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電力小売事業を人口減少や産業衰退の歯止めに。水力、地熱、風力、太陽光の恩恵で地域に潤いを

再生可能エネルギーで地域の電力自給と利益還元を実現するプロ

山本由実

山本由実 やまもとゆみ

#chapter1

鹿角市などの出資による第三セクター。秋田県内の豊富な再エネ資源を活用し電気の地産地消を目指す

 水力、地熱、風力、太陽光といった発電所を有し、市内で使用される電力の約4倍をまかなうことができる鹿角市。その一つである八幡平山系の河川を利用した永田発電所は、鉱山採掘のために1898年に運転を開始し、現在も現役で稼働しています。

 「こうして鹿角市は高い電力自給率を誇り、2030年までに二酸化炭素排出量の実質ゼロを目指す『ゼロカーボンシティ』を宣言しています」
 そう話すのは、エネルギー資源を市民の暮らしに生かすべく、鹿角市が中心となって設立された電力小売事業会社「かづのパワー」でマネジャーを務める山本由実さん。2019年の創業時から参画し、市内の再生可能エネルギー電源を活用して「電気の地産地消」と「利益の地域還元」に取り組んでいます。

 供給先は主に公共施設や工場。また、市内にとどまらず秋田県内の病院、旅館、高齢者施設とも契約し、利用料金を抑えるなどのメリットを提供しています。

 「電力は季節や時間帯、需給バランスに応じて30分ごとに卸価格が決まります。相場を読み、適正価格で仕入れ、安定してお客さまに提供するのが私たちの役割です」

 さらにオール電化プランやガスとのセット割引を適用している場合を除けば、一般家庭でも同社のコンサルティングで電気代を下げられる可能性があるといいます。

 「令和の米騒動やクマ被害、相次ぐ猛暑日や記録的短時間大雨情報など、地球温暖化の影響とされる変化を身近に感じます。こうした流れを少しでも緩和できるのが再エネ電力だと思うので、ぜひ関心を持っていただきたいですね」

#chapter2

故郷が被災した東日本大震災を機にエネルギーを学ぶ。デメリットも正直に伝える営業姿勢で信頼を獲得

 幼い頃からリーダーシップを発揮してきた山本さんは、やがて経営者の道に興味を示すように。生花店を営む夢を持ち、宮城県仙台市の自宅からほど近い東北学院大学でビジネスを学びます。

 「在学中に花き卸売市場でアルバイトもしていました。大学後に結婚して鹿角市に移住し、しばらくは専業主婦でしたが、育児と両立できる仕事を探して『八幡平地域づくり協議会』の職員になったんです。催事の運営や生涯学習の支援を担当し、たくさんの地元の方々とつながれたことが、今の活動の原点です」

 その後、地域課題により強く関心を持つようになり、東日本大震災で故郷・宮城や隣県・福島が被災したことをきっかけに、市民団体「鹿角のエネルギーを考える会」を設立。事務局長として勉強を重ねる中、この地の豊富な再エネ資源を知ります。

 「『恵みを生かすべき』と強く思いましたね。そこで、地域で邪魔になっている木を薪として活用し、里山保全と家庭の燃料確保を両立させるグループ『MAKIKORI(マキコリ)』も設立しました。これらの活動を通じて鹿角市と関係を築き、2019年の『かづのパワー』立ち上げ時に声をかけていただき入社しました」

 現在は、社長と二人三脚でスタートした会社も4人体制へと拡大。山本さんは営業、経理、電力の需給管理まで幅広くマネジメントを担っています。

 「料金値下げや環境配慮をうたうだけでなく、デメリットも包み隠さずお伝えする姿勢が信頼につながっていると思います。地域の皆さんと築いてきた関係を大切に、これからも正直な商売を続けていきたいです」

#chapter3

AIやデータセンターの電気需要が高まる時代。地方も再エネ電力を生かし、より必要とされる存在へ

 秋田県の人口減少や産業衰退を懸念しながらも、「再エネの電力小売事業は地域にお金を落とせるチャンスがある」とする山本さん。自然を守り生かせる発電事業者を誘致することで、多くの自治体で独自の公共利益を生み出せるようになると期待を寄せます。

 「パソコンとネット環境があれば初期投資も抑えて参入できます。実際に私たちは4人で年間売り上げ7億円を達成し、そのノウハウを秋田県内の他市に共有し始めました。AI(人工知能)や5G通信、データセンターの需要が高まるなか、安定供給できる地域は過疎化が進んでも必要とされ続けると思います。秋田に限らず、同じ課題を抱えている方々にも当社の事例をお伝えしたいです」

 目標は売り上げを地域に還元し、公共の資金を確保していくこと。たとえ会社の利益は小さくても、電力の地産地消を通じて役立てることに誇りを感じているといいます。

 「料金高騰に苦しんでいた方が当社に切り替え『コストが安定した』と喜んでくださることもあります。ほかにも、他社との折衝が難しかった大口需要家を受け入れたこともあります。近年は企業間の取り引きで『再エネ電力を採用しているか』が重要視され、脱炭素を意識する経営者からの問い合わせが増えています」

 病院や福祉施設など、命を預かる場所の電気を優先したいと考え、経営難に直面する事業者には特別料金を適用しています。地域資源を生かし、電気を軸に人と暮らしを守る——。山本さんの挑戦は、秋田の未来を静かに、そして確かに照らし続けています。

(取材年月:2025年11月)

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専門家プロフィール

山本由実

再生可能エネルギーで地域の電力自給と利益還元を実現するプロ

山本由実プロ

小売電気事業者

株式会社かづのパワー

市民活動で培った地元のネットワークとエネルギーの知見を生かし、鹿角市が出資する再生可能エネルギー電力小売事業に参画。水力や地熱の発電で電力自給と利益還元を目指し、持続可能な地域づくりを推進する

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