お米の直販サイト運営で消費者と生産者をつなぐプロ保科亨

お米の直販サイト運営で消費者と生産者をつなぐプロ

保科亨

丹精込めて作ったお米を直接家庭へ。中間コスト削減により消費者生産者双方にメリット

　「丹精込めて作ったお米を消費者にダイレクトに届ける直販の仕組みが広がれば、生産者には正当な評価と収益がもたらされ、消費者には安心で質の高いお米を適正な価格で手にできる。これは双方にとって大きな恩恵となります」
　そう語るのは、「コメフル」を運営する保科亨さん。自身もお米の生産者であり、農家の苦労と現状を肌で知る立場から、直販の仕組みに可能性を見いだしました。

　「コメフル」は農家自身が生産したお米を直接消費者へ販売できるマッチングサイトです。お米の販売に特化し、必要な機能に絞り込むことで、シンプルな操作性を実現するともに販売手数料を抑えています。

　「どんな人が、どんな思いで作っているか。どんな自然環境の田んぼで作られているか。そうした背景も評価されるようになれば、自然と良いお米が適正な価格で取引されるでしょう」

　従来の販売ルートは農協や卸業者を経由するのが一般的で、その場合は地域や品種ごとにまとめられ、複数農家のお米がブレンドされてしまいます。そのため、個々の努力や品質が評価されにくいのが現実でした。直販なら「この農家のこの田んぼのお米」という形で認められ、消費者の応援消費につながります。さらに、中間コストを削減できるため、生産者の経営改善にも効果が見込めます。

　「私自身も、お米を買ってくださる方から『おいしかったのでまた買います』『がんばってください』といった声を直接いただくことが励みになっています。消費者の声が生産者を育て、日本のお米の底上げにもつながると思います」

米栽培技術の研究に従事する県職員から起業家へ

　保科さんは、1988年に広島県庁に入庁。技術者および研究者として30年間にわたり、お米の高品質化や低コスト生産技術の研究・普及に尽力しました。2011年からは農業技術指導所の職員として農家を支援。そこで、ある農業生産法人の経営者から「会社を手伝ってほしい」と声を掛けられたことが転機となりました。

　その法人は、水稲を中心に白ネギや加工品づくり、さらには繁殖和牛の飼育まで取り組む資源循環型農業を展開していました。経営者を含めスタッフは若手が多く、熱意あふれる雰囲気に魅力を感じ、県庁を早期退職し同法人へ転身しました。

　「米の生産技術改善を進める中で、安定多収や品質向上、コスト削減は実現できましたが、それを経営に直結させるには『どう売るか』が大事だと実感しました」

　販路拡大の一手としてネット通販を提案。複数のECサイトを利用する中で、利便性や手数料、運営の仕組みなど、それぞれの長所短所が見えてきました。

　「何よりお米だけを売るなら、不必要な機能が多いと感じました。だったら自分でお米に特化したサービスを立ち上げたほうがいいのではと思うようになりました」

　2020年には県立広島大学の経営専門職大学院、経営管理研究科に進学。経営やマネジメントを学びながら研究を深め、お米専用の通販サービス「コメフル」の立ち上げを決意。大学院で培った人脈の支えも得て、2024年にサイトをオープン。今後は「日本全国47都道府県のお米が買える通販」として、認知度を高めていきたいと保科さんは語ります。

生産者同士の情報交換などコミュニティーづくりも構想

　保科さんは販売の場を提供するだけでなく、生産者を支える取り組みにも力を入れています。その一つがオンラインセミナー。消費者への直接販売に不慣れな農家に向け、自身の経験や知識を伝えています。

　「私自身、生産者であり販売者でもありますので、喜ばれる売り方や考え方をお伝えできればと思っています。今後は経験豊富な方も講師に招き、学びの場を広げていく予定です」

　さらに、生産者同士がつながり、悩みを分かち合えるコミュニティーづくりも構想中。対象は販売に関する不安にとどまらず、栽培技術や経営、人材育成、設備投資など、多岐にわたる農家共通の課題です。情報を共有し合える場を設けることで、農家が孤立することなく、互いに支え合いながら成長できる仕組みを築こうとしています。

　「現在、お米の直販は全体の1割程度に過ぎません。直販に仲間が増えていくことが理想です。結果として『コメフル』がそのチャネルになればうれしいですが、まずは直販によって農家の経営が改善し安定することを知ってもらいたいですね」

　お米の価格高騰や供給不足が取り沙汰されるなか、保科さんは「価格が上がりすぎれば、かえってお米離れが進む恐れがある」と警鐘を鳴らします。消費者にとっては安心して選べる適正価格のお米、生産者にとっては努力が報われる持続可能な経営。その両立を目指して「コメフル」は進化を続けています。

（取材年月：2025年8月）

お米に特化した生産者と消費者を直接つなぐマッチングサイトで、持続可能な農業経営を

丹精込めて作ったお米を直接家庭へ。中間コスト削減により消費者生産者双方にメリット

米栽培技術の研究に従事する県職員から起業家へ

生産者同士の情報交換などコミュニティーづくりも構想

専門家プロフィール

Other Interview