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古民家再生に現代の技術を活用し、住む人が安全で快適に暮らせる住まいへ

耐震性と断熱性を強化し、古民家の再生に取り組むプロ

竹内重宏

竹内重宏 たけうちしげひろ
竹内重宏 たけうちしげひろ

#chapter1

大工として寺社建築に携わった経験を生かし、独立。耐震補強にも精通

 地方移住やサステナブルな暮らしに関心を寄せる人が増える中、古民家に注目する動きが広がっています。しかし、耐震性や断熱性、改修にかかる費用などへの不安から、活用に踏み切れない人も少なくありません。そうした声に耳を傾け、伝統建築と現代の施工技術を掛け合わせた住まいづくりを行っているのが、加古川市に拠点を置く「竹内建築」代表・竹内重宏さんです。

 大工として寺社建築の改修に携わった経験を持つ竹内さんは、二級建築士と木造建築士の資格を保有し、古民家鑑定士としても活動しています。所属する全国古民家再生協会でも、さまざまな耐震補強技術について学びを深めてきました。

 1981年の建築基準法改正以降、日本の住宅はコンクリートで基礎を固め、安全性を重視する「耐震」構造が主流に。一方、古民家のような木造建築は、柱や梁を組み合わせて揺れを吸収し、建物全体で力を逃がす「免震」構造。現代建築とは、住宅に対する考え方や構造が異なる古民家を、今の建築基準に適合させる技術が求められます。

 「耐震を強化する方法は、ダンパーを設置して揺れを抑えたり、格子状のパネルを外壁に設置して免震性を高めたりするなど多様で、耐震と免震のどちらが良いとは一概に言えません。後者は、壁を壊さず現在の美観を損なうことなく取り付けられるので、古民家ならではの情緒を残したい方にはおすすめです。暮らし方や大切にしたいことに合わせ、適した補強方法をご提案します」

#chapter2

家は住む人の命を守る砦。冬の寒さを回避する方法もアドバイス

 「床や壁、天井など全てを取り払ってみて初めて、どこに傷みが生じているのかが分かります」と竹内さん。築100年の古民家を活用して農業交流施設を手掛けた際には、シロアリに浸食された柱を持ち上げ、傷んだ部分のみを切り取り、新しい木材に取り替えました。畳の下に敷かれた木材には腐朽菌が繁殖していたため、床下に除湿剤を敷き詰めて床下の湿気を除去。陶器の浴槽にしたいという建て主の要望に応え、信楽焼で製作し、壁や天井には水に強いヒバ材を活用しました。

 「古民家は直接地面にコンクリートを打たず、礎石の上に柱を立てます。地面に近い分、湿気を含みやすく、周囲に海や山、川、田んぼなどがあるとさらに湿気がこもりやすくなります。柱の根元が腐ると、家の傾きや沈下につながるので、空気の通りを良くすることが重要。シロアリも湿気も、耐震性を低下させる要因になります」

 竹内さんが耐震の重要性を再認識したのは、古民家再生協会の依頼で能登半島沖地震の被災地を訪れた時のこと。古い家々が傾きながらも、全壊を免れた姿を目の当たりにしました。
 「阪神淡路大震災では、土台が崩れて建物は跡形もありませんでした。その違いに触れたことで、家は命を守る砦なのだと実感しました」

 夏は涼しく、冬は寒いという古民家の特徴にも触れ、断熱性を高める必要性を強調します。
 「例えば窓をペアガラスに変えると、断熱効果だけでなく、結露防止にもなります。断熱対策は、壁、床、屋根などにも施すこともできるので、どの方法が良いのか一緒に考えていきましょう」

竹内重宏 たけうちしげひろ

#chapter3

深刻化する空き家問題。失われていく古民家の文化的価値を憂慮

 竹内さんは、人口減少や高齢化などによって深刻化する空き家問題にも関心を寄せています。総務省によると、2023年時点での空き家率は過去最高の13.8%。今後も増加が予想されています。

 「空き家問題を解決するのであれば、再生するか壊すしかありません。壊してしまえば、地域の自然環境や風土に合わせて築かれてきた古民家の貴重な文化的価値が失われてしまいます。でも、それだけではないんです。木の節や曲がり、太さなどをうまく生かした造りは、均一に整えられた部材を使う今の住宅にはない、美しさがあります」

 近年は、その良さに気付いた外国人が、古民家などから取り出された、再利用可能な木材を輸入して家を建てるケースが増えているとか。そんな話を聞くたびに竹内さんは、古民家の価値を生かして残す努力をしていかなければと考えるそうです。

 古民家の改修には補強や設備の更新が必要であるため、それ相応の費用がかかるものの、国や自治体でさまざまな補助金制度が準備されていることにも言及。先に紹介した農業交流施設は、耐震や断熱工事のほかにも、空き家活用や地域交流を対象にした補助金の対象になり、全体経費の3分の1ほどを賄うことができたといいます。

 「今後は、さらに耐震補強と断熱強化について究め、空き家問題の解決にも取り組んでいきたいと思います。実は、神戸と能登で見た被災地の光景が目に焼き付いているんです。命を守れないと幸せに暮らせませんから」

(取材年月:2025年7月)

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竹内重宏

耐震性と断熱性を強化し、古民家の再生に取り組むプロ

竹内重宏プロ

建築士

竹内建築

家は住む人の命を守るための場でもあることを念頭に、耐震性を強化した古民家のリフォームに注力。依頼主が気になる断熱性や費用の問題についても適切にアドバイス。将来的にはドローンを活用した点検も構想。

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