広島県呉市・阿賀の魚とこだわりの米を全国へ届ける食のプロ脇田忠司

広島県呉市・阿賀の魚とこだわりの米を全国へ届ける食のプロ

脇田忠司

春はタイやサワラ、夏はエビやハモ、スズキ、水イカなど旬の地魚を展開

　「日本一の生産量を誇り、大粒で身が厚く濃厚な味わいのカキ、こいわしが有名ですが、広島県の海の幸は多彩で、多くの方にご賞味いただきたいですね」

　そう話すのは、呉市の阿賀港近くに鮮魚店を構える「お魚もお米も鮮度が一番！天糸（てんし）」の代表・脇田忠司さん。

　島々に囲まれた瀬戸内海は、穏やかな海と温暖な気候により多様な生態系を生みだしています。脇田さんは豊かな海で育まれた海産物と、全国の産地で選び抜いたこだわりのお米を、実店舗とオンラインショップで販売。旬の食材や家庭・ギフト向けの提案に加え、飲食店からの仕入れ相談にも柔軟に対応しています。

　「阿賀港では、一年を通してほぼ毎日、魚介類が水揚げされています。春はタイやサワラ、夏にはエビやハモ、スズキ、水イカがおすすめです。風味を損なわないよう、とれたてをすぐに店へ運び、内臓やうろこなどを取り除く下処理を行います。当店では、身が引き締まって生きが良い旬の地魚をそろえています」

　店頭では料理法もアドバイスし、四季折々の素材を刺し身にしたり、焼いたり煮たり、いろんな献立に利用してほしいと呼び掛ける脇田さん。店名に込めた思いの通り、魚もお米も、鮮度を何より重視しています。

　海鮮物は水揚げされたその日に店頭に並べ、オンラインショップでは三枚おろし、揚げ物やあぶり物など、加熱調理した商品も展開しています。お米についても、酸化による劣化を抑えるため注文ごとに精米して発送。目安として賞味期限は2週間ほどだそうです。

　「魚もお米も、時間がたつとどうしても味や食感が変わってしまいます。だからこそ、できるだけ新鮮なうちに加工し、素材本来のおいしさをお届けできるよう心がけています」

釣りに明け暮れる学生時代を経て家業の米穀店を継ぎ、漁師も両立

　漁師として、漁船「白虎丸」で漁に出る脇田さん。海の近くで育ったこともあり、釣りが大好きな少年だったとか。

　「学校が終わると、釣りざおを抱えて海へ直行するような学生時代を送りました。車より先に船の免許を取ったほどで、海で過ごす時間が日々の楽しみでしたね」

　高校卒業後は家業である米穀店に入り、父親のもとで米の目利きを学んだ脇田さん。店を切り盛りする中、阿賀漁業協同組合で念願だった漁業権も取得。2022年には米穀店を統合し、「お魚もお米も鮮度が一番！天糸（てんし）」として、新たなスタートを切りました。

　阿賀港では底引き網を使ったエビ漁が盛況で、とろけるような甘味と食感が特長とのこと。約1000メートルの網を潮流や風に乗せて絡めとる「サワラ流し網」と呼ばれる漁法も盛んで、4月から7月ごろにかけて漁獲。春を告げる魚として知られるサワラは、上品な味わいで、女将いわく、瀬戸内のトロ。

　「昔から日本人が親しんできた魚介やお米を数多くのご家庭に届けることが、目標の一つです。当店では、お子さんやご高齢の方にも食べやすいように、魚の多くは骨の除去を施してご提供しています」

　オンラインショップでは、子どもでも食べやすい、骨なしの身、フライやつみれ、炊飯器で手軽に作れる「漁師めしの素」なども取り扱っています。

　「栄養をたっぷり含む魚のおいしさを、広く知ってもらえるきっかけになればと考えています。ちょっとした工夫で、『魚が好き』というお子さんがもっと増えることを願っています」

地元のお祭りやイベントに出店し、子どもたちに日本食の魅力を発信

　「魚は、古来より私たちの大切なカルシウム源だったと言われています。主食であるお米は、長い時間をかけて日本人の味覚に合うように改良されてきました。日本の食文化に触れてもらいたくて、地域のお祭りやイベントに出店し、阿賀の魚と国産米を使った炊き込みご飯『漁師めし』をはじめ、フライや煮物などを中心に販売しています」

　顔と顔を合わせる対面販売を通じて来店者と言葉を交わし、海の恵みである魚介と大地の産物であるお米の魅力を伝えている脇田さん。五升釜で炊きあげる「漁師めし」や、エビの唐揚げ・魚のフライは子どもたちにも好評だと目を細めます。

　「昨今は食事がバラエティーに富んでいます。魚介類の摂取量が減少傾向にあるいま、子どもたちの『魚離れ』を少しでも食い止めたいという気持ちが強いですね」

　魚の臭みが残らないように丁寧に下処理し、骨もしっかり取り除き、手間ひまをかけて食べやすい形で提供。地元の催しで脇田さんのお店を知り、後日、店舗に足を運んでくれたり、オンラインショップから注文してくれたり、少しずつ認知度が拡大。「うちの子、魚を食べるようになったんです」と声をかけられることもあり、何よりの喜びだと笑顔を見せます。

　「魚の下ごしらえは義母（女将の母）から、米を見極める目は父から教わりました。代々受け継いでいく流れを絶やさず、日本ならではの食を次の世代へ紡いでいきたいですね」

（取材年月：2025年7月）

広島県呉市・阿賀港で水揚げされる魚と、全国の産地で選び抜いたこだわりのお米を全国へ

春はタイやサワラ、夏はエビやハモ、スズキ、水イカなど旬の地魚を展開

釣りに明け暮れる学生時代を経て家業の米穀店を継ぎ、漁師も両立

地元のお祭りやイベントに出店し、子どもたちに日本食の魅力を発信

専門家プロフィール

Other Interview