思いをカタチにする、飲食店に特化した空間デザイナー久保寺奨

思いをカタチにする、飲食店に特化した空間デザイナー

久保寺奨

間接照明を生かしたおしゃれな空間と、DIYによるコスト削減が好評

　「独立開業を目指す皆さんが育んできた思いを大切に、店を持つという夢をかなえるお手伝いをします」と語るのは、東京都府中市で空間デザイン事務所「多摩アートコレクション」を営む久保寺奨さん。
　
　顧客の8割は、新店オープンや店舗リニューアルを考えている料理人や店主といった個人経営者。10～20坪ほどの小規模の飲食店を数多く手掛け、中でも間接照明にこだわった奥行きのあるおしゃれな内装が高く評価されています。

　「コンセプトは“バランス＋コストパフォーマンス＋サンクス”。自分の城ともいえる店舗に、お客さまの理想をできる限りデザインに落とし込むよう心掛けています。一方、個人で店を持つことは、資金面でのハードルが高いもの。理想と予算のバランスも図り、お客さまに感謝される店づくりをしています」

　以前の店で使用していた資材や雑貨など思い入れのある品物で装飾したり、趣向もさまざまです。

　資金面の工夫として「店舗の一部を一緒につくりませんか？」とDIYを提案することも。自ら手を動かすことで工事費を抑えられるうえ、店への愛着も深まると好評だとか。

　「事務所に併設する直営店『d's cafe bar』は、打ち合わせスペースとして活用しています。厨房もご案内しますので、調理台の高さや通路の幅など導線も体感していただけます。店を開きたいと考えている方は、ぜひご相談ください」

サッカー一筋から営業職を経て、非日常を演出するためデザインの世界へ

　久保寺さんは小学3年生からサッカーを始め、プロを志し大学もサッカー推薦で進学。卒業後も実業団チームに所属しましたが、将来を考え、一般企業で働くことを決意します。

　「営業職として2年間勤務し、サッカーで鍛えたガッツで評価されていましたが、『一度しかない人生、このまま終わりたくない』という気持ちが日に日に強くなっていきました」

　サッカーのように情熱を注げる仕事はないかと模索する中、ふと心に浮かんだのは、記念日などに少し背伸びして訪れる「ちょっといいレストラン」。非日常を楽しめる空間を自分が手掛けられたらかっこいい。そうシンプルに思い、30代前半でインテリアデザイナーの道へ。

　「心機一転したものの未知の分野で知識はゼロ。まずは営業職として、インテリアデザイン事務所に転職しました。約2年後、紅茶専門店の店づくりをきっかけに、独立を決意しました」

　2012年にホームページ「designista-s」を開設し、デザイナーとして活動を始めた久保寺さん。学生時代のサッカー仲間から、串焼き＆ワイン店のプランニングを頼まれるなど、口コミを中心に依頼を受けます。

　「デザインや設計は本やネットで独学しました。さらに現場へ毎日のように足を運び、図面だけでは分からない空間の取り方や部材の納まりなどを自分の目で見て、職人さんから聞いて実践力を身につけました」

　特に間接照明は一流デザイナーの実例を多数分析し、自身のプロジェクトに反映。現場で仕上がりを確認しながら知見を深め、技術を磨いていきました。

新たなアイデアを試し、モデルルームとして機能するカフェバーも展開

　空間デザイナーとして独立して十余年。現在ではホームページの施工実績に魅力を感じた顧客から、問い合わせが入るようになりました。案件の増加とともに一人で対応することに限界を感じ、事業拡大を次の目標に掲げています。

　直営店「d's cafe bar」は、アシスタントと一緒に働けるオフィスを探していた際、たまたま候補に上がってきた物件が広めだったため、せっかくなら飲食店も併設しようと開業。久保寺さんがDIYで8カ月半かけてつくり上げたそうです。

　「飲食店として見本になる、モデルルームのような店舗を構想しました。例えば、お客さまに提案しても『イメージが湧かない』と断られていたカウンター天板の照明演出も導入。グラスの反射光の美しさを一目で伝えられるなど、新しいアイデアを試す“実験場”としても機能しています」

　また、外食産業に新規参入したい企業のサポートも視野に入れています。独自の世界観を描き、唯一無二のブランドを確立していくには経験値が不可欠。内装、家具やショーケースといったハード面はもとより、簡単調理による料理提供といったソフト面もアドバイスできる体制を整えつつあります。

　「将来の夢は地元でサッカーチームを作ること。空間デザインで培ったノウハウや人脈を生かし、食堂や栄養教室、スポーツバーなど、サッカーを通して子どもから大人まで多くの人が触れ合う施設の施工や運営にも携わりたいですね」

　府中市で生まれ育った久保寺さん。空間デザイン・飲食・サッカーを掛け合わせ、多様な人が集い、交流する場を創出することで、地域貢献も目指しています。

（取材年月：2025年7月）

施主の思いを大切に空間をデザイン。理想の店づくりを二人三脚でサポート

間接照明を生かしたおしゃれな空間と、DIYによるコスト削減が好評

サッカー一筋から営業職を経て、非日常を演出するためデザインの世界へ

新たなアイデアを試し、モデルルームとして機能するカフェバーも展開

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