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海洋散骨により自然に還る「新しい旅立ちの形」を提案

故人への敬意と職人の高い技術を持った散骨のプロ

後藤啓介

後藤啓介 ごとうけいすけ
後藤啓介 ごとうけいすけ

#chapter1

故人の思い出がいつまでも心に残り、海を見るたびに思い出す供養を

 近年、故人の遺灰を海に葬送する海洋葬への関心が高まっています。別府湾を臨む大分市鶴崎を拠点にする「マイクロツール社」代表の後藤啓介さんは、遺骨を粉にする粉骨と、散骨の代行を執り行っています。

 「ご遺骨を自然に還すことで、いつでもどこでも見守ってくれているという感慨が湧き、多少なりとも悲しみが和らぎ、心が軽やかになります。かけがえのない方の存在を常に感じられる、そんな旅立ちの形を提案しています」

 墓地に納骨しないため、お墓の購入費や維持費がかからず、管理の心配もありませんが、実利的なメリットよりも、遺族の「心」の面での利点を後藤さんは重視します。
 「残されたご家族は、海を見るたびに故人さまを思い出し、つながることができる。精神的な支えになることを、お話ししていきたいですね」

 見送る場所は、地元の別府湾や大分県南部の佐伯市蒲江沖など。潮の流れとともに太平洋に出て、さらに黒潮に乗って北へ向かい、まるで世界旅行をしているかのように、大海原を自由に巡っていきます。このように海洋散骨は、薄暗いお墓の中とは違い、美しい海の景色を見ながら穏やかに過ごすことができるため、故人の魂は自然と一つになりながら安らぎを得ることができるそうです。

 「県内はもとより、大阪や新潟など遠方からもご用命があります。弊社のホームページを見て連絡をくださるようで、反響の大きさには驚かされます。ご本人さまが生前に望まれていたり、墓じまいに伴いご先祖のお骨を供養したりといったケースが多いようです」

 水に溶ける便せんにメッセージをしたため一緒に添えるほか、希望すれば散骨に同行することも可能とのこと。
 「ペットのご相談にも応じています。花束やお菓子をお持ちになる方もいて、家族同様にかわいがられていたことがよく分かりますね」

#chapter2

細かく粉骨した遺骨は環境に優しい袋に納め、散骨の様子は写真に撮って御遺族へ

 「お骨は専用の機械で2ミリ以下の粉状にし、環境に配慮した水溶性の紙袋に納めます。手元に置いておかれる方は、湿気を防げるよう真空パックもいたします。粉骨については、ご遺族が見届けられないところもあるようですが、当方では丁寧に進めている様子を確認してもらう意味でも、立ち会っていただけます」

 他の人の骨が混ざることがないよう、器具は1件ごとに徹底洗浄。きめ細かくさらさらの状態にするため、遺骨の乾燥も行います。お墓の中にあったご遺骨は湿気を含んでいる事が多いため、念入りに乾燥していると説明します。

 作業を終えた後は、遺族が自ら供養する場合は返還し、散骨代行であれば後藤さんが船上で手ずから海へ流します。
 「故人さまの無事を祈って、時間になれば船の方角に向かって手を合わせてくださいとご遺族にお伝えしています。当日の様子を撮影した写真は、散骨証明としてお届けします。気象状況により海へ出られる日は限られるため、ご依頼からお見送りまで3カ月から半年ほどいただく場合がございます」

 ただ、初めてであるがゆえに中には戸惑う人も。
 「ある高齢の女性が、長い闘病の末に亡くなった旦那さまのご遺骨を持参されたときのことです。散骨を決めたものの、表情からは迷いというか、罪悪感のような感情が読み取れました。そこで『ご主人さまは痛みや苦しみから解き放たれ、世界中を旅しておられるのですよ』と声を掛けたところ、ぱっとお顔が明るくなり、『私のときもお願いします』と言ってくださいました」

後藤啓介 ごとうけいすけ

#chapter3

「人は亡くなったらどこに行くのか」自身の墓じまいの経験から開業を決意

 後藤さんは大学卒業後、半導体メーカーに入社。技術畑を歩み、主に特殊金属の加工などに従事します。50歳を迎えて独立してからは、医療用メスを研磨する仕事をしてきました。粉骨士として海洋散骨の事業を始めたきっかけは、自身が経験した墓じまいだと言います。

 「先祖の遺骨を納骨堂に納めることにしたのですが、江戸時代から檀家を務めてきたお寺さんはお経の一つもあげてくれず、悲しい思いをしました。実家の墓からは9柱もの骨が出てきたので、ひとかけらずつ納骨堂に入れ、残りは業者に頼んで海にまくことにしました」

 その際、数十万円という高額な費用がかかった経験から、誰もが気軽に行える海洋散骨のサービスを自分が提供しようと決意。派手な演出を控えて価格を安価に設定しています。

 現在は、娘さんが受付業務に加わり「悔いの残らない供養を、一人でも多くの方に提供しよう」と親子二人で力を合わせているそうです。

 また、墓じまいを機に、後藤さんは宗教にとらわれない供養を模索するようになったとか。
 「人は亡くなったらどこヘ行くのだろう、ということを考えてきました。そこでたどり着いたのが『千の風に乗って』という歌。形あるものを拝まなくても、大切な人は私たちの記憶や思いの中に残っている。そばにいるのだということを意識して、故人をしのべばよいのではないでしょうか」

 今後は、一人暮らしの高齢者や身寄りのいない人を対象に、生前予約の仕組みをつくりたいと語ります。
 「私は、『いってらっしゃい』と大きく手を振り、一人一人送り出しております。故人が新たな旅立ちに向かうイメージを持ってもらえれば幸いです」

(取材年月:2023年2月)

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専門家プロフィール

後藤啓介

故人への敬意と職人の高い技術を持った散骨のプロ

後藤啓介プロ

海洋散骨代行

有限会社マイクロツール社 / 散骨事業部イントゥ・ジ・アース

一番大切にしている事は、故人とご遺族に対する敬意と配慮。粉骨のプロフェッショナル「粉骨士」が1ミリの骨も他者と混ざる事がないように、最大限の注意と尊重を払い専用の機械で丁寧に粉骨し散骨を行います。

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