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丁寧な手仕事で生み出す、軽くて柔らかく、ふくらみのある革らしい革

シカ革を中心に、こだわりの皮革素材を製造・販売するプロ

岡本一彦

岡本一彦 おかもとかずひこ
岡本一彦 おかもとかずひこ

#chapter1

革の個性を大切にし、メーカーごとに異なる仕上げで提供。用途や目的に応じた仕上げにも対応

 「たつの市は、豊富な水資源と温暖な気候に恵まれ、古くから日本有数の皮革産業の地として栄えてきました。当社は70年前に創業し、受け継いだ技術と磨き続けた職人の手仕事によって、軽やかで柔らかく、ふくらみのある革を提供しています」

 そう語るのは、兵庫県たつの市で「岡本製革所」の代表を務める岡本一彦さん。伝統工芸品の製造元やハイブランドメーカー向けに、シカ革や牛革を製造・販売しています。

 同社の革はバッグや財布、靴、ベルトなどに姿を変え、ときに高級品の素材としても用いられます。岡本さんは同じものを作らない「希少性」を大切にし、複数のメーカーから似た革の注文があった場合でも、仕上げを微妙に変えて一つ一つの革のオリジナリティーを大事に考えています。

 「用途や目的に応じた仕上げも可能です。例えば、あるメーカーさんは、当社の革に特殊な加工を施し、バッグなどを製造されています。そのため、当方では加工をしやすい表面に仕上げて納品します。イメージを共有いただければ、適した仕上げをご提案しますよ」

 製造工程の中で特に重視しているのは、なめし前に行う「仕込み」。生皮から毛や余分な脂肪、不純物を取り除く大切な下処理ですが、分解が進み過ぎると必要なたんぱく質まで失われ、革が痩せてしまいます。
 「なめしや厚み調整も重要ですが、革の品質は仕込みの段階でほぼ決まります。猛暑で分解が進みやすい時期や、逆に寒さで進みにくい時期は避け、常に皮の状態に注意を払いながら仕込みを行います。手間はかかりますが、欠かせない工程です」

#chapter2

創業70年。スキージャンプ用グローブを開発し、日本代表の活躍を支える

 岡本製革所は1955年、岡本さんの祖父が創業しました。当時は牛革のみを扱い、スポーツ用グローブ向けの製品を主力としていました。

 「1972年、札幌で開催された世界的な大会では、大手スポーツメーカーからスキージャンプ日本代表選手のために、白地に赤い日の丸模様をあしらったグローブ用革を依頼されました。試行錯誤の末、美しい発色と優れた強度を兼ね備えた革を開発し、そのグローブを身に着けた選手たちは金・銀・銅メダルを獲得しました。日本代表の活躍にわずかながら貢献できたことは、当社にとって大きな誇りです」

 岡本さんが工場に通い始めたのは高校3年生の秋。父親が病に倒れたことをきっかけに、現場へ復帰した祖父とともに家業を支えるようになりました。大学卒業後は本格的に修業を積み重ね、祖父の背中から職人としての姿勢を学んでいきました。

 「祖父は毎朝4時に工場へ向かう実直な人でした。製革は薬の効き具合など目に見えない要素を判断し、工程を進める必要があります。その感覚は一朝一夕で身につくものではなく、祖父のように毎日皮と向き合い、黙々と作業を積み重ねることで培われるのだと実感しました」

 ニュース番組以外はほとんどテレビを観ないほど仕事一筋だった祖父。「当時は自分とは全く違うタイプだと思っていましたが、仕事との向き合い方は近いのかもしれません。最近は『おじいさんに似てきたね』と言われることが増えました」と岡本さんは笑みを浮かべます。

#chapter3

繊細な手触りや高級感が際立つシカ革に特化、新しい素材の開発も視野にメーカーのものづくりを応援

 近年は温暖化の影響でウィンタースポーツ用品の需要が減少し、同社の牛革は警察官や消防士のグローブ向けが一部残るのみとなりました。その一方で、シカ革の取引量が全体の8割を占めるまでに拡大しています。

 「シカ革は牛革に比べて小さく、製革にも手間がかかります。しかし繊細な手触りと高級感は群を抜いており、単価もトップクラスです。祖父から事業を受け継ぐにあたり、会社を守っていくには時代のニーズを先取りし、求められる商品を積極的に提案し続けることが欠かせないと考え、思い切って牛革中心からシカ革中心へと舵を切りました」

 国内の製革所の多くは牛革が主流で、シカ革を安定供給できる会社は現在、岡本製革所を含めてわずか数社。その希少性と品質へのこだわりが評価され、複数のメーカーに長く愛用されています。

 最近、取引先のバッグメーカーが海外展開を始めた影響で、「海外メーカーからの問い合わせも増えている」と話す岡本さん。人手不足やコスト高騰など、ものづくりを取り巻く環境が厳しさを増す中でも、国内と同様に信頼関係を大切にするメーカーとの取引を望んでいます。

 「原材料の特性を最大限に生かした丁寧な手仕事こそが、日本のものづくりの魅力です。当社は従業員とともに、どうすればお客さまに喜んでいただけるかを日々話し合いながら革と向き合っています。メーカーと長期的にお付き合いし、新しい素材の開発協力などを通じてものづくりを支える存在でありたいと思います」

(取材年月:2025年8月)

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シカ革を中心に、こだわりの皮革素材を製造・販売するプロ

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皮革素材の製造・販売

岡本製革所

創業70年で培ったノウハウを生かし、シカ革を中心に、軽くて柔らかく、ふくらみのある革を製造しています。こだわりの革は、伝統工芸品の会社やハイブランドメーカーのバッグ用で愛用されています。

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