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Mybestpro Interview

五感で楽しむ漆塗り体験を通じて、大切にものを使い“小さく豊かに暮らす”を提案

製品と体験サービスを通じて漆を暮らしに溶け込ませるプロ

北山浩

北山浩 きたやまひろし

#chapter1

西陣の色漆を用いてオリジナルカップを作り、工房見学、完成品でお茶を一服

 水をはじき、おわんやお盆、重箱などの食器類や茶道具、たんす、飾り棚、花器といった調度品にも施される漆。奥行きのあるツヤをまとい、しっとりと落ち着いたたたずまいが愛されています。

 「日本の伝統工芸として長く受け継がれてきた漆の良さや面白さを、実際に見て触れて体感してほしいですね」と語るのは、京都市北区・西陣エリアに拠点を置く「COCOO(コクー)」の代表・北山浩さん。魔法瓶のタンブラーや紙製のカップなど、素材の特性を生かした商品を手掛け、年間に約1000点の販売実績を誇ります。

 「当方のメインのお客さまはインテリアショップさんです。いくつも支店を持っているというよりは、地方で感度高く独自の品ぞろえをしているようなお店が多いですね」

 漆を身近に感じてもらうため、北山さんが商品開発と並行して進めてきたのが、オリジナルタンブラーを作る体験会。ピンク、ブルーなど西陣ならではの色漆を用い、カラフルに仕上げます。

 「漆は熟練の職人技が必要で難しいと思われがちですが、誰でも簡単に扱えます。旅の思い出として、またお土産としてお持ち帰りください」

 京都の老舗の漆屋・佐藤喜代松商店と共同開発した技術によって、通常は1週間以上かかる乾燥工程を30分程度の加熱で硬化。鉄瓶などの南部鉄器にも使われていた古い技法を応用したもので、当日に作品を持ち帰ることができます。

 「スポンジや筆で自由に塗り、焼き付けている間に工房を見学、完成した器でお茶を一服します。“塗って、学んで、飲んで、持ち帰る”までがセットの、五感で味わうアクティビティーです」

#chapter2

防水性や抗菌性を備え天然素材で優しい漆に出会い、体験サービスをスタート

 北山さんは、家電メーカーで20年以上にわたり商品企画に従事。転職先では炊飯ジャーや魔法瓶の開発に携わり、商品企画部や新規事業開発チームも率いました。

 「家電メーカーでは調理家電を担当していたのですが、同じような性能を持つ商品がどんどん安価で作れるようになり、差別化に限界を感じていました。一方で魔法瓶は、電気やガスを使わずに温度を保つという普遍的な存在意義がある。持続可能な“サステナブル”がキーワードになるこれからの時代にもぴったりだと思いました」

 真空製品に可能性を見いだし、2022年には自由なものづくりを追求し独立。起業時に魔法瓶と掛け合わせる“ぶれない価値を持つ素材”を探していたところ、漆と出会います。

 「最初は、漆を塗れば高級感が出るくらいにしか考えていませんでした。ところが物理的にも化学的にも堅牢で、かつ抗菌性もあり、さわり心地も滑らか。天然素材で口当たりが優しく、知るほどに漆が持つ力にとりつかれました」

 最初に世に出した魔法瓶タンブラーは、工業製品に漆の手仕事を加えることで、新たな魅力を生み出し話題を集めました。同時に販売だけでは漆の素晴らしさを伝えきれないと感じた北山さんは、触れてもらうことの重要性に気づき、2025年5月から体験型サービスをスタート。事前の催しには延べ50人以上が参加したそうです。

 「漆のプロや友人、カップル、ファミリーと幅広い層がお越しになっています。みんな共通して楽しいと言ってくださり、漆に対するイメージが変わったという声も多いです」

#chapter3

地元で採れた漆を地元で精製し、製品や体験に用いる“ご近所産業”の創出へ

 「本物を堪能したいという声が寄せられ、漆塗りの裾野は広がりを見せています。百貨店の外商の方からも『美意識と実用性が融合したものを探していたんです』と、オファーをいただきます」

 北山さんのもとではホテルや百貨店との連携を強化し、出張型の体験サービスや訪日観光客向けのワークショップをプランニング。文化を学ぶ機会として教育現場や企業研修へ導入するなど、多様なニーズに応えていきたいと展望します。中でも注力しているのが、地域資源を生かした“ご近所産業”モデルの創出です。

 「地元で採れた漆を地元で精製して、地元の人や観光客が創作する。すべての工程が顔の見える距離で完結する仕組みを実現したいんです。京都北部の漆林で採れる丹波漆を、佐藤喜代松商店が精製して製品や体験に活用する体制づくりを進めています。漆研究に大変強い京都市産業技術研究所のサポートも強みです」

 「COCOO」では事業を営む上で“小さく豊かに暮らす”を哲学とし、この言葉には物との付き合い方への問題提起も込めています。ひとつの器を直して使い続け、ひとつの体験を心に残す。生活の中に漆が根づく未来を北山さんは見据えています。

 「大量生産・大量消費の世界は、本質的な豊かさとは異なると思うんです。例えば木製の漆器は断熱性があり、温製のものは冷めにくく、冷製のものは温かくなりにくいのが特長です。色あせや傷みが生じても、塗り直せば新品のごとく生まれ変わります。日常に取り入れ末永く愛用することが、本当の意味での豊かさだと伝えていきたいですね」

(取材年月:2025年5月)

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専門家プロフィール

北山浩

製品と体験サービスを通じて漆を暮らしに溶け込ませるプロ

北山浩プロ

商品企画、事業企画

合同会社COCOO

漆を使った日用品の企画・デザイン・製造・販売を手掛け、漆の魅力を五感で味わうことができる体験サービスを提供。色彩や質感、香を感じながら自分だけの器を作り上げ、完成品はその日のうちに持ち帰りも可能です。

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