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「老いることは楽しむこと」一人一人の人生に光を当て、最期まで自分らしさを支援する環境づくりを

「楽しい」をキーワードに介護の質の向上を目指す専門家

芹澤隆子

プロフィール
セッション

#chapter1

誰もが心から“楽しい”と思える場面を創造する「ダイバージョナルセラピー」

 さまざまな媒体へ記事を提供する編集プロダクションとして、1995年大阪市北区に設立された「ウェル・プラネット」。
 代表を務める芹澤隆子さんは、医療・介護・福祉分野を得意とする取材記者として豊富なキャリアを有すると同時に、オーストラリア発の高齢者ケアの分野の「ダイバージョナルセラピー(ⅮT)」の第一人者でもあります。

 日本でのNPO法人 日本ダイバージョナルセラピー協会の立ち上げにも貢献し、2006年から理事長に就任。ダイバージョナルセラピー普及のための情報発信や啓発、ⅮTワーカーの育成、施設への導入支援といった活動に取り組んでいます。

 「ダイバージョナルセラピーとは、誰もが自分の人生に誇りを持ち、最期まで自分らしく生きるために、一人一人の個性や感情、主体性を尊重するケアの理念と実践手法。介護施設やデイケアなどで職員も含め、心から“楽しい”と思える場面を創造します」

 世界的にも高齢者介護や障がい者支援の意識が高く、社会制度の上でも先進的な組織整備が進むオーストラリアやニュージーランド。
 芹澤さんは日豪の公的機関などを介して、現地の教育機関や介護の現場へ足しげく通い、理念の理解と実践的なセラピーの修得に努め、人材育成のための海外研修など両国間の交流もサポート。近年はアメリカ、イギリスなどとも交流しています。

 “よりよく生き、最後まで楽しく自分らしく”というダイバージョナルセラピーの概念を通して、慢性的な人手不足が課題となっている介護現場の意識を変えることで、入居者の生活の質を向上するだけでなく、職員がやりがいをもって定着できるよう、多方面からアプローチしています。

#chapter2

「楽しく自分らしく」のダイバージョナルセラピーメソッドとの出合い

 芹澤さんにとって“ダイバージョン(転換)”となったのは、関西国際空港の開港記念プロモーションで渡豪する大阪府の天神祭り代表団に、取材記者として同行した1994年にさかのぼります。

 「この時、初めてブリスベン空港に降り立ってからこれまで50回近く、訪れるたびに感銘を受けるのが、日常を楽しむオージーたちの明るさ。特に年齢を重ねても自尊心を失わない笑顔は印象的でしたね」

 「老いるとは楽しむことであって耐えることではない」
 これは1997年に豪連邦政府Aged Care(高齢者介護)の初代大臣に就任したブロンウィン・ビショップ氏の言葉。介護保険制度の施行前夜の日本を訪れた大臣にインタビュアーとして面会した芹澤さんは、「この言葉に、自身のその後の生き方に大きな影響を与えられた」と言います。

 高齢者ケアや医療・健康関連の取材を続ける中、40代で編集プロダクションを創業。導かれるように豪州で高齢者介護の現場を取材する機会を得ると、「人生の楽しみを追求するダイバージョナルセラピーのメソッド」に出会います。

 理念や実践プロセスなどを学ぶほどに、「日本の介護に必要なのは“楽しむことの専門性”ではないか」と気づかされたそう。

 「豪州政府の要人が来日した際には、当方で開発した赤ちゃん人形 “たあたん”の製作につながるヒントをもらうなど、医療・福祉・介護分野のホットな情報に触れる機会に恵まれました。図らずも日本でのⅮT活動の窓口として大きく踏み出すことになったのです」

セミナー

#chapter3

スタッフの働き方に変化をもたらすポジティブサイクルにも期待

 芹澤さんは、国内外での講演・研修活動のほか、研修プランニングや導入施設へのフォローアップなど、各地に足を運びます。

 ⅮTセッションでは、体を動かしながらコミュニケーションを促すオクタバンドや、愛おしい感情を呼び起こすドールセラピー用の赤ちゃん人形のほか季節や日常生活に合わせたツールも活用。時には収穫した野菜や色とりどりの落ち葉も、記憶を掘り起こす特別な小道具になります。

 「自然や街の空気に触れ、音楽や会話をベースに五感に訴える要素を取り入れた『SONAS(ソナス)セッション』、料理・園芸・絵画などのアートプログラムやダンスなど、私たちも含め、誰もが毎回みずみずしい感覚で参加しています。そんな意味のある楽しさを介護に導入することによって、職員の働きがいにもつながります。ⅮTワーカーの有資格者の離職率は低い傾向にあり、働き方に変化をもたらすポジティブサイクルも期待できます」

 「先進国ではダイバージョナルセラピストは、レクリエーショナルセラピストなどの名称で、独立した専門職として活躍中」と話し、日本でのさらなるスキル向上とともに、専門ワーカーとしての地位確立にも尽力しています。

 「毎日の生活介助やレクリエーション、室内を彩る調度品ひとつにまで意味や価値を見いだすことで、入所後も個人の楽しみをあきらめることなく、最後まで自分らしい人生を全うしていただきたい。そこにこそ“介護のやり甲斐”があり、職員も誇りと喜びを感じることができます。人手不足の介護業界を、そんな方向から考えてみませんか」

(取材年月:2025年5月)

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Profile

専門家プロフィール

芹澤隆子

「楽しい」をキーワードに介護の質の向上を目指す専門家

芹澤隆子プロ

ダイバージョナルセラピーコンサルタント

有限会社ウェル・プラネット

取材記者として介護・福祉分野に精通。多くの先進国では専門職の“楽しく自分らしく”を支援するダイバージョナルセラピーやレクリエーショナルセラピーの導入と実践・研修により質の高い介護環境を目指す。

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