風土や人、歴史を紡ぎ、地域の魅力を形にする建築士
蘆田暢人
Mybestpro Interview
風土や人、歴史を紡ぎ、地域の魅力を形にする建築士
蘆田暢人
#chapter1
「地域の風土や歴史、人々の営みを尊重し、まちや建物を形づくります」と話すのは、一級建築士の蘆田暢人さん。全国各地のまちづくりプロジェクトに携わり、建築を通じて地域アイデンティティー創出を支援し続けています。
東京都渋谷区に「蘆田暢人建築設計事務所」を構える蘆田さんは、「その地域がどのような未来を目指していくか」に重点を置き、まちなみに合った建物をプロデュース。土地が持つ文化的価値に目を向けながら、技術的な観点から地域や企業、個人が保有する資産を次の世代につなげるための方策を助言します。
「依頼を受けると現地に足を運び、地域の方々から直接お話を伺います。その土地の文化的側面を把握し、地域を持続させるために今をどのように暮らし、未来に何を残していくかを共に考えるのです。必然的に、地域と長期的に関わることが多くなりますね」
新築ありきではなく、既存物件を改修して再活用する選択肢を示すこともあれば、風致にそぐわない建築物の取り壊しを勧めることもあるそうです。
「既存の資産を生かすか、新たに造るのか。その見極めがとても重要です。建物が物理的にあと何年持つかなどを技術面から判断する必要があり、建築士としてのスキルが問われる場面でもあります」
地域・社会貢献に対する意識の高まりから、近年は営利企業においても公共性の高い建築物を整備するケースが増えていると話します。
「店舗や工場などと比べ、パブリックな施設の整備は容易ではありません。お客さまをサポートし、地域と融和した建築をお手伝いしています」
#chapter2
「建築という仕事は、デザイン力や描写力だけでなく、文化や歴史の素養も必要。知識やスキルが総合的に求められる点に魅力を感じ、この道を志しました」
蘆田さんは京都大学で建築学を学び、大学院修士課程を修了後に上京。建築設計事務所で10年間にわたり実務経験を積み、2012年に自身の事務所を立ち上げました。
独立前から公共建築に携わる機会が多く、現在も交流施設やパブリックスペースなどを多数手掛けています。近年の代表的な取り組みの一つが、大阪府吹田市の「江坂ひとときプロジェクト」です。
「自分の土地を地元のために活用したい、という知人からの相談を受けたのがきっかけでした。何を造るかという構想段階から関わり、建物だけをつくっても人が集わなければ成立しないと考え、まずはプロジェクトに参画する仲間集めから始めました」
集まったメンバーと何度も対話を重ね、地域交流拠点の建築を具体化。
「構造材としては一般的でない広葉樹をあえて使うことで、『まちなかと里山をつなぐ』というコンセプトを体現しました。広場やビオトープなど、メンバーからの提案で新たに加えたものもあります」
施設では、カフェやガーデニング、木工の工作所などをメンバーたちが運営。木造建築の賞を受けるなど、民間が手掛けたパブリックスペースの好例として注目を集めています。
「建物やまちなみを完成させるには、多くのエネルギーが必要です。さまざまな人と関わり、時間をかけて議論や検討を重ねながら一つの形をつくり上げていく。そのプロセス全体をまとめるのが建築士の役割であり、そこに大きなやりがいを感じています」
#chapter3
新潟県十日町市の山あいに湧く松之山温泉。冬は雪で閉ざされて白一色となるこの地にも、蘆田さんが手掛けた建物が点在しています。
「2010年に環境省が始めた温泉バイナリー発電の実証実験を契機に、温泉街の景観を見直そうという気運が高まり、将来像を一緒に考えてほしいと依頼を受けました。2013年から温泉街の方々とワークショップを重ね、地域の未来の姿を描いたグランドビジョンを策定しました」
その後、構想を一つずつ形にし、複数の老舗旅館を改修。元々公共施設だった建物をリノベーションした絶景を望めるホテルや、観光案内所も兼ねるバーやカフェなど、温泉街歩きの拠点となる施設も設計しています。
こうしたまちづくりは、十日町市を含む「雪国観光圏」と呼ばれる新潟、群馬、長野3県の7市町村で展開。隣接する津南町では、商店街の空き店舗を活用して自治体運営のコミュニティスペースを設計し、南魚沼市では温泉旅館のリブランディングにも携わりました。
建築設計事務所の業務に加え、千葉工業大学などで非常勤講師として後進の指導に当たるなど、活動の幅がますます広がる蘆田さん。
「日本には魅力的な場所がたくさんあり、その魅力を享受しながらまちづくりに取り組むことは建築家にとって何よりの幸せです。今後も全国各地でプロジェクトに関わり、魅力を生かした建築を続けていきたいですね」と穏やかに語ります。
(取材年月:2025年12月)
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Profile
風土や人、歴史を紡ぎ、地域の魅力を形にする建築士
蘆田暢人プロ
建築士
株式会社蘆田暢人建築設計事務所
交流拠点の建築、温泉街の景観創出、旅館のリブランディングなど多数の実績を保有。住民との対話やワークショップでその土地の風土や歴史を理解し、地域をどう持続させるか、未来に何を残すのかを共に考えます
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