重度心身障がい児の心の発達も大切にする福祉施設運営のプロ
木川真喜子
Mybestpro Interview
重度心身障がい児の心の発達も大切にする福祉施設運営のプロ
木川真喜子
#chapter1
「わが子が重度の障がいを抱えて生まれたことが、すべての始まりでした」。そう語るのは、札幌市中央区で「多機能重症児者デイサービス笑夢(えむ)」と「居宅事業所・移動支援ヒーロー」を運営する「志桜」代表の木川真喜子さんです。
「2010年に子どもが誕生した当時、重症児を預けられる施設は限られており、負担は非常に大きなものでした」と木川さん。薬の投与や栄養管理など、定められたとおりに行わなければ命に関わるケアに追われ、自分のペースで生活することも難しかったといいます。
「休みたいと思っても、気を抜ける時間が本当になかったんです。同じ重症児を抱える保護者からも、夜中の発作やアラーム対応で慢性的な寝不足が続き、学校に通わせても少しの体調変化で呼び出しが入るという話を頻繁に聞きました」
こうした経験が、同じ立場の家族を支えたいという強い思いにつながりました。高齢者施設での勤務経験を生かし、2016年に「笑夢」を設立。最初は放課後等デイサービスとしてスタートし、子どもたちの成長に合わせて、18歳以降も利用できる生活介護を併設しました。2022年には、卒業後も通える生活介護事業所を併設し、多機能型重症児者デイサービスとして再スタートしました。
加えて、「デイサービスの時間外も助けてほしい」という声を受け、居宅介護や移動支援を行う「ヒーロー」も立ち上げました。通学・通院の付き添いや入浴、食事介助など、利用者の生活に寄り添い、24時間対応を行っています。「困ったときに頼れる存在でありたい」という姿勢が、事業全体に貫かれています。
#chapter2
木川さんが目指しているのは、「福祉施設」という枠に収まらない場所です。医療的ケア児を含む重症心身障がい児を受け入れる以上、医療行為や介護は欠かせません。それでも、子どもらしい時間を過ごしてほしいと考えています。
子どもたちが集まって初めに行うのが、歌に合わせて一人一人の写真を見せ、名前を呼ぶこと。自分と他者との区別ができるようになることが、重要な側面の一つとなります。
「反応には時間がかかりますが、わずかな動きや声も『お返事できたね』と受け止めます。根気強く繰り返していくなかで、少しずつ反応が早くなったり、返事かなと思える声を出したりするようになります」
施設運営に奔走する中でも、こうした子どもたちとの関わりが楽しいと木川さんは話します。活動内容は日によってさまざまで、できるだけ体を抱きかかえて起こし、介助しながら学校や園で行われるような遊びを実践。折り紙では手を添えて一緒に折り、ベッドの横に手作りの滑り台を設置してボウリング遊びを楽しむこともあります。それぞれがどうすれば楽しめるか考え、工夫するのが日常です。
夏祭りやハロウィンなどの行事では外出も実施。散歩がてら郵便局へ行ってはがきを出したり、買い物をしたりと、社会との接点も大切にしています。活動の様子は写真に撮り、LINEで保護者へ共有。「連絡帳だけでは伝わらない表情や雰囲気を見てほしい」との思いからです。
また、保護者同士の交流や家庭でのケアに役立ててもらえるよう、保護者向けの講座も開催しています。
#chapter3
「この子たちは言葉では伝えられないけれど、意思も夢もある。体のケアだけでなく、心にも目を向けないといけない」。施設立ち上げ時に専門家からかけられたこの言葉は、木川さんの支援の軸となりました。嘱託医には児童精神科を専門とする医師を迎え、精神発達を重視した支援を行っています。
「例えば、目を閉じているのは、疲れているのかもしれませんし、この活動はやりたくないなと思っているのかもしれません。時間を重ねることで、その子の気持ちが少しずつ見えてくるんです」
利用者が何を感じているのかをくみ取りたいという姿勢が、日々の関わりの根底にあります。
施設の運営を支えるのは、多職種が連携するチームです。理学療法士、看護師、児童指導員など専門職が在籍し、約40年にわたり障がい児ケアに携わってきた理学療法士・小堀愛司先生も週1~2回来所。スタッフの指導や利用者のリハビリに加え、保護者からの相談にも対応しています。「スタッフが明るくなければ、子どもたちも楽しめない」という考えから、職員同士のコミュニケーションを大切にし、話しやすい雰囲気づくりにも注力しています。
将来に向けては、重い障がいのある子どもの育児情報がまだ十分でない現状を踏まえ、経験豊富な職員を中心に情報発信にも取り組みたい考えです。最終的な目標は、親が先にいなくなっても、家族と一緒にいるときと同じように安心して暮らせる場所をつくること。
「この子たちの気持ちを大事にし続けたい」という言葉どおり、木川さんの挑戦は、今も現場から未来へと続いています。
(取材年月:2025年12月)
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Profile
重度心身障がい児の心の発達も大切にする福祉施設運営のプロ
木川真喜子プロ
福祉施設運営
合同会社志桜
自身の子育て経験を原点に、重症児と家族の現実を深く理解した支援を実施。心の発達や子どもらしい時間も重視し、放課後等デイサービス・生活介護事業所・居宅事業所・移動支援により切れ目なくサポートします
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