農業を通じた探究型教育を実践するプロ
中川隼人
Mybestpro Interview
農業を通じた探究型教育を実践するプロ
中川隼人
#chapter1
「農業を通じて、生きる力を育む探究型の教育をここ城陽から発信したい」と話すのは、「城陽農育クラブ」を運営する「マゼルプロジェクト」の代表・中川隼人さん。
敷地内にある350平方メートルの畑で季節の野菜や果物を栽培し、鶏も飼育。収穫物を使った料理や商品開発、マルシェでの販売などに、小学生から高校生までの子どもたちが主体的に携わります。
「あらかじめ定められたプログラムはありません。マルシェの日程に間に合うために何をすべきか、子どもたちで話し合って活動内容を決めていきます」
原価計算をして販売価格を決めるには算数が、出店時に店頭に掲示するポップを作るには美術が、キャッチコピーを考えるには国語の力が必要となります。また、自然相手の農業では作物が思うように育たないこともありますが、失敗の原因を考察し想定外の事態に対処することで、子どもたちの心は大きく成長します。
高校生に対しては、国や社会の問題に関心を持ち、自分事として捉え行動していく主権者教育も実践しています。
「一例として、有機農業を推進する条例を制定するため請願書提出を進めています。環境に配慮する持続可能な農業として、有機農業への転換は世界的なトレンドで、新規就農者も多いです。現状を知るため地元の農家さんに聞き取り調査を行い、国会議員さんとも面会する計画です」
国際ジャーナリスト・堤未果さんのオンラインコンテンツでアシスタントキャスターを務める中川さん。食や農業、経済に関する問題や世界情勢など、子どもたちに考えを深めてもらう機会も設けています。
#chapter2
プロジェクトを中心に学びが派生していく探究型の教育は、文部科学省も予測困難な時代を生き抜く力を育むものとして推進しています。大学受験も、高校で何に取り組んできたかを問う総合型選抜の定員が年々増えています。しかし、多くの学校では手探りの状態で、親世代も何をすればいいのか分からないという現実があります。
「当クラブの子が高校・中学受験で、栽培から調理、販売といった一連の体験をプレゼンテーションして、希望校に入学したという話も聞いています。当方のノウハウを役立ててもらうため、教育機関に提供することも検討しています」
中川さんの元では子ども食堂も開催。運営の主役は子どもたちで、畑で収穫した野菜を使ったメニューを考えたり、たき火でご飯を炊いたり、自分たちが食べるものを自分たちで作ります。作業をさぼっている参加者がいたら注意をするのも子どもたちです。
「平日は不登校の子たちを受け入れています。学校に行くより充実した一日を過ごすことを目標に、農育クラブと共通した活動を行っています」
フリースクールを転々としてきた子も、ここなら安心できると定着して通っているそうです。
「君がいてくれるおかげで、こんな活動ができているときちんと伝えることで、自分の居場所を見つけてくれたようです」
中川さんは、子どもたちが生み出す価値を受け取るのは社会であり、社会が資金を提供するのが本来の姿と考え、クラウドファンディングも立ち上げ、賛同者を募っています。
#chapter3
中川さんはFM局で番組制作に従事した後、芸能事務所の養成所スタッフに転職。スクールには未就学児から大学生まで700人以上の生徒が在籍し、毎週約20人の志望者と面談していました。数多くの人材と接する中で、受動的な子が多く、自分のやりたいことをできることに変えていく力が不足していると感じ、日本の学校教育に危機感を抱きます。
「主体的なマインドを持ち子役として活躍する生徒もいて、その多くは小学校低学年までの子でした。理由を自分なりに考えてみると、周りの大人が自分を子ども扱いしない状態を自然に受け入れるから。プロジェクトに取り組む過程で大人も子どもも対等な関係を築いていく、探究型の教育と共通性があるのではと感じたんです」
中川さんは、脳機能や児童心理、哲学などの学びを深め、教育事業に転身。現在も小児科の医師や公認心理師などに助言をもらいながら、一人一人の子どもに向き合っています。
「畑仕事の時は遊んでばかりでもマルシェでは誰よりも売る子、コミュニケーションは控えめだけど洞察力が高い子、その子なりの色を見いだすことも農育クラブの目的の一つです。『自分はこれができるけれどこれが苦手。だからできるあなたは素晴らしい、得意なあなたにお願いしたい』というお互いさまの精神が生まれるんです」
他人を尊重できて自分の尊厳をきちんと持っている人が増え、美しく混ざり合えば、世界は今より平和になるはず。そんな願いを込めて、「マゼルプロジェクト」を運営しています。
(取材年月:2024年11月)
リンクをコピーしました
Profile
農業を通じた探究型教育を実践するプロ
中川隼人プロ
教育事業
マゼルプロジェクト
野菜の栽培、収穫物を使った商品開発、販売などを子どもたちが主体的に担う中で、探究型の学びを実践。主権者教育や金融教育、子ども食堂の運営や不登校支援などを通して、自分も他人も大切にできる子を育てます。
\ 詳しいプロフィールやコラムをチェック /
掲載専門家について
マイベストプロ京都に掲載されている専門家は、新聞社・放送局の広告審査基準に基づいた一定の基準を満たした方たちです。 審査基準は、業界における専門的な知識・技術を有していること、プロフェッショナルとして活動していること、適切な資格や許認可を取得していること、消費者に安心してご利用いただけるよう一定の信頼性・実績を有していること、 プロとしての倫理観・社会的責任を理解し、適切な行動ができることとし、人となり、仕事への考え方、取り組み方などをお聞きした上で、基準を満たした方のみを掲載しています。 インタビュー記事は、株式会社ファーストブランド・マイベストプロ事務局、または京都新聞が取材しています。[→審査基準]