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「怒らせるお前が悪い」 は暴力です。DV (モラハラ)に向き合うカウンセラー

DV (モラハラ)に特化した専門カウンセラー

新井栄子

新井栄子 あらいえいこ

#chapter1

モラハラもDVです 「DV 加害者プログラム」 でアプローチします

 今や一般的に言われている「モラハラ」という言葉。些細なことで親密な相手を執拗に責め立て、人格を否定したり、威圧的な態度で追い詰めたりと、精神的な虐待行為を指します。身体的暴力を伴わないことから、DVであるとの認識が希薄になることも問題視されています。

 「DV (モラハラ)は親密な関係性で行われるため、潜在化しやすく発覚しにくい虐待だと言われています。加害者は『怒らせるお前が悪い』と自分を正当化し、被害者を自己否定に追いやることでさらに苦しめます。一人で悩まずまずご相談下さい」
 そう呼びかけるのは横浜市を拠点にする「フォロワーシップ A」のカウンセラー、新井栄子さん。DV(モラハラ)を専門とし、一回2時間のカウンセリングを実施。被害者には無料で提供しています。

 「当方はアメリカ発症の『DV 加害者更生プログラム』を採用しています。現地では逮捕された人は裁判所命令で受講を課され、自らの過ちに気付き悔い改めるものです」
 本来は、週1回2時間のグループワークを52回継続しますが、基準にこだわらず続けることが一番大事と、相談者の都合に合わせ個別対面セッションを中心に取り組んでいます。

 「DVは加害者が『変わる』、これがテーマです」と新井さん。
 「これ以外に夫婦の再構築は無いとも言われています。加害者から職場での変化を聞きますが、プログラムを受けていることは伝えていないのに、自然と部下に慕われるようになったと話す方もいます。自らを省みてDVから解放されれば、加害者自身も生きやすくなることを知って欲しいですね」

#chapter2

男社会で覚えた違和感がモラハラを理解する力に。根深い原因にアプローチ

 長年に渡り、夫と共に立ち上げた建設会社を切り盛りしてきた新井さん。かねてより心理学に興味を持ち、アドラー心理学を学ぶなかで得たものを共有したいと考えるようになります。そして誰かの役に立ちたいという思いが募り、電話相談窓口の相談員を経て独立。2015年にフォロワーシップ A を立ち上げました。DV(モラハラ)に特化したのは、自身の経験が最も生かせると直感したからだと言います。

 「建設業界はいわゆる男社会。働く中で彼らの言動に違和感を覚えることもありました」
社内外の人と談判や、駆け引き折衝を経験するなかで、ジェンダー平等への強い思いが、DV 問題に関わる新井さんのベースになっています。

 「DVの原因は、古くからある男尊女卑、家父長制と無自覚に基づいた思考にあり、自力での改善は難しいとされています」と新井さん。相談者は20代から70代まで幅広く、『ある日突然妻と子が出て行ってしまった』という方が多いとか。DV(モラハラ) 用語が知れ渡る今日、必死の思いで来談されるそうです。

 「DVの要因はさまざまですが、日本社会に根付いた家父長制的社会構造が生み出した問題と考えています。産まれ育った環境や周囲の影響で『強い男』『従順な女』が正しい姿だという価値観が支配的な構造を再現しようとするのでしょう。加害者の中には、妻に母親像を重ね、女性は何でも許し理解してくれる存在なのだと思い込んでいる人もいます。その結果、無自覚のままモラハラ行為に及んでしまうのです。家庭が崩壊しているのに理由が解らず苦しみが日々増していく、それでは誰も幸せになれないのです」

#chapter3

「怒るのは私が悪いから?」傷付いた被害者の心を立て直すために尽力

 常に人格を否定され続けた被害者は、「怒るのは私が無価値な人間だから」と自分を蔑み、心に深い傷を負っています。「DV被害者は一切悪くない」と声を大にして新井さんは伝え続けてきました。
 「責任は加害者に取らせなければなりません。“今更変わらない”と諦め服従したり、逃げたりせず、勇気を出してDV専門機関を頼っていただきたいですね。被害者もDV (モラハラ)の原因やメカニズムを知ることで、救われることもあると思います」

 「習慣となった自己否定の罠にはまってしまうのは悲しい」。日常的な圧力で囚われた心を取り放つためには DV (モラハラ) の背景構造を理解することが重要であり、自身を取り戻す一歩になると、新井さんはメッセージを送ります。

 「『変わった』『夫婦関係が改善した』という報告はもちろんですが、生き生きと別人のように明るくなった被害者の声が一番うれしいですね」

 痛みを抱えた被害者のメンタルケアに心を配る新井さんは、被害者女性限定のグループワークも構想。「辛さの共有は癒しになるはず」と語ります。

 「DV 被害者の相談を無料にしているのは、被害者が勇気を出して声を上げて行かなければならない問題だからです。一人でも多くの方が楽になって欲しいという思いで、あえて受付時間枠も設けず、突発的なSOSにも対応できるようにしています。対面とオンラインで対応していますので、いつでもご連絡下さい。話すことできっとなにかが変わります」

(取材年月:2025年4月)

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専門家プロフィール

新井栄子

DV (モラハラ)に特化した専門カウンセラー

新井栄子プロ

DV・モラハラ専門カウンセラー

フォロワーシップA

アメリカ発祥の「DV 加害者更生プログラム」を用い、アドラー心理学からの見地も取り入れ、加害者の行動変容と被害者の人生を取り戻すための支援に注力。対面、オンライン、被害者の無料相談と柔軟に対応します。

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