PROFESSIONAL
STORIES

Mybestpro Interview

観察と対話を通じて、空間・製品の垣根を越えた暮らしを支えるデザインを探求

「関係性」から考える空間・店舗・製品デザインのプロ

鍋田知宏

鍋田知宏 なべたともひろ
鍋田知宏 なべたともひろ

#chapter1

見えないものを整え、思考から始まるデザインで製品や空間をプロデュース

 デザインの視点で地域を支援するのは、長野県佐久市に拠点を置く「DesignLab.+Ca(デザインラボプラスシーエー)」代表の鍋田知宏さん。食器、生活雑貨、照明などの各種製品や家具、店舗やショールーム、医療・福祉施設、住宅といった空間をデザイン、プロデュースしています。

 「『デザイン』は、何かを具現化する手段だと考えるかもしれませんが、実際には見えないものを整える作業のほうが大きなウエートを占めています。人と人との関係性や、現場に漂う違和感、言葉にならない不便さ。対話と観察からそれらを丁寧に読み取り、課題解決に向けた構造を作り上げていくプロセスそのものが、デザインの本質だと思っています」

 例えば空間デザインでは、最初の1日を、その場にただ座って過ごすことから始めます。人の動きや視線、立ち止まり方を観察した上で「なぜこの時こう動いたのですか?」と尋ねる。本人も気づいていなかった無意識の行動が、少しずつ意識上に浮かび上がってくると話します。

 「対話では、現場に漂う『もやもや』を拾い上げていきます。素材と素材、人と空間、顧客と提供者。目には見えない関係の糸をひも解き、再構築することで、利便性や快適性を高めます」

 地元企業との商品開発でもヒト、モノ、コトの関係性を創出。金属加工で高い技術力を持ち、海外にも展開する吉田工業(佐久市)との協業では、鯉の焼き型「SAKU KOIYAKI」や、極薄アルミに木曽地方の漆を施した酒器「AWAI」などを制作。漆職人やWEBデザイナー、支援機関など多様な地域の力を束ね、培った技と思いをかたちにしてきました。

#chapter2

空間をつくる「モノとモノの関係性を整えるデザイン」を学び、実践

 日本大学大学院在籍中から黒川雅之建築設計事務所に所属。鍋田さんは建築設計からプロダクト、インテリアデザインまで幅広い領域で活躍する同氏のもとで経験を積み、大手企業のデザイン部門とも協業し、クリエイティブの一線に立ちました。

 当時から強く共鳴していたのが、「空間の先にモノがあるのではなく、モノが空間をつくる。すべての基本はモノであり、デザインとは、モノとモノの関係性を整えること」という黒川氏の考え方です。

 「『人物』と言うように、人もモノの一種。『人間』とは、人と人の間に生じる関係です。同じように、建物や家具、照明などとの関係を通じて人間との調和を図るという思想にひかれました」

 27歳の頃、家族の介護でフルタイム勤務が難しくなり、独立を決意。前職で縁ができた医療機器メーカーの仕事を機に、医療環境の改善やスタッフの負担を軽減するデザインに取り組むようになります。

 「集中治療室(ICU)のように緊急性を要する現場では、迅速かつ的確に処置を施すため無駄のない動線が不可欠です。機能的でありながら、患者さんが安眠、安静できる空間に仕上げることが大切で、光、音などを細やかに調整します」

 2016年には佐久市に移住。2018年には日本医療福祉デザイン協会を設立しました。

 「屋号のDesignLab.は、問いを立てて試す実験の場。CaはCatalyst(触媒)という意味です。地域の医療や看護、介護、生活を支え、価値につなげる媒介者でありたい、という願いを込めました」

鍋田知宏 なべたともひろ

#chapter3

集中治療室における間接照明の必要性と効果について研究し、実用化へ

 「問いを投げかけ、必要なモノ、コトを企業や地域とともに実装していきたい」と語る鍋田さん。現在、信州大学繊維学部先進繊維・感性工学科の博士課程に在籍し、集中治療室における間接照明の重要性とその効果について研究を進めています。

 「現場スタッフの『必要だ』という実感を、エビデンスとして論文化し、実用化につなげることが目標です。電源会社や医療機器メーカー、地元の製造業者などが関わるこのプロジェクトは、大学・企業・医療現場の知見を融合させ、地域に還元するものづくりの実践でもあります」

 また、店舗設計にも注力。地域に移り住む若者が新たに店を構える際、個々の建物だけでなく、通りや人の流れを含めた関係性を意識しながらプランニングしていると言います。

 「私自身も移住者であり、地域の人たちと草刈りに参加したり、古民家を改修して暮らしたりする中で、土地に根ざした生き方を体現してきました。生活も、仕事も、子育ても、すべては関係性で成り立っていると身をもって知り、環境を構成するさまざまな要素のバランスを取る現職の指標にも重なっています」

 古民家の再生も、居住空間を整備するとともに、先人から受け継いだ資源を次の世代へつなぐ営みだと捉えています。
 「同時代を生きる人や企業をつなぐことが横軸のデザインだとすれば、過去から未来へ継承していく行為は縦軸のデザイン。両方あって初めて、地域が持続的に豊かになっていくのだと思います」

(取材年月:2025年7月)

リンクをコピーしました

Profile

専門家プロフィール

鍋田知宏

「関係性」から考える空間・店舗・製品デザインのプロ

鍋田知宏プロ

工業デザイナー

デザインラボプラスシーエー

店舗設計は、無意識など違和感の発見、店舗の居心地・動線を徹底改善。製品開発は、企業の技術とデザインを融合し、企業らしさと差別化を両立させた開発。地域から全国、世界へ売れる製品の協力。

\ 詳しいプロフィールやコラムをチェック /

掲載専門家について

マイベストプロ信州に掲載されている専門家は、新聞社・放送局の広告審査基準に基づいた一定の基準を満たした方たちです。 審査基準は、業界における専門的な知識・技術を有していること、プロフェッショナルとして活動していること、適切な資格や許認可を取得していること、消費者に安心してご利用いただけるよう一定の信頼性・実績を有していること、 プロとしての倫理観・社会的責任を理解し、適切な行動ができることとし、人となり、仕事への考え方、取り組み方などをお聞きした上で、基準を満たした方のみを掲載しています。 インタビュー記事は、株式会社ファーストブランド・マイベストプロ事務局、または信濃毎日新聞が取材しています。[→審査基準

MYBESTPRO