危険な石積みを崩壊から守るプロ
杉山信二
Mybestpro Interview
危険な石積みを崩壊から守るプロ
杉山信二
#chapter1
近年、ゲリラ豪雨や地震による土砂災害などとともに、住宅の石積み(石垣)の崩壊といったニュースを耳にします。特に高度成長期の建築ラッシュの時期に山の斜面に建てられた住宅は、石積みが老朽化して崩れやすくなっています。しかし、石積みの目地(石と石の隙間)をモルタルで埋めるような表面的な補修では、石積みの中に流れ込む水が抜けなくなったりして却って危険。しっかりした対策をとろうとすると、家を壊して石積みを造り替えなければならず、数千万円という莫大な費用がかかるというのがこれまででした。
その新しい対策として、石積みそのものをやり替えることなく、水も抜ける「モルダム工法」という独自の石積み補強方法を考案したのが、九州防災メンテナンスの代表・杉山信二さん。崖や斜面の補強のプロです。
「モルダム工法だと、安価で安全な状態にできます。石積みが崩れると人命にも関わりますし、修理するのにも大変な金額がかかりますが、その前に補強することが可能なんです」と杉山さんは言います。モルダム工法は北九州市の防災アドバイザーを務める西日本工業大学の玉田文吾名誉教授も有効性を認め、見解書を著しています。
#chapter2
北九州市でも、特に八幡、若松、戸畑、門司といった地域は山の上の方まで住宅がひしめく、石積みの多いエリアです。もともと法面(のりめん)と呼ばれる、道路や造成地の脇の斜面の安定工法を専門とする杉山さんは、地元・北九州市より石積みの防災対策についての相談を以前から受けていました。
設計や開発業務を得意としていた杉山さんは、石積みの中に接着性の高い専用充填材を注入し、石積みを一体化して補強する方法に取り組みます。接着性が高く注入しやすい(流動性が高い)という相反する特性をもつ専用充填材の開発や、専用充填材を石積みの内部にしっかり注入する方法、石積み内部の水抜きなどいくつもの課題がありましたが、5年近くの歳月をかけて試行錯誤を繰り返した末に、杉山さんは開発に成功。専用充填材はメーカーの協力を得てオリジナルの製品を安定生産できるようになり、水抜きの問題も、専用充填材の注入前に排水パイプの役割をする防水加工シートを石垣の隙間に挿入するという方法で解決しました。これが「モルダム工法」と名付けられ、平成27年1月には特許も取得したのです。
「この経験がない建築屋さんや土木屋さんは、どうしても大掛かりなやり替えを考えてしまうので、できるだけ多くの方にこの工法を知ってもらいたいですね」と杉山さん。写真はモルダム工法の施工前後の石積みで、民家の石積みだけでなく、川岸や切り通しなど公共の工事でも実績を上げています。
#chapter3
では、石積みがどのような状況だと補強が必要なのでしょうか。「大切なのは石積みをちゃんと見ることです。亀裂の入った石がないか、石がずれていないかなどの変状を冷静に観察してください」と杉山さんは話します。異常が感じられるようだったら、早期に対策を講じなければなりません。また、沢状の地形の場所は特に注意が必要です。表面には見えなくても地下を通じて水が集まりやすいので、石積み内部の土砂の粘着力が落ちたり、土砂が液状になって石積みに内側から圧力をかけたりすることもあるからです。
「石積みの風化の進み具合はバラバラですが、危険な石積みがこれからどんどん増えてくることは間違いありません」と杉山さん。心配な場合は相談を受け付けているので、問い合わせてみるといいでしょう。
また、特に異常がなくても、家を建て替える場合、現在の建築法では自然石の石積みが崖を支える擁壁としては認められていないため、石積みの補強が必要になる場合もあります。「石積みの石が砂岩のような脆いものだと難しい場合もありますが、花崗岩などしっかりした石で組んだものであれば、モルダム工法で固めることで長い年月もちますから」
モルダム工法での補強は、問合せを受けてから現地調査と見積もり、工程の打ち合わせを行ない、施工となります。工事の規模にもよりますが、工期は2週間前後が目安。費用も工事の規模・状況によって変わりますが、普通の住宅でおよそ100万円前後、大きな住宅ならば200万円前後。部分的な補修ならば数十万円で終わることもあるといいます。遠方でなければ、現地調査は無料。まずは杉山さんに相談してみてはいかがでしょう。
(取材年月:2015年7月)
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危険な石積みを崩壊から守るプロ
杉山信二プロ
九州防災メンテナンス株式会社
法面などの斜面の安定工法で培った技術を生かし、北九州市の住宅に多い石積みを安価に補強する工法を開発。同市の防災アドバイザーの推薦を受け、石積みの崩壊防止に実績を上げている。
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