歩行をコントロールするオーダー・インソールの専門家角倉渉

歩行をコントロールするオーダー・インソールの専門家

角倉渉

靴選びだけでなく、一人一人の歩き方をコントロールするオーダーメード・インソールを提供

　大阪メトロ谷町線喜連瓜破駅から長居公園通りを東へ、喜連住宅前交差点の角にあるオーダーメード・インソールの店「フットマークス」。
　店頭にはドイツ製のコンフォートシューズが並び、フロアの一角には黄色いラインが引かれた歩行撮影用コースが設けられています。
　
　「外反母趾や偏平足などの足の変形、左右のサイズ違いなどにより、『合う靴がない』『歩きづらく膝や腰まで痛みがある』といった悩みを抱えて駆け込まれる方がほとんどです。中には、さまざまな疾病で医療機関に通院中の重症者の方もおられます」
　
　そう話すのは、27年以上にわたり、年間1000足以上のインソールを製作してきた角倉渉さん。靴やインソールが人体に与える影響を医学的見地から研究し、フットケアの専門家を育成する「オーソティックスソサエティー」の認定フットコントロールトレーナーでもあります。

　足や膝などの痛みや変形には「歩き方の良し悪し」が大きく関わっているとの考えから、一人一人の足の動き・歩き方を分析し、歩き方そのものをコントロールするという独自の技術が特長。
　
　「詳しく測定し、これまでの生活習慣や職業、けがや病気の体験などを詳しくヒアリングした上で製作に取り掛かります。後日、6割方調整したものを装着し、店内コースをを往復していただき、効果を確認しながら、1ミリ単位で調整を繰り返して仕上げます」
　
　角倉さんのほかに、義肢装具士や靴職人といったフットウエアの専門知識を持つスタッフが在籍。医療機関と連携して、下肢に障害を持つ人や病気による変形といったケースにも対応し、保険適用も可能です。

大病を克服し、靴選びと足の痛みに悩む声に応える「オンリーワンのインソール」製作へ

　薬剤師の資格を持ち、製薬会社の営業職として好成績を収めていた角倉さんに転機が訪れたのは、40代半ばの頃。
　「次第に担う責務も重くなり、『新しい挑戦をするなら今しかない』と、安定した環境から飛び立ったつもりでした。新たに事業を立ち上げて、『さあこれから』というタイミングで病気が発覚。皮肉にも本当の意味での人生のリセットとなってしまったんです」と振り返ります。

　「再起できるなら、次は困っている誰かの助けになれることを」と神仏にも祈る思いで闘病。家族が始めたセミオーダーパンプスの輸入販売を見守るなかで、年齢に関わらず訪れる人の多くがファッション性と同時に多様な足の悩みを口にすることに気づきます。

　「おしゃれと機能性を合わせ持つフットウエアへのニーズが高い割に、流通している製品では十分に応えられていないのではないか」と考えた角倉さん。
　前職で医療機関と接点があったことに加え、「常にオンリーワンでありたい」とする欲求が背中を押し、医療や靴の専門家で構成された研究機関「オーソティックスソサエティー」で学び始めることに。

　技術者としての知識とスキルを身に付けた5年後には、コンフォートシューズ販売とオーダーメード・インソールの専門店として再スタート。
　「幸いにも大病を克服したうえ、自分でも気づかなかった手先を使う能力まで授かったようです。スランプに陥ったアスリートに、土壇場のチャンスで神がかったプレーが飛び出すようなものかもしれませんね」と笑います。

歩行姿勢を調整するフットウエアの重要性を伝え、オーダーメードシューズの工房もオープン

　角倉さんはフットウエアを“医療的な治療やトレーニングに頼らない歩行姿勢の調整装具”として位置づけ、着用者の動きに合わせてフィッティングする重要性を唱えています。
　
　歩行運動を支える全身のメカニズムを理解し、バランスを整えるための膨大な研究・実践データを蓄積。歩き方を改善に導いてきた実績をもとに、健康や生活の質向上といった社会課題にも深く関わるフットウエアの考え方を広く紹介する取り組みに注力。
　股関節に障害を持つ患者の会の推奨を受け、近隣地域で講演会に登壇するなど、啓発にも努めています。

　さらに、培った独自の技術を広く提供するため、後進の育成にも力を入れています。
　「これまでにも、当店からインソールの製作技術者を送り出してきましたが、世の中のニーズに応えるには、まだ十分とは言えません。長年蓄えてきた知見を活用できるよう、できる限り力を尽くしたいと考えています」

　インソール製作と並行して2024年からは、店舗2階をオーダーメードシューズの工房としてオープン。三男の志遠（ムネト）さんが、より幅広い要望に応えられるよう引き継いだ技術を進化させ、角倉さんの思いをつなぎます。

　「毎日何気なく繰り返してきた動作は、アスリートでもない限り、自分の意思だけで変えるのは難しいでしょう。何も考えずに踏み出すだけでスムーズに次の一歩が出るようなフットウエアづくりで、足元のストレスを忘れて自信を持ってお出掛けできるよう、皆さんを応援します」

（取材年月：2024年5月）

ストレスフリーな一歩で、治療やトレーニングに頼らないアクティブな生活を

靴選びだけでなく、一人一人の歩き方をコントロールするオーダーメード・インソールを提供

大病を克服し、靴選びと足の痛みに悩む声に応える「オンリーワンのインソール」製作へ

歩行姿勢を調整するフットウエアの重要性を伝え、オーダーメードシューズの工房もオープン

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