターに限らず、アナウンサーや司会者、俳優など、多彩な人材が集うFNU。動画投稿サイトの台頭により制作予算が抑えられる中、柔軟な価格設定にも対応。スタジオの他、自宅でも収録可能にすることで、短納期の案件にも応えています。

　制作サイドがストレスなく適切な声を見つけられるよう、澤田さんが導入しているのがナレーション検索システム。演者の性別、年齢、「かっこいい」「ハスキー」「チャラい」といった声の雰囲気、「CM」「企業動画」「番組」などのジャンルを選ぶと、500以上のボイスサンプルから音源や人材を瞬時に絞り込むことができます。

　「売り手の都合ではなく、お客さまのニーズを重視することで、キャスティングの時間的ロスを減らすことを目指しています。『ぜひ使わせてほしい』と興味を示される方は多いですね」

　更なる価値の提供に向けて、現在準備しているのが映像プロデュースの受託事業。
　「動画制作の会社は近年増えており、どこに依頼すればよいか分からないお客さまが増えています。そこで、アテレコなどを通じて多くの映像制作者と繋がりを持つ私たちが適したクリエイターとお客さまをマッチングできないかと考え、プラットフォームの構築を進めています」

　声のプロを目指す人向けに、短期間で実践的なスキルを学べるサービス「ナレキョ」も始動しており、今後は更にコンテンツを充実させる予定。また、多くの同業者の助けになれるよう培った専門技術で仕事を成立させるための考え方を伝えるオウンドメディアの運営も計画しています。

9割がアルバイトなしでは生計が立たない業界で、5割以上が専業で食べられる組織を実現

　「中学時代、職場体験で声優さんに出会ったのが、声のプロを目指したきっかけです。凄くキラキラしていて、自分もこうなりたいと強く思ったのです」
　澤田さんは大学卒業後、夢を諦めきれず、反対する親を説得して上京。声優養成所で研鑽を積んだ後、声優事務所に所属してタレント活動を始めます。

　「1年目は仕事がゼロで、2年目は年収10万円。業界の厳しい現実に直面しました。将来に危機感を覚えたことで意を決してアルバイトを辞め、2015年に人生を懸けナレーター業1本で独立。結果、1年で生計を立てられるようになり、某回転寿司チェーンなど多くの有名企業のTVCMも任されるようになりました」

　「仕事とは何なのか」を知らないままに事業主になる声優が多い―。そう考えた澤田さんは、経営者のコミュニティーでビジネスのマインドや他業種の成功事例を学び、2017年、仲間たち7人とFNUを立ち上げました。

　メンバー同士が仕事を融通するという共助の仕組みを取り入れることで個々の収入が安定。9割がアルバイトなしでは生計が立たないとされる業界で、実に5割以上が専業で食べていける組織を実現させました。

　2021年にFNUを運営する法人としてFutures V-netを設立。メンバーは100人程度にまで増えています。
　「私がいなくなっても組織が自走し永続的に仲間や後進を助けられるよう、FNUの運営を仕組み化するのが当面の目標です。そして、この仕組みをテンプレート化して、将来的には他のクリエイティブ分野へも横展開していきたいと考えています」

（取材年月：2025年8月）

自立した表現者でつくるコミュニティーが、顧客にふさわしい「声」を提供

メンバー全員がプレーヤーでありマネジャー。技術力にマネジメント能力を兼ね備える

シームレスなキャスティングに向け、ナレーション検索システムや映像制作のプラットフォームを展開

9割がアルバイトなしでは生計が立たない業界で、5割以上が専業で食べられる組織を実現

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