3Dスキャン技術で建築現場の課題解決を目指す測量エンジニア川島ペーター

3Dスキャン技術で建築現場の課題解決を目指す測量エンジニア

川島ペーター

建物を立体的に捉える3次元測量から点群データによる図面作成まで一貫

　既存の建物を改修するリノベーションや、用途変更するコンバージョンでは、「設計図が残っていない」「資料が古く現況と一致しない」「形が複雑で調査に時間がかかる」といった課題がつきものです。建物の状況を正確に把握できないと、手戻りによる施工の遅れや追加コストを生み、安全性を脅かすリスクにもなりかねません。

　東京都調布市の「3dims（スリーディムズ）」の共同代表・川島ペーターさんのもとでは、レーザー光線で対象物を立体的に表現する3次元測量を実施。短時間で広範囲を網羅し、取得した点群データから平面図・立面図・断面図などを作成しています。

　「3Dレーザースキャンで、建物の形状を原寸大のスケールかつミリ単位の精度で読み取ります。壁や柱といった室内の基本的な構造を測定する際、家具などを片付ける必要はなく、効率的に作業を進められるのも特長です」

　ドイツ出身の川島さんは、国内外で延べ219棟・約98万㎡を測量。海外では5万㎡の建物を手掛けた経験もあります。

　「データの整理・加工まで一貫し、測量を含まず1カ月で2万〜3万㎡規模の成果物を提供できます。100㎡程度の建物であれば測量に1日、データ作成に2日、最短3日で納品可能です」

　ドイツの自治体をはじめ、設計事務所や不動産会社、ビルオーナー、大学などから依頼を受託。住宅、学校や病院、オフィス、ホール、競技場、教会や美術館のような歴史的建造物など、これまでに手掛けた物件は多岐にわたります。

　「部材の材質や設備機器の品番などの情報を一元化するBIMモデルも承ります。施設資産を経営戦略に生かす、ファシリティマネジメントにもご活用ください」

ドイツで生まれ育ち、日本文化への興味から来日。建築士とともに創業

　川島さんは、中世の街並みとボーデン湖畔の美しい景観を有するドイツ・ラーフェンスブルク郡で1991年に生まれました。地元の工業学校・情報技術科を卒業後、現地で建築測量の職に就きますが、半年余りで退職して日本へ渡ります。

　「かねてより日本の文化に興味を持っていたので、ずっと渡日を望んでいました。私は都内の語学学校に通った後、民間主体で貧困や紛争などの問題解決に向け国際協力を図る、福岡県のNGO団体で研修しました。日本人の妻にはインターンシップの時期に出会いました」

　1年の留学を経てドイツに戻り、大学へ進学。測量学を専攻し学びを深めますが、中退して建築図面のデジタルデータを制作する会社へ入社します。1年後の2016年には勤め先の株式を取得し、代表に就任しました。

　専門学校で製図の勉強に励み、2020年にはフィリピンで会社を設立し、専用ソフトで図面を作成するCADオペレーションの拠点を構築。2022年に、二級建築士の小田実祈子さんと共同で「3dims」を立ち上げます。

　「小田さんとは共通の知人を通じて知り合いました。ドイツからフィリピンへ向かう際によく日本に立ち寄っていて、何度かお会いするうちにビジネスの話が弾んだのです。小田さんは約2年間ドイツに軸足を移し、一緒に仕事をしてくれたことに、とても感謝しています」

　2024年にドイツで請け負っていた案件が一段落したのを機に、川島さんは家族とともに日本へ。2025年から国内での活動を本格的にスタートしました。

建物の構造や寸法、不具合などを捉え、現状を記録する資料としても納品

　昔ながらの木組みで建てた古民家、鉄骨造と木造を掛け合わせた店舗兼住宅、鉄筋コンクリート造の学生寮など。川島さんらは工法もさまざまに築年数を経た建物を測量し、再生や保存に向けて精緻な図面を納めてきました。

　「固定式スキャナーとモバイルスキャナーを使い分けることで、建物の規模や求められる詳細度など、プロジェクト仕様に応じた全体像を正確に捉えることができます。内外装の構造や寸法のほか、ゆがみ、傾きといった不具合をつかみ、工事範囲などを明らかにします。建物の現状を記録する基礎資料としてもご用命いただきます」

　昨今はAI（人工知能）が進化。質の高いサービスを届けるため、AIによる製図補助や画像解析など、新しい技術も積極的に取り入れていきたいと言います。

　「新規採用や人材育成に力を入れて組織を拡大するとともに、今後は設計分野にも進出していく方針です。当方には小田さんをはじめ、専門性を備えた一級建築士が複数在籍しています。物件の規模や用途を問わず、多様なニーズに応えていきたいと考えています」

　異国の地、日本で暮らし、事業を展開する川島さんには二つの夢があります。一つは東京都庁を測量することです。

　「初めて来日したとき、都庁の展望台から東京の街を見下ろしたときの感動が今も忘れられません。大都市を象徴する建造物を、いつか自分の手で計測したいですね」

　もう一つは、日本で居酒屋を開くこと。日本とドイツの料理を融合させ、両国の文化をつなぐ場にしたいと思いを語ります。

（取材年月：2025年10月）

3Dレーザースキャンで既存建物の現状を正確に描き、改修や用途変更などをサポート

建物を立体的に捉える3次元測量から点群データによる図面作成まで一貫

ドイツで生まれ育ち、日本文化への興味から来日。建築士とともに創業

建物の構造や寸法、不具合などを捉え、現状を記録する資料としても納品

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