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人々が生きた証しと時代の空気感をデジタルアーカイブとして保存し、未来へとつなげる

8ミリフィルム映像を活用した楽しい認知症予防のプロ

坂本英紀

坂本さん
作業中

#chapter1

古い写真や8ミリフィルムを保存・公開し、全ての世代に向け新たな価値を創造

 年中行事や旅行、家族の記念日や子どもの成長の記録など、家庭用カメラで撮影された古い写真や映像の数々は、家族の歴史とともに当時の街並みや人々の暮らしぶりを伝えます。

 「NPO法人20世紀アーカイブ仙台」の理事長・坂本英紀さんのもとでは、個人から寄せられた写真や8ミリフィルムをデジタルアーカイブとして保存。膨大なデータを整理、編集して仙台市歴史民俗資料館ほか各地の公共施設などで上映、写真集やDVDにまとめて出版するなど、仙台を拠点に東北3県で活動しています。

 「文化的資料として次世代へ残すだけでなく、展示会や上映会を通して皆さんに見ていただくことで、懐かしい昭和の風景と時代の空気感、日々の営みを身近に感じてもらいたいです。同時に子どもから高齢者まで、現代社会に生きる一人一人のために役立てることを目指しています」
 
 そう話す坂本さんの本業は、PRビデオなどの映像制作。在籍する他のメンバーもイベント企画、音響制作、編集・出版といった分野で活躍するクリエーターたちです。

 それぞれの知見を生かした表現方法でアーカイブされた写真や映像は、記録資料の役割以上に芸術作品としても見てもらえるような完成度を備えているのが特長。セピアの世界は高齢者だけでなく、昭和を知らない世代の人をも魅了し、どの会場でも好評だそうです。

 また、心理療法の一つ「回想法」のツールとしても写真や映像を活用。記憶を掘り起こし、語り合うきっかけづくりから認知症の予防につなげています。高齢者施設でレクリエーションを行うほか、2011年以降は東日本大震災の被災地で「昔語りの会」を継続して開催しています。

#chapter2

生き生きと躍動する人や郷里の情景の数々に感銘を受け、収集・保存を始める

 坂本さんは大学卒業後、仙台の企業でイベント企画に携わり、音響技術を身に付けました。
 「学生時代はアイスホッケーに費やしていたので、一から学ぶことばかり。中学時代の同級生と『生まれ育った仙台で一緒に何かを始めよう』と約束した通りに、20代後半に起業しました」

 旅行ツアーやイベントを自主企画したり、ライブハウスの音環境を整えたり、木炭づくりをしたり。やがて映像作品の依頼も舞い込むように。

 当時、家庭用ビデオカメラは一家に一台ともいわれるほどに普及。坂本さんは映像制作の傍ら、個人の8ミリフィルムをVHSやデータに保存する業務も始めました。

 「持ち込まれるフィルムの中には、一昔前に魚屋さんの2階で行われた結婚披露宴などもありました。仙台駅で“バンザイ”の声と紙テープとともに、ほろ酔いの人々に送り出される新郎新婦の姿。市電が行き交う街並み、デパートの屋上遊園地など、今では見られない情景の数々。どれも生き生きと躍動感にあふれ、解説してくださるお客さまの話はいつまでも尽きませんでした」
 
 坂本さんは「もっと広く市民と映像体験を共有したい」と、作業費用を無料にする代わりに、二次使用の許諾を得て映像の収集を始めます。
 「具体的なアイデアはありませんでした。ただ『このまま埋もれさせるわけにはいかない』の一心でしたね」

 くしくもその数年後に東日本大震災が発生。見慣れた街や暮らしの記憶がどれほどかけがえのないものか、日本中の人々の心に刻むことにもなるのでした。

レクリエーション

#chapter3

高齢者施設で、映像を用いた認知症予防の手法の一つ「仙台式回想法」を展開

 高齢者施設や在宅介護の現場で取り入れられている「回想法」は、過去の体験を振り返り話すことで、精神的な安定や認知機能の向上に働きかける心理療法です。
 坂本さんは整備した画像を活用できないかと、回想法の実践スキルを学ぶために、高齢者ケアの調査研究機関「シルバー総合研究所」の講習にも参加します。

 「参加者は介護に携わる福祉や医療業界の専門職ばかり。畑違いの感は否めませんでしたね」

 リーダー研修も修め、レクリエーションの進行役を担うことになった坂本さん。ある施設で印象的な体験をします。
 
 スクリーンに映し出されていたのは、大船渡にあった魚市場での水揚げの様子。「何の魚でしょうね」と利用者らに問いかけると、「カツオ」と返す声がありました。終了後、感極まった様子で坂本さんの元へ駆け寄ったのは、家族に付き添っていた一人の女性。
 「父は以前、水産関係の仕事をしていたんです。もう長い間、言葉を発することもなかった父の声を、こんなにはっきりと聞けるなんて」

 個々の思い出にアプローチし、心身の活性化を促す取り組みは、福祉系シンポジウムで「仙台方式回想法」と紹介されるまでに。担い手の育成にも注力しています。
 
 「活動を長く続けるためにも、WEBサイトで映像ライブラリーを公開するなど、新しい展開を模索中です。一時のブームに終わらないカルチャーの芽吹きやSDGs(持続可能な開発目標)の推進といった、あらゆる可能性を探っていきたいですね」

(取材年月:2024年5月)

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専門家プロフィール

坂本英紀

8ミリフィルム映像を活用した楽しい認知症予防のプロ

坂本英紀プロ

NPO法人理事長

NPO法人20世紀アーカイブ仙台

二次使用の許諾を交わした商業利用可能な8ミリフィルム映像を数多く所有。デジタル化した昭和時代の映像を活用した「回想法」で、高齢者をワクワク、元気にさせる「認知症予防」レクリエーションを実施。

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