建物(資産)の安全と事業継続を守る免震・制振技術の専門家
中西力
Mybestpro Interview
建物(資産)の安全と事業継続を守る免震・制振技術の専門家
中西力
#chapter1
震度6~7の大規模地震が各地で起きている昨今、建物の地震対策において、柱や梁など骨組みの強度を上げて地震の揺れに耐える従来の耐震から、免震の導入が増えています。
「免震とは、建物と基礎との間にゴムと鋼板から成る特殊な緩衝材を組み込み、建物と地面を切り離すことで揺れを受け流し、地震の力を3分の1~5分の1にまで低減して倒壊を防ぐ工法です。数多くの大地震を受けて、現存する多くの古い神社仏閣も、実は土台の石の上に柱がのっているだけの免震構造なのです。残っていることが、効果があることを物語っています」
そう語るのは、建設会社「スターツCAM」取締役の中西力さん。同社の免制震構造研究所で所長も務め、免震の開発と普及に力を注いでいます。
「例えば、従来は高額だった既存建物の免震化である「免震レトロフィット」の工事コストを抑制するため、私どもはジャッキアップレス工法を開発しました」
採用した国の登録有形文化財「岡崎信用金庫資料館(旧岡崎銀行本店)」では、ジャッキで建物を持ち上げるのではなく、補強した基礎梁の下に開口を設けて免震装置を設置。工事費を大幅に抑えました。
「2023年に第24回日本免震構造協会賞の業績賞(免震レトロフィットの賞)に選ばれたのはうれしい限りですが、何よりお客さまに喜ばれたことがこの仕事の一番の魅力です」
「新築でも、1階部分を地盤面から高い位置に設置して地下の掘削量を大幅に減らし、コストダウンをかなえる高床免震など、独自の特許工法をいくつも考案し、免震は高額というイメージも払拭しています。私自ら事業計画やご要望、現状の課題を伺い、お客さまに合った工法を開発・提案できるのも強みです。既存のビルや家屋、歴史的建造物などの建築や改修を考えているオーナーさまは、ぜひ一度ご相談ください」
#chapter2
中西さんのキャリアの原点は大学3年生のとき。講義で免震に取り組む卒業生の話を聞き、当時はまだ珍しかった免震の仕組みに衝撃を受けます。大学院で免震を教える教授の研究室に入り専門性を高め、1995年4月に清水建設の設計本部に入社しました。
「同年1月に発生した阪神・淡路大震災では、住戸やインフラなどに甚大な被害を受けて、建設業界の意識も大きく変わりました。震災前は免震のビルの建築は年間1桁程度で、構造設計ができる人材が少なかったため、免震の構造設計に必要な「地震応答解析」の経験のある私が免震のプロジェクトに参画することになりました」
2011年には、免震マンションを手掛けていた「スターツCAM」に入社。免震構造の設計や技術開発に従事します。
中西さんは培った免震ノウハウを世界に伝えるため、トルコ共和国をはじめ、海外に向けた免震普及プロジェクトにも携わり、2020年に同社の執行役員、2023年に取締役に就任。
社外では、日本免震構造協会の審議員、免震研究推進機構の理事と試験施設運用委員会の委員として活動。建物の規模に合わせて大型化する部材・装置の品質確保と免震構造の普及・発展に努めています。
#chapter3
2024年1月の能登半島地震では、耐震基準を満たしている建物でも倒壊したり、倒壊は免れても、傾きが生じ、改修工事が高額となる建物も見受けられたそうです。
「現行の基準を満たしていれば安心というわけではありません。鉄筋コンクリート造(RC造)のマンションは1981年に、木造住宅は2000年に法改正されたままだからです。日々進化する技術を取り入れて、人の命、そして建物という資産を守ることが重要です」
特に賃貸住宅やテナントビルのオーナーにとって、建物は大事な経営資源です。地震の揺れを軽減できる免震なら建物の損壊だけでなく、建物内での人のケガや什器の破損等のリスクも減らせます。事後も修繕費用を抑制でき、事業運営の長期安定化も図れると言います。
「近年は、環境保全の観点から脱炭素や木材利用も推進されています。当方が2022年に参画した江戸川区南葛西の賃貸マンション『立面混構造ビル』は、9階建ての下5層はRC造、上4層は木造なのが特徴です」
上部を軽い木造にすることで、同じ床面積のRC・耐震構造と同等価格で免震を実現し、建設時のCO₂排出量も約30%削減。将来的に改修や解体をする際にもコストと環境負荷が低減できるそうです。グッドデザイン賞・ウッドデザイン賞を獲得し、日本免震構造協会30周年記念冊子「日本を代表する挑戦している免震建物」の33棟の一つに選出されました。SDGs(持続可能な開発目標)にも配慮した物件として話題になりました。
「震度6以上の地震が、いつ、どこで起きてもおかしくない今、一人ひとりが震災時の損傷・破壊リスクを正しく理解し、しっかり備えることが重要になるでしょう」と中西さんは呼びかけます。
(取材年月:2025年1月)
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Profile
建物(資産)の安全と事業継続を守る免震・制振技術の専門家
中西力プロ
構造設計一級建築士
スターツCAM株式会社
スターツ免制震構造研究所の所長を務める免震のエキスパートが、免震・制振の開発と普及に尽力。地震によるリスクを軽減し、安全と事業継続を守る。歴史的建築物をはじめ、既存建物も低コストで長期存続も可能に。
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