伝統的な技法に感性をプラスして再生「re born」させる金継ぎ師
遠藤比蕗子
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伝統的な技法に感性をプラスして再生「re born」させる金継ぎ師
遠藤比蕗子
#chapter1
「傷を『隠す』のではなく『活かす』、新たな趣を与えて『再生(Re born)』させる金継ぎで、二つとない品を愛情深くいつくしんでほしいですね」と語るのは、「金継ぎ円家」の遠藤比蕗子さん。
東京都世田谷区を拠点に金継ぎデザイナーとして活動。修理を請け負うほか、都内2カ所で教室も開き、2025年4月には販売を目的としたギャラリーも開設しました。
「金継ぎとは、欠けや割れが生じた器を麦漆でつなぎ、最終工程として継ぎ目に金属粉を施して装飾する伝統技法です。物を大切にする日本人の精神性を体現した技を、多くの方に知っていただくことが私の願いです」
ファッションデザイナーとしても活躍する遠藤さん。器の色や絵柄に合わせて金や銀、錫(すず)などを使い分け、時に大胆に、時に繊細にラインを描きます。個性を引き出し、唯一無二の味わい深い表情をたたえる作品をホームページやインスタグラムに掲載したところ反響が大きく、オファーが相次いでいるそう。
「思い出深いシャンパングラスやご愛用のジョッキなど、ガラス製品も承ります。陶器や磁器に比べて粘着しづらく、乾燥にかかる日数も異なるため、慎重な作業が必要です。欠損部分には麻の生地を建てて、なくなったパーツを再生し、壊れる前の形を再現します」
依頼品にまつわるエピソードや思い出話を聞くと、「その器に合った方法で生まれ変わらせたい!」と力が入る遠藤さん。「華やかに」「カジュアルに」「落ち着いた雰囲気で」など、要望を丁寧にヒアリングし、完成イメージや作業工程、納品後の扱い方などを提示。きめ細やかな対応で信頼を築いています。
#chapter2
「母が和裁をしていたので、幼い頃の服は生地を選んで『こんなデザインがいい』と伝えていた記憶があります。服が『自分らしさ』や『こだわり』を表現するものだという認識は、当時からありました」
アパレルメーカーのデザイナーとなった遠藤さんは、インスピレーションを求めて骨董品店をよく訪れるように。民族衣装や古い刺しゅうなどから着想を得ることも多く、ファッションショーで海外を訪れた際も、必ず現地のアンティークショップに足を運んでいたと言います。
「海外で、さまざまな国のスタッフと仕事をする中で感じたのが『日本についてもっと知りたい』ということでした。自国の文化や歴史に詳しく、誇りをもっている人が多かったので、私も日本の伝統をもっと学びたいと、古美術や工芸品にさらに関心を寄せるようになりました」
20代後半に訪れた骨董店で、初めて金継ぎされた器を目にした遠藤さん。壊れたものを直す術として興味を持ちます。
「欠けたお気に入りの器を保管していたので、漆芸の師匠の元で金継ぎを習い始めました。指導してくださった先生が自由な発想を大事にされる方で、心が赴くままにのびのびと創作できました。6年間学び、すべての工程を修了した証しである免状も取得しました」
完璧を求めるのではなく傷跡をめでる美学、形あるものを尊び、繕いながら受け継いでいく哲学に魅了された遠藤さん。デザイナーとして培った美的感性も糧に、金継ぎの道に進みます。
#chapter3
現在は東北沢と渋谷で教室を開講。少人数制のアットホームな空間で、個々の希望やペースに合わせてレッスンし、初心者から学べる環境を整えています。
「器の修復が目的ですが、工程そのものを楽しんでいただけるのも金継ぎの魅力です。使う道具は、漆で絵や文様を描く蒔絵用のもので、日常ではなかなか触れることがありません。扱うのも、お皿やおわん、茶碗やマグカップなど形や素材も違い、常に新鮮な発見があって飽きません。あっという間に時間が過ぎてしまいます」
工程は、破片の接着、欠けの漆埋め、乾燥、磨き、漆塗り、金粉蒔きと、6〜7段階におよびます。乾燥には通常3日から1週間ほどかかり、急がず、焦らず、時間をかけて向き合う中で、より一層愛着が増すと語ります。
「ギャラリーでは江戸の頃の古伊万里、明治時代の九谷、大聖寺伊万里など展開しています。オープンしたきっかけは、ホテルのコンシェルジュから『海外のお客さまが金継ぎ作品の購入を希望している』と問い合わせがあったことでした。アートとして飾るためにほしいとのことで、完成品もニーズがあると気づきました」
現在もアパレルの仕事をしている遠藤さん。安価で大量生産・大量廃棄されるファッション業界に疑問を感じることもあります。
「使い捨てにより消費するのではなく、手入れをしながら長く使い続けることに強くひかれます。傷を芸術へと昇華するのが金継ぎであり、日本が世界に誇る優れた技術として広く伝えていきたいと思っています」
(取材年月:2025年6月)
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Profile
伝統的な技法に感性をプラスして再生「re born」させる金継ぎ師
遠藤比蕗子プロ
金継ぎ師
金継ぎ円家
アパレルメーカーのデザイナーとして鍛えたデザイン力と美的感性で、美しい金継ぎを施します。陶器・磁器以外にガラス製品にも対応。少人数制の教室や金継ぎされた品を購入することができるギャラリーも開催。
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