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寺田淳

シニア世代が直面する仕事と家庭の問題解決をサポートする行政書士

寺田淳(てらだあつし) / 行政書士

寺田淳行政書士事務所

コラム

シニア起業・独立で抑えておきたいポイントとは?

2022年11月7日

テーマ:起業・独立

コラムカテゴリ:ビジネス


【今日のポイント】

 前回のコラムの続きとも言える内容です。

 この2年半、激減を余儀なくされていた起業関連の相談者が、
少しづつですが増加を始め、復活の兆しが見えてきました。

 尤も今すぐ起業・独立したい、というのではなく、
「未だ引き返せる」状況下での心構えや備えといった内容が主でした。

 今回は最近の相談の中から、
年代毎に向かい合うべき項目を主に共通する注意点等を
簡単にまとめてみました。

【スタートは40代から?】

 起業・独立を考えている貴方が会社員であれば、
そしてまだ40代であるならば…

 善は急げで、40代のうちに、そして在職中に
自身の定年後や役職定年後の進路の検討を始める事をお勧めします。

・勤め人として今後も第二の人生も歩み続けるのか?
・シニア起業に向けての各種の行動、準備を今から始めるか?


 余談ですが、このコラムを始めた約10年前は
「60才の定年後からではなく、50代から考える起業・独立」
をテーマにした記事を執筆していました。

 それがこの10年間で、ちょうど10年の前倒しとなったわけです。

 無論、絶対に40代でなければということではありません。
50代から考え始めても、60代で始めても問題はありません。

 ただ、年代が上になればなるほど準備に使える時間は減少します。

 60代で40代と同じ時間配分、時間の使い方では、
起業・独立の実現は当然ながらどんどん後回しになります。

 学生時代の夏休みの宿題を例にとればわかりやすいでしょう。
日々少しづつ消化していれば、休み明けの前日を余裕を持って迎えられます。
その逆に、休み明け直前まで手を付けていなければどうでしょうか?

 シニアからの起業・独立を目指す場合も
このケースと似たようなものではないでしょうか?

【実行は50代で?】

 では、起業に踏み切るのはいつが最適なのでしょうか?
個人的な考えですが、出来れば50代での起業をお勧めします。

 理由は単純です。
早ければ早いだけ新たな仕事に適応するまでの時間に余裕が持てます。

 個人差はありますが、体力的にも早い方が有利でしょう。
更に、軌道修正や撤収の場合でも挽回する時間が持てるのも有利な点です。

 40才で真剣にプランを描き始めれば10年分の時間が使える訳です。
10年あれば、相当な完成度の起業計画が出来るはずです。

 50代で起業・開業を目指すとしても、
片や既に準備完了で何時でも実行に移せる50代、
片やようやく起業に向けての勉強や情報収集を始める50代。

 この10年のアドバンテージは、非常に大きな意味を持ちます。 

【開業はひとりで?】

 起業の内容にもよりますが、
まずは個人事業での開業を想定したほうがいいでしょう。

 一人でやることのメリットとしては、

「自己責任だが何でもやることが出来る。」
「言われたことをやるのではなく、やりたいことをやれる喜びがある。」

 より現実的に、起業後の最優先の課題は
まず自分一人が食ベていける収入を安定して確保することです。

 当初の収入(売上)は高望みしないこと、楽観視しないことが重要です。
仮に月30万の収入としても、毎月継続して30万を確保するということは、
実はけっこう大変なことです。

 私のような士業の場合ですと、
仮に相談料が1件で平均1万円としても、
月30万を稼ぐには、1か月に30件の相談が必要です。毎日フル稼働です!

 中には相談で終わるケースもありますから、
正式受任の為には、実は倍以上の相談実績がないと成り立ちません。

 そんな中で、毎日1件を必ず受任する? 
 それを1年12か月連続で継続出来る??

 中には相談以外の重要案件の受任で、
1件で10万円単位の大仕事が入ったとしても、
毎月そんな相談案件を獲得出来る確率は極めて低いものになります。
それだけで30万の収入を確保となれば、最低で月3件の受任となります。
年間では、36件もの大仕事が前提となります。

 開業1年目で、
毎日1件以上の相談からの受任を達成する。
10万円以上の業務を月3件、毎月受任する。

 ほぼ、机上の空論と考えるべきでしょう。

 さらに、
30万円の稼ぎを1年間続けたとしても
「年収は360万円」にしかなりません。
ここから経費を差し引けば300万未満は確実です。

 今の生活水準は月幾らの出費なのか?
その水準に戻るのは起業後何年を想定したか?
その為の1年目の売上計画は? 2年目は? 黒字化は何年目から?

 毎月の売り上げ目標、年間の売り上げ目標と利益目標。
この点に関しては士業に限らずどんな業種でも外せない重要課題です。

 利益の目安が当初の目標を下回った場合を考えれば、
少なくとも今までの生活水準を見直しませんと、
ごく短期間で計画の頓挫や、迷走を始めることになります。

 起業の際には、
今までの生活水準をどこまで縮小、削減出来るかを
同時に考慮しなくてはいけません。 

 そうなると、いきなり人を雇っての開業や
共同経営者といった形での独立では
経費と売り上げのバランスはよりシビアなものになっていきます。

 スタート時からどうしても複数の人員が必要なケースを除き、
まずは自分一人で起業・開業することで自分が決めた仕事に集中する。

 個人的には、まずは一人で、個人事業主として開業をお勧めする次第です。

【自分の経験を最大限に活用】

 これまで自分が携わってきた仕事の中では、
当たり前で、業界内の常識といった情報や慣例等は、
他の分野の仕事においては「新鮮な情報」だったというケース、
意外に多いのです。

 自分の持つ知識、経験、スキル、ノウハウは他人から見れば
得難い内容になっていることは私自身が経験済みです。

 アバウトな例ですが、
ある分野の営業では基礎中の基礎と言えるようなノウハウでも
別の業界では未経験の営業スタイルであり、大きな差別化の可能性を
感じさせることから、起業・独立の際には追い風となってくれるのです。

 起業する分野が今までと同じ業界、業種であっても、
より深い知識や経験があれば十分差別化に繋がると思いますし、
独自のスキルやノウハウがあれば、更に差をつけることは容易なはずです。

 自分のこれまでの経験をどう活かすか? 活かせるか?

 現役バリバリの40代のうちに
これまでの自分の経歴、実績をひとまず整理して
得意だったものや高い評価を得たものを把握しておくことは、
起業・独立の際に必ず役に立つはずです。 

【起業を目指した理由は?】

 起業相談に来られた方に
なぜ再就職や雇用延長ではなく起業・独立を考えたのかを尋ねたところ
以下のような問題を自分なりに考えた結果という答えが返ってきました。

1)勤務時間の問題
 再就職や雇用延長の場合は会社の規則などでフルタイム勤務から
 週3日間だけの出勤、あるいは深夜・早朝勤務等に就くことを命じられる。

 これに対して自営業であれば、自分の考えで勤務時間が決定出来る。

2)待遇面
 当然ながら再就職であれば現役時代を下回る月収が当たり前。
 自営業であれば努力次第で現役時代以上の収入を手にすることが可能。

3)肩書 
 世間体や見栄という自覚はあるものの、「社長・店長・代表」といった
 肩書には魅力はある。再就職では絶対に得られないものである。

4)職務権限 
 仮に正社員での再就職であっても、年下(上司)に指図される。
 自営業であれば、全て自分の一存で決められます。

 これに加えて
自営業の場合は「生涯現役」で働くことも可能になります。
対して60才以降も再就職で雇用者の場合には、時間差はありますが、
その5~10年後の70才前後にはまた定年となり、再び失職となります。

 70代から再びの就職活動は今以上に厳しいものになるのは必至と言えます。
その時に起業・独立を目指そうにもこれもまた狭き門となります。

 先の4項目の中にはやや首をかしげたくなる理由も含まれることがあります。
少なくとも感情論や消去法の結果で起業・独立を目指すのだけはやめて欲しいものです。

【仕事と健康の兼ね合い】

 前項で触れていますが、
起業・独立の場合は自由に勤務時間が決められます。
勤務スタイルも自身の責任で自由に設定が可能です。
週休3日制でも、年中無休でも自在です。
 
 常に上から与えられた、命じられた仕事をこなすのではなく、
自分で仕組みを考え、顧客を想定し、自分で仕掛けを用意して成果に繋げる。
全て自己責任になりますが、その分やりがいは高まります。

 また、会社勤めであればいくら実績を上げても、新規の顧客を獲得しても
あくまでも会社の看板あっての成果とされ、収入が激変することはありません。

 自営業であれば、成功すれば全て自分の成果となります。
やればやっただけ、とは言いませんが、成功すれば成功した分の大半が
自分に返ってくるのは間違いのないことでしょう。

 「成功すれば」の条件付きですが起業・独立は魅力的な選択肢です。
事実、多くの起業成功者は「この1か月休みなしです」「1日16時間労働です!」
といった一見ブラックな労働実態を目を輝かせて報告をしてくれます。

 仕事をすることが楽しくてしようがない、これがやりたかった!
気力・体力とも充実、まさに水を得た魚のような充実した毎日を過ごしているようです。

 ですが、最も重要な注意案件があります。それは本人の健康状態です。

 いくら楽しいから、儲かるから、人の役に立つからとはいえ、
その為に本人が心身をすり減らしては本末転倒です。

 無理を重ねた結果、長期入院や療養が必要になったり、
全治不能となり、病気を抱えての仕事となれば
今までのような充実感は得られなくなることでしょう。

 何と言っても、自身の健康問題は最重要注意事項のひとつです。
肉体的な疾患も、精神的な疾患も起業・独立にとっては大きな壁です。

 さらには起業前に仕事に支障が出る可能性のある持病が判明したら、
場合によっては勇気をもって断念することも考えないといけません。

【理念とビジョン】

 一見すると抽象的な概念ですが、ここが土台であり、大黒柱とも言えます。

 何を隠そう、私自身全くこの課題を考えることなく起業した結果、
ほぼ1年間は「さて、何をメインの業務にしようか?」「どういう客層を対象にしようか?」
等など、全くの丸腰でのスタートで試行錯誤の繰り返しでした。

 企業で言えば「社是」「社訓」とでも言いますか、
自分が選んだ仕事を通じて社会に貢献するために
具体的にどういう行動を心がけるのか? 
その為にどういう業務を専門にし、
いつまでに社会的認知度を確固たる位置にまで引き上げるのか?

 どんな業種でも開店・開業したら黙っていても千客万来、なんてことはまずあり得ません。

どんなユーザーが、どんな悩みや要望を持っているのか? それはなぜか? 
その問題の解決や解消のために自分の仕事をいかに合致させるか?
ユーザーの年齢層は? 居住地に偏りはないか? 男女で差はあるか?

 上記は基本中の基本で、これらを時間をかけて吟味した結果
「自分自身が同じ悩みや問題に共感できるか?」という視点に行き着きました。

 この結果、専門のコンサルを1年近く受講して、なんとか土台の基礎工事を終えました。
結果として、起業して2年間は準備に追われただけで経過したのです。

 今更ですが、在職中にこの課題をクリアしていればと思った次第です。
 
 起業までの準備期間は、起業する仕事の内容によって変化しますが、
今までと同じ職種、業種での独立ならまだしも、畑違いの分野での独立を目指すのであれば、
個人的な見解ですが、概ね2年はかかると思います。

 私の経験談のように、仕事の根幹を何にするか、どこで開業するか、
資金計画をどうするかなど等を開業時に確定させていなければ、
どんな分野であっても、軌道に乗るのまでに2年はかかると思うからです。

 
 偉そうなことをコラムで述べていますが、
自分自身も仕事の根幹を見抜けないままで起業した一人でした。

 これから起業・独立を目指す貴方は私を反面教師として、
事前の準備を早いうちから、段階的に、確実に実行に移すことを心がけて下さい。

この記事を書いたプロ

寺田淳

シニア世代が直面する仕事と家庭の問題解決をサポートする行政書士

寺田淳(寺田淳行政書士事務所)

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