心豊かな暮らしのために、人と組織を育てるプロ犬養拓

心豊かな暮らしのために、人と組織を育てるプロ

犬養拓

地域の魅力を発信し未来へつなぐ、人と企業の新しいかたち

　伝統的な白壁の蔵屋敷と、レトロモダンな洋風建築が美しい景観を織りなす倉敷美観地区。その一角、倉敷市本町にある築100年の古民家を活用した食事処「有鄰庵（ゆうりんあん）」の2階に本社を構えるのが、「行雲（こううん）」です。美観地区を中心に飲食店やショップ、宿泊施設、ミュージアムなど計9施設を運営し、さらに3つの法人向け事業を展開しています。

　「先人たちによって大切に守り継がれてきた街並みは、人々の暮らしを支えるかけがえのない資源です。その価値を失うことなく、将来にわたってにぎわいを絶やすことのないよう、地域の魅力を発信し続けることを心掛けています」

　そう話すのは代表の犬養拓さん。「心の豊かな暮らしを創る」を企業理念に掲げ、全ての事業の立ち上げやマネジメント、スタッフ育成までを一貫して手掛けてきました。地域の暮らしに根差し、共に未来を描きながら出合いに応えるうちに、古き良きものと新しい感性の調和が生まれ、訪れる人を魅了する多彩なプロジェクトが生まれています。

　企業運営の根底にあるのは、「身近な人との心地よい関係が、個々の幸福度を高める」という思い。「人が動かす“法人”もまた同じ。チーム全体の関係性を大切にすることが、多くの課題を乗り越える力になるのではないでしょうか」と犬養さんは語ります。

　2023年からは、これまでの経験を生かし、人材活用に苦慮する中小企業を対象に、総合コンサルティングを開始。岡山県内にとどまらず、北陸や首都圏にも足を運び、企業内のコミュニケーションや組織運営の改善に貢献しています。

“空を流れる雲のように”心惹かれる方角へ自然とたどり着いた倉敷の地

　倉敷にゆかりのある犬養さんですが、あらかじめこの地に腰を据えると決めていたわけではないとのこと。まさに社名のとおり、“空を流れる雲のように”心惹かれる方角へと歩みを進めた結果、たどり着いた場所だったのです。

　大学卒業後に入社した電通では、広告営業やクリエイティブ部門に所属しながら12年間勤務。自由な発想でプロジェクトを動かす中で、業務を通じて知り合った外部のクリエイターたちと共に新しい事業を立ち上げるなど、組織の枠を超えた活動にも取り組みました。　

　2014年、「サッカーワールドカップを一つの節目に」と退職。自由を求めて新たな道を歩み始め、個人でメディア事業を手掛けていた折に、縁あって「有鄰庵」の運営に関わるようになり、やがて事業を引き継ぐことに。これが、現在の「行雲」の前身となる活動の始まりでした。

　「私自身が触れて心を動かされたものや、現場のスタッフから出てきたアイデアの一つ一つを検討し、条件が整ったものから実現していきました。事業化を進めるポイントは、理念に沿っているか、社会に受け入れられるか、そしてビジネスとして成立するか。常にそのバランスを大切にしています」

　美観地区は、古い街並みが守られているがゆえに、空き物件が都合よく見つかるとは限らないとか。制約のあるなかで、魅力ある商品ラインナップはもちろん、店舗の屋号やロゴに至るまで、訪れる人との出会いが特別なものになるようにと、丁寧に店づくりを進めています。

自社で培った実践力をもとに、組織と人材の可能性を引き出す仕組みづくりに注力

　犬養さんは「型にはまらない自由な感性」と「人との関係性を大切にする姿勢」を軸に、自身やスタッフの「やってみたい」という気持ちに素直に向き合います。

　社内では、密なコミュニケーションを通じて全てのセクションを一つのチームとして機能させる一方、それぞれの店舗や事業の個性も尊重。しなやかに状況をとらえながら、数々の事業を育ててきました。

　趣のあるたたずまいの各店舗や、訪れる人を惹きつけるスタッフの生き生きとした笑顔にも、現場の実践力がにじみます。そうした現場での知見をもとに、犬養さん自身が、人材活用に課題を抱える中小企業向けのコンサルティングサービスを展開しています。

　「組織が一つの方向に向かって力を発揮するには、経営者だけでなく管理職やリーダーも、ビジョンや理念を自分の言葉で語れるまで深く理解することが大事」と語り、ローカルビジネスの可能性を引き出す仕組みづくりをサポート。

　経営や人材に関する課題の整理・言語化を図りながら、役員やマネージャー層向けの研修制度の構築から人事評価制度の設計・運用など、各組織の実情に寄り添います。

　また、多くの経営者が課題に挙げる人材採用については、「組織にとって本当に大切なのは、効率や実務能力よりも、周囲の状況をくみ取り、その場に応じて判断できる力」と指摘。
　「自社の強みや価値観をしっかりと理解していることが、相性の良い人材と巡り会えるかどうかの鍵になります。人に向き合う真剣さが、そのまま組織づくりの可能性を広げるでしょう」

（取材年月：2025年7月）

「心の豊かな暮らしを創る」倉敷美観地区から始まる“街や人との関係性”を軸としたまちづくり

地域の魅力を発信し未来へつなぐ、人と企業の新しいかたち

“空を流れる雲のように”心惹かれる方角へ自然とたどり着いた倉敷の地

自社で培った実践力をもとに、組織と人材の可能性を引き出す仕組みづくりに注力

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