化学合成の未来を変える、マイクロ波化学のプロ
松村竹子
Mybestpro Interview
化学合成の未来を変える、マイクロ波化学のプロ
松村竹子
#chapter1
電子レンジが短時間で飲食物を温められるのは、マイクロ波という電波を利用しているから。対象に照射すると、中に含まれる水分が分子レベルで振動し、摩擦熱が生じて内部から加熱が進む仕組みです。「ミネルバライトラボ」ではこのメカニズムを研究し、各種素材を化学合成したり、マイクロ波の発信装置を開発したりしています。
「ミネルバはローマ神話に登場する知恵や技術の女神で、ライトは光、ラボは研究機関を意味します。つまり私たちはマイクロ波化学の技術により、照明や装飾用など、多様な発光体を作り出している研究所です」と、所長の松村竹子さん。
松村さんが手掛ける発光体はさまざまな色を表現でき、主にスマートフォンやテレビ、パソコンなどのディスプレイに用いられ、近年、液晶やプラズマをしのいで主流になりつつある有機ELにも活用されています。
「電子レンジが調理時間を短縮するように、マイクロ波を使うことで発光材料も迅速に完成します。従来はほぼ1日を要していましたが、今では30分程度ですね。省エネでコストも抑えられるため、化学メーカーや大学の研究室からニーズがあります」
時間的、費用的な負担を軽減することに加え、画像を構成するための色情報を持つ画素一つ一つが光ることで色鮮やかな映像をかなえ、構造もシンプルで薄く軽量化が可能な有機ELの実用化は拡大傾向に。折りたたみ式のスマホ、巻き取り式テレビ、VR(仮想現実)ゴーグル、自動車搭載用のモニター類などへの応用が考えられ、松村さんらの取り組みで今後の開発が加速すると期待されています。
#chapter2
松村さんは大学時代、元素を分析し、後に電気化学を専攻。電気エネルギーを加えた物質が規則性を伴って形状を変えることに着目し、有機ELにも用いられるイリジウムや白金などの貴金属を化合物にする研究に特化していきます。
「化学反応のプロセスが難解ですが、私は好奇心をくすぐられました。今から約25年前、当時は非常に高価だった電子レンジをメーカー立ち合いの下で改造し、化学合成に利用するための装置を開発しました。そこが私たちのルーツです」
2003年に創業。かつてはマイクロ波を発生させるためにマグネトロンと呼ばれる真空管の装置が使われてきましたが、松村さんは仲間と共に半導体デバイスを利用した「グリーンモチーフIb」を生み出します。
「小型化に成功し、企業や大学の実験室に置くのに適したサイズで、50ccのフラスコで化学合成ができます。また、誰でも使える優れた操作性も評判ですね。大量生産はできませんが、展示会や学会を通じて受注しています」
#chapter3
現在、韓国の世界的なテクノロジー企業をはじめ、一部の機関が有機ELの開発をリードしている状態です。しかし、多くのコストとエネルギーを必要とする手法が主流であり、持続可能性の視点からも、松村さんはマイクロ波化学の普及が不可欠だろうと言います。
「子どもたちへの啓発活動として、発光体を使った“光るスライム”の作り方を教えており、みんなが目を輝かせる様子を見るとうれしいですね。私はもう十分に研究してきたので、あとは蓄えた知識や技術を次の世代に残すことが自分の役目だと感じています」
日本の産業発展に貢献していくためにも、大学や企業の研究室ともっとコラボレートしたいと語る松村さん。自身のノウハウをあますことなく伝え、教授や研究者、学生の間でディスカッションの輪が広がり、やがて世の中を大きく変えるアイデアが生まれることを願っています。
「マイクロ波について知りたい方はいつでも連絡してください。また、化学合成の分野で壁に当たっているのであれば、抱えている課題を持ち込んでいただいても構いません。解決策を一緒に考えましょう」
自分のように化学が好きな子どもや、研究に打ち込む若者を増やしたいと、マイクロ波をテーマにした著書をプレゼントしているそうです。
「ラボを立ち上げて約20年。研究資金を提供してくれる銀行や中小企業支援センター、サポートを受けている各学会には本当にお世話になっています。この場を借り、改めて感謝の気持ちを伝えたいですね」
(取材年月:2023年11月)
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Profile
化学合成の未来を変える、マイクロ波化学のプロ
松村竹子プロ
研究職
有限会社ミネルバライトラボ
電子レンジの原理でもあるマイクロ波の化学反応を利用し、主に有機ELに用いられる発光体を製造。また、マイクロ波の発信装置を開発して大学や企業に提供し、短時間、省エネ、低コストの化学合成をサポートする。
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