牛の受精卵移植技術で沖縄の畜産を支えるプロ
前川巧
Mybestpro Interview
牛の受精卵移植技術で沖縄の畜産を支えるプロ
前川巧
#chapter1
やわらかくとろけるような食感、うま味のある肉汁が豊富でジューシー。海外でも人気を呼ぶ和牛などを不足なく供給し、日本の畜産業界を発展させるべく子牛の繁殖に力を注ぐのは「沖縄ETセンター」の代表・前川巧さん。肉牛・乳牛の双方を対象に受精卵の採取・移植を手掛け、沖縄諸島全域で依頼を請け負っています。
「排卵を促すホルモン剤の投与により生体内で多くの受精卵をつくり、一度で平均10個程度を確保しています。優良牛を育てるために、肉質や乳量において優れた血統の雄牛と雌牛を選定して交配させ、卵の良否を鑑別しています」
卵子を提供する供卵牛(ドナー)、分べんを代理する受卵牛(レシピエント)ともに、生殖・出産に向けて準備が整った発情時に受精したり、移植したりすることが重要。前川さんは牛の体調、栄養状態などを踏まえ、適切なタイミングを見極めています。
「受精卵を着床させ、妊娠を維持するための黄体や子宮が良好かなどを確認して、受胎率を上げています。母体のコンディションによっては、今日は作業できないと判断するケースも珍しくありません」
精子の購入、採卵、優秀な遺伝子の凍結保存、移植といった工程を自社で一貫することで、効率的かつ的確に生産をサポート。宮古島や多良間島、与那国島など、離島でも対応実績があり、2024年度には約400頭から受精卵を採取し、約3000頭に移植を行いました。
「当方は『信頼は技術から』をモットーに、専門性を備えたスタッフをそろえ、ノウハウを蓄えてきました。品質の良い産子を増やし、出荷量の拡大をお手伝いいたします」
#chapter2
1981年に国頭郡で生まれた前川さん。実家は和牛と豚を飼育する牧場で、畜産農家の営みに触れて育ちました。
子どもの頃から野球にも親しみ、名門の沖縄尚学高等学校に進学。練習に明け暮れる日々を過ごし、3年生の時には春の選抜で甲子園に出場し、全国制覇も経験しています。
「残念ながらレギュラーメンバーではありませんでしたが、規律に沿った寮生活を送る中で心身ともに鍛えられました。特に、当たり前を徹底する大切さについて教えていただき、詳細に観察し、正確に手順を踏むことが求められる現職にも大いに生きています」
高校卒業後は、父親がかつて学んだ北海道の酪農学園大学へ。牛の繁殖について研究し、大学院まで進みました。
学業を修めて帰郷し、家業に入りますが、1年後に家畜の育種改良・増殖、飼養・衛生管理などに携わる沖縄県畜産研究センターから声がかかり、臨時職員として入職。任期を終えた後は動物病院に勤め、牛の受精卵移植の仕事に6年間従事。実務を積み、2016年に個人事業主として独立を果たします。
「病院では県南部の方が中心でしたが、独立以降は県内各所からご用命を受けるようになりました。『増産したい』といった農家さまの要望をかなえるため、設備をそろえて体制を整え、2018年に法人改組し、『沖縄ETセンター』を設立しました」
社名の「ET」は、受精卵移植を意味する英語「Embryo Transfer」の略。どこで何をしている会社なのかが分かりやすい名前として、命名しました。
#chapter3
温暖な気候で牧草がよく育ち、沖縄県は子牛生産地として全国トップ5に入ります。前川さんは県内の約100軒の農家と付き合いをするなど、堅調に事業を伸ばしてきました。
「営業に力を入れてきたわけではありませんが、お客さまがご新規さまを紹介してくださる機会が多く、ありがたい限りです。皆さまのニーズに応えられるよう、人や組織をさらに充実させていくつもりです」
個体それぞれの状態を読み取って投与する薬の量や時期を調整したり、移植の頃合いを見計らったり、受精卵を評価したり。繊細で緻密な業務を遂行する技能は習得に相応の時間を要し、フォローし合うチームワークも欠かせません。前川さんは人材育成の一環として、畜産事業への参入を計画しています。
「研修牧場のような位置付けで、従業員が牛の飼育から出荷まで自分たちの手で行う中で結束力を高めるほか、畜産の仕組みを把握し、牛の生態や育成の過程を深く理解することが狙いです。現場を知ることで、農家さまのお役に立てる範囲を広げたいと考えています」
昨今は、高齢化や後継者不足、飼料の高騰などを背景に、廃業が相次いでいることを懸念。経営面も含め、実践的な知識やスキルを身につけ、ビジネスとしての可能性を伝えていきたいと言います。
「地域に根ざした取り組みで、沖縄の基幹産業である畜産業を支えることが私どもの目標です。農家さまとともに成長し、地域全体の活性化に貢献していきたいと思います」
(取材年月:2025年12月)
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Profile
牛の受精卵移植技術で沖縄の畜産を支えるプロ
前川巧プロ
牛の受精卵移植業
株式会社沖縄ETセンター
沖縄諸島全域で牛の受精卵の採取から凍結保存、移植まで自社で一貫して手掛ける。年間で約3000頭の受精卵移植を行う中で培ってきた技術力を基に、牛の体調を見極めながら採取・移植を行う。
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