技術を磨き続ける染み抜き・クリーニングの専門家中村僚

技術を磨き続ける染み抜き・クリーニングの専門家

中村僚

スーツやダウン、キャップ、スニーカーなど多様なアイテムをクリーニング

　「衣類のシミが落ちずに諦めている方は私どもにご相談ください」と呼び掛けるのは、杉並区の「中村クリーニング工業」の3代目・中村僚さん。

　受付点検から洗浄、仕上げまでの全工程を自社で一貫し、ワイシャツにスーツ、学生服、スエットやセーター、Tシャツ、ダウン、キャップ、スニーカーなど幅広いアイテムに対応。70年以上にわたり地域の人たちの装いを支えてきました。

　「当方は、繊維製品の取り扱いに関する知識を備えた繊維製品品質管理士を保有し、生地を傷めない方法で丁寧に洗い上げます。また、全国でしみ抜き修復師を養成する『京技術修染会』の認定講師にも合格し、東京都の有資格者3人のうちの1人です。染み抜きや染色補正の技術を理論的に学び、汗による黄ばみや食べこぼしなど、多様な汚れにアプローチできるのが強みです」

　「また繊維製品品質管理士（TES）という繊維産業・ファッションビジネス必須の、衣類を扱う業種として資格を取得。アパレルの講習会にも参加し、情報交換や事故事例など、クリーニングの現場でも役にたっています。クリーニング店代表としてコメンテーターで壇上に上がることもあります」

　洗浄力に優れたドライ機や、デリケートな衣類に適したマシンなどを用い、素材や色柄、装飾にも細やかに配慮。商圏が店舗から半径500m以内と言われる業界において、アパレルメーカーから引き合いがあるほか、遠方に引っ越した後も「中村さんでなければお願いできない」と継続して利用する人もいるとか。

　顧客の期待に応えるため、常に研さんを積む中村さん。洋服を仕立てるテーラーのもとで、ジャケットやパンツなどのシルエットを保つプレス加工も指南を仰いでいます。

　「従来のアイロン掛けはシワを伸ばすだけで、『形が崩れる』と敬遠されていました。お客さまの体形に合わせた立体感などを表現するテクニックを習得し、今ではテーラーさんもひいきにしてくださいます」

1952年に創業した家業に入り、一から知識や技術を身につけ代表に就任

　1979年に、阿佐谷の地で生まれた中村さん。子どもの頃から店の中を走り回り、作業の様子を目にしていましたが、次男だったこともあり、クリーニング業に携わるつもりはなかったそう。

　「中学時代からスノーボードに熱中し、高校卒業後はスポーツの専門学校へ進みました。在学中はインストラクターをしていて、将来は雪山でペンションを開くことを考えたりしていましたね」

　卒業後の進路を模索していたタイミングの2000年、両親が工場を改装。多額の融資を受けることになり、「自分も家族の力になりたい」と家業へ入る決意をします。

　「幼い頃に両親の働く姿を見てはいましたが、実務に精通していたわけではありません。実践力を養うため一から勉強を始めたものの、同年代や少し上の世代の人たちと知り合う中で、自分とのレベルの差を強く感じて。周囲に追いつくべく、26歳のときに、働きながらクリーニングの専門学校に通い始めました」

　自分のような2代目や3代目が技術を学べる場所の必要性を感じ、休止状態だった「東京都生活衛生同業組合」の青年部も再始動。情報交換やスキルアップに努め、父親の体調不良をきっかけに、2023年に代表に就任します。

　「当社は1952年に創業しました。父に万が一のことがあってからでは、経営面など業務の引き継ぎが大変なため、早い段階で交代しようと話がまとまりました。兄は事業から離れていたので私が後を継ぎましたが、今は兄も実家に戻り仕事を手伝ってくれています」

財布やバッグ、靴など革製品のクリーニング＆コーティングも実施

　中村さんのもとでは、財布やバッグ、靴といった革製品のクリーニングも実施。角に生じた擦れ傷や色あせも補修し、かつての色つやをよみがえらせます。生まれ育った阿佐谷に根差し、現在は北口本店と阿佐谷南店を展開。各店の店頭にはボックスを設置し、24時間洗濯ものを受け付けています。

　「空調ルームで衣類をお預かりし、害虫や紫外線から守る保管コースも用意しています。さらに、集荷・配送サービスも強化するつもりです」

　長らく家族で会社を営んできましたが、中村さんは自身が代表になって以降、少しずつ従業員を採用。業容を拡充し、顧客のニーズに応えるためにも、今後は後進の育成に力を注いでいきたいと言います。

　「私の場合、父が職人ではなかったため、時には飛び込みで他店を訪れ、教え乞うたこともあります。昔の職人さんは惜しみなく持てる知見を伝えてくださり、ご恩に報いるためにも、今度は私が蓄えたノウハウを次世代へ還元したいと思っています」

　子どもたちが遊んで、くたびれたぬいぐるみもきれいに洗い、ふかふかの風合いに。晴れの日の衣装や愛用品、形見なども美しさを取り戻し、家族の思いや記憶を紡いでいます。

（取材年月：2025年9月）

生地を傷めず衣類のシミを落とす技術で、晴れの日の衣装や愛用品などを美しい姿かたちに

スーツやダウン、キャップ、スニーカーなど多様なアイテムをクリーニング

1952年に創業した家業に入り、一から知識や技術を身につけ代表に就任

財布やバッグ、靴など革製品のクリーニング＆コーティングも実施

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