「福祉もビジネスも100％」を実践する障がい者雇用支援のプロ荒巻健志

「福祉もビジネスも100％」を実践する障がい者雇用支援のプロ

荒巻健志

利用者の力を見極め、毎年就職につなぐ就労支援

　福岡県柳川市に拠点を置く「soil」は、障がいのある人が地域で働き続ける力を育むことを目的に、就労継続支援A型・就労選択支援を中心に事業を展開しています。利用者が事業所と雇用契約を結び、最低賃金以上の給与を得ながら働くA型事業は、安心して実務経験を積み重ね、将来的に地域企業での雇用へとつなげていくための大切なステップとなっています。

　同社が重視しているのは、一人一人に合わせた支援。
　「支援の出発点は、利用者を理解すること。能力や得意不得意、性格といった個性を丁寧に見極めてこそ、次のステップを共に描けるのだと思います」と代表の荒巻健志さんは語ります。

　実際に、知的障害のため就職が難しいとされていた利用者を、利用開始からわずか半年で就職へとつなげた事例があります。その人が持つ「覚えた仕事を忘れない」という特性を強みとして見いだし、企業での施設外就労に臨んでもらったところ、働きぶりを高く評価した企業から直接就職の打診があったのです。

　また、就職後の定着支援も同社の大きな強みです。企業担当者に対しては、声のかけ方や指示の伝え方といった細やかなコミュニケーションの工夫を助言し、利用者が安心して働ける環境を整備。企業と利用者の双方が気持ちよく関われるよう寄り添い続けた結果、安定した就労につながっています。こうした取り組みにより、毎年地域企業に新たな就職者を送り出し続けています。
　「単に働く場を提供するのではなく、その人の力を見つけ出し、強みに変える。そして事業所を卒業し、地域で活躍する未来を描くことが、私たちの運営方針です」

異業種経験を生かした多角展開で「福祉も100％、ビジネスも100％」

　荒巻さんは福祉専門学校を卒業後、高齢者施設で経験を積みました。その後、一般企業で営業職を経て、27歳のときに介護業界へ戻り、そこで初めて障がい福祉と出会います。福岡市内の事業所で就労継続支援B型の立ち上げや運営に携わり、「利用者の能力が花開く瞬間に立ち会えることに、大きな喜びと面白さを感じた」と強く実感。その思いを胸に、2016年に地元・柳川市で起業しました。

　しかし、待ち受けていたのは「地域性」という大きな壁でした。
　「都市部と異なり、柳川は中小規模の企業が中心で職種の選択肢も限られる。多様な特性に合わせた就労機会を創出するには、事業所自体が幅広く事業を展開する必要があったのです」
　こうした課題を乗り越えるために、アパレル、農福連携、美容といった分野へ事業の幅を広げていきました。その背景にあったのは「支援者の経験も活かす」という考え方です。異業種で経験を積んだ人材を積極的に採用し、それぞれのスキルを事業に反映。結果として、新しい雇用やサービスが次々と生まれています。
　アパレル事業では販売経験者が接客を担い、農園カフェでは飲食経験者が運営を主導。美容事業ではサロン勤務の経験者が中心となり、利用者も特性に応じて関わることで柔軟な働き方を実現しました。

　「福祉も100％、ビジネスも100％。どちらも諦めずに全力でやりたいんです。『施設で作ったから買ってください』ではなく、商品やサービスそのものの価値で選ばれるものを提供したい」
　荒巻さんの攻めの姿勢は、利用者の可能性を広げるだけでなく、地域社会にも新たな風を吹き込んでいます。

10年の知見を生かし、企業と地域を支える支援へ

　起業から10年余り。荒巻さんは今、社会福祉士、サービス管理責任者として現場で培ってきた経験を企業や他事業所へ還元する取り組みを始めています。障がい者雇用に関する企業へのアドバイスや、A型事業所の経営改善支援など、コンサルティング業務に力を入れていく方針です。

　「障がい者雇用は取り組み方が分からない企業も多いです。また、『自社で障がい者に任せられる業務がない』と考える企業もありますが、IT、食品、物流、製造、観光など幅広い業界に就職者を送り出してきた経験から、どんな業界にも必ず活躍できるフィールドはあると私たちは考えています。経験を基に、支援機関やジョブコーチ制度との連携、補助金の活用、業務の切り出し方や受け入れの工夫など、現場で培った実務的なノウハウを具体的にお伝えしていきたいですね」

　また、最低賃金の上昇や人材確保の難しさに直面するA型事業所には、生産性の指標化や業務改善の仕組みづくりなど、経営面での支援を検討。自身が事業所を経営してきた経験があるからこそ、現場感覚のある支援を強みとしています。

　「目指すのは利用者、企業、地域の『三方よし』。企業や事業所の相談を受けることで、柳川で築いたモデルを他地域にも広げ、地域資源を活かして障がい者が働きやすい仕組みをつくり、地方に新しい雇用を生み出したいですね。制度改正や新たな資格創設にも備え、福祉とビジネスの両面から地域を元気にしていければと思います」

（取材年月：2025年9月）

地域に持続可能な雇用を生み出す障がい者就労支援の知見で支援

利用者の力を見極め、毎年就職につなぐ就労支援

異業種経験を生かした多角展開で「福祉も100％、ビジネスも100％」

10年の知見を生かし、企業と地域を支える支援へ

専門家プロフィール

Other Interview