この道約60年。古地図・城資料の探索のプロ
富原道晴
Mybestpro Interview
この道約60年。古地図・城資料の探索のプロ
富原道晴
#chapter1
日本全国の城郭関連の書物は数万冊、城古絵図は数百点、古地図や鳥瞰(ちょうかん)図は数千点、浮世絵に代表される木版画の錦絵は数百点、絵はがきなども含めると、占めて約16万点。
群馬県安中市にあるミュージアムショップ「古地図と城 古書肆 城郭文庫」の品ぞろえは圧巻です。店主は城郭研究家の富原道晴さん。愛知県名古屋市にある徳川美術館など各地の文化施設に所蔵品を貸し出し、展示会開催に大きな役割を果たしてきたコレクターでもあります。
「数年前から、60年以上にわたり収集してきたコレクションを国内最大級の古書サイト『日本の古本屋』を通じて通信販売も始めました。2024年5月の時点で、約1万7000点を サイトで紹介しています」
多くの人にお城の魅力や日本の歴史を知ってもらい、探求してほしいと、毎日のように書籍をアップし、アイテム数を増やしている富原さん。山や海といった地形を生かした山城や水城、緻密に石垣を積み上げた平城と、持てる限りの知識・技術・美意識を注ぎ込んで造られた城は、先人の知恵の結晶と語ります。
「70代後半を迎えて未来を考えたとき、これらの貴重な記録を次世代につなぎ、有効に生かしてくれたらと願うようになりました。幅広い時代・地域の文献を集めてきましたので、全国の歴史・文化に関わる方にサイトをご覧いただけたら、必要な資料がきっと見つかるはずです」
全国の大学、博物館、図書館、教育委員会、さらには海外からも、1年間で数100件の購入があり、文化財調査に活用されています。
#chapter2
大阪生まれの富原さん。城の魅力に開眼したのは12歳のときで、暇さえあれば自転車で古書店を巡りました。高校生の頃には新幹線に乗り東京へ。神田神保町の古書店街に足を延ばします。
学生時代は、日本城郭近畿学生研究会の設立に参画。機関誌「城春」を発行し執筆に取り組みます。大手インキメーカーに就職後は週末を利用して全国の古書店を訪ね、仕事のかたわら、城郭研究に取り組みました。
「上海、パリ、ブダペスト。どこへ出張に行っても、視察や講演会の合間に古書店や古物・骨董品店を訪ね歩きましたね。言葉が通じなくても“熱”は伝わる。お城は世界に共通する資産で、いずれの場所でも興味深い品や、価値を共有する素晴らしい仲間に出会いました」
また講演依頼を受けたり、各地の商工会議所と協力して展示会を開催したりと多方面で活動。1991年に古物商の免許も取得し、城郭資料コレクターとして活動を盛んにしました。
「1998年、長野県上田市に時代小説家の池波正太郎真田太平記館が完成すると、上田商工会議所と『戦国時代の城と合戦絵図展』をテーマに開館記念展を催しました。武田氏と真田氏の築城史や、上杉・北条・徳川・織田・豊臣氏と相対する真田氏の軍略を描き出した壮大なストーリーは好評で、1週間の会期中、1000人以上が来場しました」
大盛況を収めたのを機に、城図書の報告・交換会を開始したり、「しろはく双書」で所蔵資料の公開にも努めてきました。
#chapter3
富原さんは2000年に、自宅があった東京都板橋区に「しろはく 古地図と城の博物館富原文庫」を開設。故郷の大阪と分割していた膨大な所蔵品を集約しました。
「2012年、42年間の会社員生活を終えて“24時間城漬け”に。翌年には群馬県古書籍商組合に入会して古書の情報網も築き、『城郭文庫』を開業しました」
以降、古絵図・古地図・錦絵は、東京ビックサイトで行われる「骨董ジャンボリー」や東京流通センターの「平和島骨董まつり」で広く展開。日本古本屋ネットや古書同好会目録に参加、研究機関に城古絵図を提供しました。
会社員時代に、国内外で広げたネットワークを駆使して築き上げた富原さんのコレクションからは近年、歴史的発見がありました。幕末の内戦や空襲で焼失したと思われていた明治初期の「陸軍省城絵図」がフランスで見つかり、買い取って研究。成果を「富原文庫蔵 陸軍省城絵図」(戎光祥出版)にまとめました。
「城跡を軍事転用するため、当時の陸軍省築造局が作成したものと認定し、発表できたことで、それまで各地にバラバラに散在していた資料の意義を確定しました。繊細で美しい絵図などを通じて、城郭に魅力に触れていただければ幸いです」
(取材年月:2024年4月)
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富原道晴プロ
古地図・城資料専門古書店
古地図と城 古書肆 城郭文庫
先人の知恵が詰まった歴史的資料を次の世代へ。60年にわたり日本全国の古書店から収集した約16万点の古地図・城関連資料を、国内最大規模の古書サイト「日本の古本屋」にて販売中。
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