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伊藤健司

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伊藤健司(いとうけんじ) / 研修講師

オフィスT&C

コラム

管理職の上手な褒め方・叱り方②「叱る」について

2024年2月2日

テーマ:マネジメント

コラムカテゴリ:ビジネス

前回のコラムに引き続き、管理職の「上手な叱り方・褒め方」について取り上げます。今回は叱り方について考えてみましょう。

パワハラ防止法により、 2022年4月から、すべての企業に対して、ハラスメントへの防止措置が義務化されました。パワーハラスメントに対する世間の目は厳しさを増しています。管理職の皆さんには、「部下を厳しく叱る」ということに対して、やりづらさを感じている方も多いのではないでしょうか。

しかし、管理職の皆さんには、部下を育成する義務があります。前回もお伝えしたように、叱る、褒めるというのは部下へのフィードバックです。「褒めて伸ばす」という言葉もありますが、現実的には、褒めるだけで育つ部下は少ないでしょう。必要に応じて、時には厳しい言葉で、毅然と、不足点を指摘することが効果的なケースは多いと思います。
また、叱咤激励という言葉もあります。オンラインの辞書である「Webio」によると「[名]大きな声で励まし、元気づけること」という意味が載っており、使用例として「監督が選手を叱咤激励する」が挙げられています。「叱る(しかる)」という字が使われていますが、目的は「励ますこと、元気づけること」というニュアンスです。
部下に関心を持ち、部下をしっかり見て、部下の成長を応援する立場としての感じたことを、率直に言葉や態度で表す。「叱る」には、そんな側面もあると思います。

このように、部下を成長させるためのフィードバックのひとつとして、「叱る」ことは大切です。ただしその際は、ハラスメントにならない「適切な」「上手な」叱り方をしなくてはなりません。

叱る時に言葉にすべきなのは

皆さんが部下を叱る目的は何でしょうか。
感情を吐き出して自分がスッキリするためでも、舐められないよう「怖さ」をアピールするためでもないはずです。
マネージャーの役割は、人を使って成果を出すことです。成果を出すためにチームの業務を円滑に進める必要があります。ですから、部下のふるまいが業務遂行の妨げとなる場合、これを正す必要があります。例えば、業務遂行のためにやってほしいことを部下がやらない場合。もしくはやってほしくないこと、あるいはやってはいけないことを部下がやってしまう場合。
ここで注目していただきたいのは、いずれの場合も、正したいのは部下の「行動」だということです。部下の「考え方」や、仕事への「姿勢」などを正したくて叱る場合もあるでしょうが、考えや姿勢は直接目で見ることはできませんから、叱る必要性を感じるのは、間違った考え方や姿勢が行動となって表れた時でしょう。そう考えると、いずれにせよ指摘すべきは「部下の行動」ということになります。
であれば、叱る時の言葉には、叱られた側の部下が「どんな行動を、どう変えれば良いのか、具体的に理解できること」が必要です。これが含まれていない叱り方は、そもそも叱ることの目的(部下のふるまいを正す)を達成する役に立ちません。
これがハラスメントにならない、業務指導としての「適切な叱り方」「上手な叱り方」の原則です。そして、これを基本として考えると、「上手でない叱り方」が浮かび上がってきます。

叱り方NG①「やる気が感じられない。もっとやる気を見せろ」

まず「気持ちを示せ」系の叱り方があります。皆さんが、これを言われた部下の立場だとして、何か具体的な行動変化につなげることはできるでしょうか?せいぜいが、笑顔を消して、表情を引き締めて、「がんばります!」と宣言するくらいでしょうか。それでも「まだやる気が見えない!」と言われたら、何をすればいいか途方に暮れそうです。
「やる気」は目に見えませんから、上司の方が「やる気がない」と感じたのは、部下の何らかの行動を見てのことと思います。であれば「気持ち」の話にすり替えたりせず、そう感じた行動が「どんな行動」で、その行動を「どう変えてほしいか」を具体的に伝えましょう。

叱り方NG②「ちゃんとやりなさい」「しっかりやりなさい」

「どの行動を変えるべきか」は伝えても、「どう変えるべきか」を伝えていない、もしくは曖昧な叱り方も多く目にします。「◯◯を、ちゃんとやりなさい」「◯◯を、しっかりやりなさい」などがそうです。こういった「程度言葉」は人によって受け止め方にバラツキが出ます。「ちゃんとやる」とは、どんなことなのか、部下に対してどんな行動を期待しているのかを具体的に伝えましょう。「お客様への対応をもっと良くしなさい」なども曖昧、かつ主観的で抽象的な指示です。行動をどう変えれば「良くなった」と言えるのでしょうか。
もしそれを言葉で表現するのが難しいとしたら、そもそも上司の中でも曖昧なのかもしれません。それでは部下が指示を守れるわけがないですよね。

叱り方NG③「これが常識だ」「こうするのが普通だろう」

常識、普通、当たり前、といった言葉で、自身の価値観を押し付けていませんか。確かに「一般常識」と呼ばれるものには、ビジネスの場において、妥当性が高いと考えられるものが多いでしょう。ただし、常識は変わりやすいものでもあります。管理職の皆さんが「常識」「当たり前」と呼んでいるものは、10年前、20年前の常識ではありませんか。もしくは、人によって評価・判断が分かれるものではありませんか。
部下の行動が本当に好ましくないのであれば、なぜそれが好ましくないのか、「普通」「当たり前」といった言葉を使わなくても説明できるはずです。

叱り方NG④「だからお前はダメなんだ!」「使えないヤツだ」「

「好ましくない行動」と「人」を混ぜこぜにして、「人」にダメ出しをするような表現は特にNGです。人格否定に繋がりかねません。上司の指摘が人格の領域に踏み込んでいると感じると、部下は身構えて自分を守ろうとします。つまり、指摘を受け入れず、反発してしまう可能性が高くなるのです。
目的は行動を正すことです。「好ましくない行動」と「人」を分離して、「人」を責めずに「行動」を指摘する言い方をしましょう。「お前がやったコレがダメ」と、「コレをやったお前がダメ」では大違いです。

叱り方NG⑤「ボーっとするな!」「ダラダラするな!」

最後はNGというほどではありませんが、覚えておくと便利なポイントです。
部下を叱ったり、指示を出したりする際に、「〜するな、と否定形(don't)を使ってしまうことはありませんか。これもできれば避けたいものです。なぜならば、「〜しない」は達成するのが難しいからです。例えば、皆さんが喫煙者だとして、「タバコをやめなさい」と指示されたとします。今日一日タバコを吸わなかったとして、「タバコをやめた」とはいえないでしょう。一週間吸わなくても、「タバコをやめた」かどうかは疑わしいところです。逆に「タバコを吸いなさい」は今すぐに、目の前で実現することができます。このように「~しろ」という指示に比べて、「〜するな」という指示は達成しづらいのです。
また否定表現(don’t)よりも、肯定表現(do)の方がポジティブに受け止めやすいという側面もあります。通勤ラッシュの時間帯に駅員さんにマイクで「駆け込み乗車はおやめください」と言われるよりも「次の電車をご利用ください」とら言われた方が、受け止めやすいと思いませんか。「トイレを汚さないで」という貼り紙よりも、「綺麗にお使いください」の方が受け止めやすいと思いませんか。ほとんどの否定表現は、肯定表現に置き換えることが可能です。ぜひ意識してみてください。

「叱る」について、いつも研修でお話ししていることを文字にしてみました。
部下は上司から「自分に関心を持ってもらうこと」を求めています。ぜひ、「上手に叱ることのできる」上司でいてください。

この記事を書いたプロ

伊藤健司

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伊藤健司(オフィスT&C)

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