PROFESSIONAL
STORIES

Mybestpro Interview

「心」と「身体」に寄り添う丁寧なモノ作りの技で、生活を豊かなものに

モノづくりの技で生活と心を豊かに満たす義肢装具製造のプロ

土橋彩乃

土橋彩乃 どばしあやの
土橋彩乃 どばしあやの

#chapter1

型取りからアフターフォローまで全ての工程を義肢装具士が担当

 JR花巻空港駅からほど近い閑静な住宅街の一角にある「大沼義肢整形器製作所」。
 1947年紫波町に創業、1986年には花巻市に工房を開所し4代にわたって、病気やケガにより体の一部を失ってしまった方や身体機能が不自由な方などに、一人一人の状態に合わせた義肢や装具を製作してきました。

 特殊な機械やさまざまな工具が並ぶ工房と、補装具を必要とする方が待つ県内の医療機関、そしてリハビリ施設や個人宅などの訪問先を行き来しながら製作に携わるのは、義肢装具士の土橋彩乃さん。
 県内の義肢装具士の有資格者は数十人ですが、そのうち女性の義肢装具士は1割程度。希少な存在といえます。

 「義肢・装具とは、身体障害者手帳をお持ちの方が日常生活を送るために必要な器具のほか、一時的に怪我をされた方が骨折などの治療・リハビリの一環として用いる道具のことです。当方では、医師の処方に基づいて型取りから製作、納品、アフターフォローまで全ての工程を一人の義肢装具士が責任を持って担当しています」

 たとえば装具を付けたまま着用できるように市販の靴や長靴に細かな加工を施したり、リハビリスタッフと協力して脳卒中の方などの用いる下肢装具を製作したりと、生活のあらゆる面での不便や不安、リスクを取り除く工夫を凝らしています。

 また、2024年には新たに『乳房エピテーゼ』の製作販売をスタートしました。
 「乳房エピテーゼとは、乳がんで乳房摘出手術を受けた方のための人工的な乳房です。医療用シリコンなどの素材を使って、着脱可能な形で作られています。もちろん、お一人お一人の体型に合わせてオーダーメードで製作します。乳房切除後の選択肢の一つとして、より多くの方に知っていただきたいと考えています」

#chapter2

義肢装具製作のスキルを追求するうちに気づいた、女性義肢装具士だからこその役割

 義肢・装具の製作は医療的知識に加え、精巧に作り上げるための手先の器用さや、場合によっては芸術的センスが求められることもあるようです。

 「実は細かい作業はあまり得意な方ではありませんでした。ただ、納得するまで突き詰めていく頑固なところがあるので、人一倍、努力を重ねたつもりです」と土橋さん。
 
 “義肢装具士”という仕事があるのを知ったのは、妹の通院に同行していた幼少期。「私の手で妹にぴったりなものを作りたい」という思いから、養成コースのある新潟の医療系大学へ進みました。

 目の前の利用者さんの要望に応えようと努力を続けるなかで日々は巡り、ようやく念願をかなえたのは、既に臨床デビューから10年あまりが過ぎた頃。目標を一つクリアした土橋さんの目に映ったのは、世の中のニーズに対して義肢装具士、特に女性の義肢装具士が長く活躍できる環境が整っていない、という現状でした。
 
 「コルセットなどの型取りの場で、年齢に関わらず女性の多くから『同性のあなたで安心した』という声をいただきました。女性の義肢装具士だからこそできることがあるかもしれない、そんな思いが芽生えたんです」

 乳房切除後の選択肢の一つである『乳房エピテーゼ』にも、人の手による作業は必須。
 「乳房を失ったことで体と同様に心もバランスを崩しかねません。心理面にしっかり寄り添うカウンセリングはもちろんのこと、プライバシーを鑑みて乳房エピテーゼ自体も他の人の目には触れないスペースで製作し、ご自身だけのお胸をお作りしています」

土橋彩乃 どばしあやの

#chapter3

医療従事者の多職種コミュニティの立ち上げや、アピアランスケアの認知度向上にも注力

 2024年には「岩手県の装具療法を考える会」を立ち上げ、地域の医療現場で働く義肢装具士と理学療法士、作業療法士などが交流する場を設けました。初期メンバーは約20名で、職種間の連携や装具についての理解を深める取り組みの輪を広げています。

 また乳房エピテーゼについては当事者だけでなく、広く一般の方にも知ってもらおうとSNSなどで情報を発信。
 「再建手術に抵抗がある」「費用面が気になる」「パートナーにも紹介したい」という声には、個別の「おっぱい相談会」を開き、現状の困りごとに向き合います。

 「生活する上で大きな支障がないケースでも、喪失感やコンプレックスから逃れられないまま、体の痛み以上に苦悩している人もおられます。外見的な変化に苦痛を感じている人のための“アピアランスケア”も、都市部ほど理解が進んでいるとは言えません」

 ユーザーの身体と心を癒やすべく黙々と作業する土橋さん。工房に時々顔を出す小学生の2人の子どもたちも、その職人としての姿、あるいは母としての背中から確かに何かを感じ取っていることでしょう。

 「モノ作りの技で、利用者さんやご家族の生活を豊かなものにできる喜び。お叱りでも満足の声でも、ユーザーの生の声に触れられるという恵まれた環境。一つ一つの声にしっかりと向き合って日々の製作に励み、利用者さんの生活に寄り添い続けたいですね」

(取材年月:2025年2月)

リンクをコピーしました

Profile

専門家プロフィール

土橋彩乃

モノづくりの技で生活と心を豊かに満たす義肢装具製造のプロ

土橋彩乃プロ

義肢装具士

有限会社大沼義肢整形器製作所

地域密着の工房で義足、義手、コルセットやインソール、サポーターも含めた装具一式を型取りから製作、アフターフォローまで一貫して担当。モノづくりの技と女性義肢装具士の細やかな目線でニーズに応える

\ 詳しいプロフィールやコラムをチェック /

掲載専門家について

マイベストプロ岩手に掲載されている専門家は、新聞社・放送局の広告審査基準に基づいた一定の基準を満たした方たちです。 審査基準は、業界における専門的な知識・技術を有していること、プロフェッショナルとして活動していること、適切な資格や許認可を取得していること、消費者に安心してご利用いただけるよう一定の信頼性・実績を有していること、 プロとしての倫理観・社会的責任を理解し、適切な行動ができることとし、人となり、仕事への考え方、取り組み方などをお聞きした上で、基準を満たした方のみを掲載しています。 インタビュー記事は、株式会社ファーストブランド・マイベストプロ事務局、またはIBC岩手放送が取材しています。[→審査基準

MYBESTPRO

Other Interview