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廃棄物を資源として活用し、炭化炉と「スターリングエンジン」の組合せで環境問題に寄与

廃棄物が資源に変わる、新たな発電給湯システムを推進する専門家

森慎太郎

森慎太郎 もりしんたろう

#chapter1

200年も前に発明された「スターリングエンジン」を用いた発電給湯システムを開発

 地球温暖化や、石油をはじめとする資源の枯渇が深刻化する中、約200年も前に生まれた熱機関が注目されつつあります。ロバート・スターリングが発明した「スターリングエンジン(SE)」で、密閉空間内にある気体を、加熱・冷却によって膨張・収縮させることで、出力(電力)を取り出します。

 「発電設備として皆さんがよく知っているのは、蒸気タービンでしょう。火でお湯を沸かすごとく、蒸気の力で原動機のタービンを回すことで発電します。SEは、加熱部に直接熱を与えることで発電できるシンプルな仕組みです。外側から熱を加える外燃機関のため安全性が高いうえ、さまざまな熱源を使うことができます」

 こう話すのは、「日本スターリングエンジン普及協会」の常務理事・森慎太郎さん。SEを核に発電・給湯する「移動式SE炭化炉CHPシステム」を手掛け、展開を目指しています。

 「再生エネルギーは、廃棄物をいわば“厄介もの”として処分する際の排熱を利用する考え方ですが、このシステムでは、廃棄物を貴重な資源として活用します。製材時の木くずや畜産業のふん尿といったバイオマスを扱い、ゴミ、環境、エネルギー問題にアプローチします」

 炭化炉は廃棄物などの有機物を炭、ガスに熱分解するもので、大気中に二酸化炭素が放出しないよう炭素を固定することでCO2の削減に寄与。ガスを燃焼させた熱でエンジンを動かし、電気と温水を作ります

 「SEを用いたシステムを構築する際に重要なのが、熱をSEに効率的に伝えることです。当方では、熱伝達率を上げる装置も開発しました。これがポイントです」

#chapter2

東芝で防衛・宇宙部門に従事した知見と発想力を買われ、システム設計に参画

 森さんは、1979年に総合電機メーカーの「東芝」に入社。システムエンジニアとして防衛部門に長く在籍し、開発プロジェクトのマネジメント、事業企画などを担当しました。

 「2002年には大幅赤字を出していた工場の工場長に就任しました。利益に対する意識変革と構造改革に注力し、2年で黒字化を果たしました。経営監査部に携わり、防衛事業で要職に就くなど幅広い業務、職務に従事しました」

 東芝のグループ企業で代表取締役社長を務めた際は、スマートフォンで傷病者のカルテを共有する「災害時電子トリアージ」や、屋内でも正確な位置情報を得られる「屋内外シームレス測位」といった新規事業を立ち上げ、独自のコスト管理手法によって経営改善に取り組みました。

 「退職後は新規事業コンサルタントとして活動し、電気メーカーとともに、室内など狭い場所でも野菜などが育てられる『有機水耕栽培』の研究開発と事業化を進めました」

 森さんが培った多様な技術への知見と柔軟な発想力を買われ、2018年、当時の協会理事長からSEを活用したシステムを設計してほしいと声が掛かります。

 「スターリングエンジンは東芝をはじめ、国内の企業でも開発に着手した時期があり、私も前や概要は知っていました。長らく実用化は困難とされてきましたが、2010年代に入ってアメリカの企業が商業化に成功しました。火星探査機に使われるなど信頼性の高い製品が登場したこともあり、技術者としてぜひ協力したいと思い参画しました」

#chapter3

コンテナ式で建屋が不要。災害時には避難所に設置できる発電給湯システム

 森さんは「SE炭化炉CHPシステム」の開発で資源として、最初に手掛けるのは雑多な物が混ざっておらず性状が安定している発酵鶏糞を想定。養鶏農家が抱える経営課題の解決にもつなげたいと言います。更にこの開発で数学モデルを構築し、多種の廃棄物に対応できるようにしていきたいと言います。

 「発酵鶏糞は肥料として販売されていますが供給過多の傾向にあり、安価で取引されては利益を得られません。一方で鳥インフルエンザ予防のため、鶏舎は開放型から閉鎖型へと転換しており、冷暖房など消費電力が増加しています。鶏卵洗浄に使う温水も、スターリングエンジンを動かす際に作られるので温水を作る経費が削減できます」

 導入後はユーザーが保守管理する負担を軽減できるよう、遠隔サーバーでシステムを操作・監視。取得したデータを分析し、適切に運用するための整備計画を作成します。また、システムをコンテナに納めて移動式に。建屋が不要で、災害時には避難所に設置することができます。

 「災害が発生すると大量のゴミが出ます。本システムでエネルギーに変えれば、避難所の電気、空調や入浴に使うことができます」

 用途の可能性は広く、SEは宇宙開発にも向いているのではないかと提言します。
 「例えば月面では、太陽光が当たるところと影の部分の温度差が大きいことを利用して、冷却水を使わず発電ができるのではないでしょうか」

 森さんのもとでは、多方面でシステムが応用されることを願い、パートナーを探しています。
 「再生エネルギーやゴミ問題に興味をお持ちの企業さま、SDGs(持続可能な開発目標)に関連した新規事業をご検討の企業さまなど、ぜひお声掛けください」

(取材年月:2024年8月)

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森慎太郎

廃棄物が資源に変わる、新たな発電給湯システムを推進する専門家

森慎太郎プロ

エンジニア(システム設計)

NPOスターリングエンジン普及協会

廃棄物を活用できる熱機関「スターリングエンジン」を使った、発電・給湯システムを開発。環境問題に寄与できるシステムを一緒に推進しませんか。大手電機メーカーで技術職を務めた開発者がノウハウを伝授します。

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