演劇がもたらす豊かな時間や活用方法を多くの人に伝えるプロ
岩﨑きえ
Mybestpro Interview
演劇がもたらす豊かな時間や活用方法を多くの人に伝えるプロ
岩﨑きえ
#chapter1
「時に泣き、笑い、演劇には観る側、演じる側双方の琴線に触れ、共鳴を起こす力があります。喜怒哀楽を表し、自分の考えや感情を伝える自己表現力を高め、言葉を紡いで語らう中でコミュニケーション力を育むことができます。私たちは、演劇を通して互いを認め合い、さまざまな個性を持つ人が共生していく場をつくりたいと考えています」
そう語るのは、広島市を拠点にする「舞台芸術制作室無色透明」代表の岩﨑きえさん。「日常生活の中で劇場に足を運ぶ人を増やし、良質な演劇に触れてもらうことで、演劇がさまざまな人々にとって人生の中で豊かな時間をもたらす機会となってほしい」との理念を掲げ、公演をプロデュース。地域の人材による地力ある作品を生みだしたいと「広島アクターズラボ」も開講し、俳優やスタッフの育成にも注力しています。
「演劇をしているというと舞台に立っているイメージを持たれがちですが、当方が担っているのは『企画・制作』です。プロジェクトやイベントの趣旨に合わせた演目の設定、資金繰り、スケジュール管理など、公演全体のかじ取りを行っています。パフォーマンスの機会を創出し、たくさんの方に観てもらえるよう、全国各地に赴いています」
また、障がい者と共創したり、福祉施設や学校、企業でアート体験やワークショップを開催。演劇を軸に多彩な活動を展開しています。
「舞台に上がると『特性』が『個性』に変わるんです。『共に創る舞台芸術作品』として、演じる側にも観る側にもパーソナリティーに富んだ登場人物が、いきいきと織りなす物語を楽しんでほしい。演劇は人々の成長や社会貢献にも資するものだと、多くの人に知ってもらいたいですね」
#chapter2
高校卒業後、短大の放送コースへ進学した岩﨑さん。演劇科の学生たちが、体を使って表現するためにバレエや日舞の稽古に励む姿に心を打たれます。
「高校では放送部に所属していました。原稿を読むことには慣れていたので身につけた技術を生かし、新しい世界に挑戦してみたいと演劇の道に進むことを決めました」
当初は演者でしたが、次第に芸術祭の運営などに携わるように。劇団の制作スタッフや演出助手としてクリエーションに関わるうちに、世の中にある素晴らしい作品を多くの人に届けたいという思いを強くした岩﨑さん。創り手として現場に臨む中で耳にした言葉が、プロデューサーとしての原動力になっています。
「『本当に演劇の力を必要としているのは、今、劇場に来ることができない人かもしれない』と聞いたとき、ハッとさせられました。貧困、虐待、障がいなど、経済面や心身のコンディションに不安を抱える方にとっては、劇場に行くという選択肢すらないと気づきました。置かれた環境、障がいの有無など枠組みを取り払い、共に生きる社会を創造したいと思ったんです」
2010年に「舞台芸術制作室無色透明」を設立。演劇はチケット販売が主な収入源であり、採算を取るのが難しいため、自らは会社勤めをしながら組織を運営しています。
「メンバーが少しでも収入が得られる仕組みを作るのが目標です。『人の役に立ちたい』という幼い頃からの夢を、演劇の仕事を通じて実現したいですね」
#chapter3
舞台に立つという行為は、観客を引き付ける演技力、構成や演出を覚える記憶力など、多くの力が求められます。
「舞台はライブですから、相手役がセリフを間違えるといったアクシデントもつきものです。一度幕が上がれば、途中で止めることはできません。おのずと舞台俳優には臨機応変に対応する力、状況を察知する力、他者と問題を共有する力が養われます。彼らが身に着けた能力は、社会の色々な場面で役立てられると思っています」
当事者が得る達成感はもとより、岩﨑さんは周囲の人たちにもポジティブな影響を与えていると実感しています。
「特に子ども~10代を対象にした事業では、影響や変化を親御さんにも顕著に実感してもらえることが多いです。ただ、人には得手・不得手がありますから『演劇は苦手』でも全然良い。演劇がすべての人に於いて素晴らしいものである必要はありません。要は『苦手と知る機会・感じる理由』にまず出会って欲しい」
多様な文化背景を持つ人々が暮らす海外では、早くから学校教育に演劇が取り入れられていますが、日本の教育課程では導入されていません。
「自分とは違う人物を演じる中で他者の気持ちを推し量り、理解を深め、みんなで台本について話し合う過程で個々を尊重する協調性や、協力して物事を成し遂げるチームワークなどを学ぶことができ、それらは非認知能力の育成や人格形成、社会生活でも活用できると考えています」
「感じて・動く」をモットーに創作に励む岩﨑さん。「演劇の魅力とその有用性を伝えることが私の使命」と力を込めます。
(取材年月:2025年7月)
リンクをコピーしました
Profile
演劇がもたらす豊かな時間や活用方法を多くの人に伝えるプロ
岩﨑きえプロ
舞台プロデューサー
一般社団法人舞台芸術制作室無色透明
地域俳優を育成し観劇を楽しむ機会を提供する他、障がい者との演劇創りや、福祉施設や学校、企業などで自己発見やコミュニケーションなどを学ぶワークショップを開催。演劇が持つ「力」を社会に役立てる活動を展開。
\ 詳しいプロフィールやコラムをチェック /
掲載専門家について
マイベストプロ広島に掲載されている専門家は、新聞社・放送局の広告審査基準に基づいた一定の基準を満たした方たちです。 審査基準は、業界における専門的な知識・技術を有していること、プロフェッショナルとして活動していること、適切な資格や許認可を取得していること、消費者に安心してご利用いただけるよう一定の信頼性・実績を有していること、 プロとしての倫理観・社会的責任を理解し、適切な行動ができることとし、人となり、仕事への考え方、取り組み方などをお聞きした上で、基準を満たした方のみを掲載しています。 インタビュー記事は、株式会社ファーストブランド・マイベストプロ事務局、または中国新聞社が取材しています。[→審査基準]