PROFESSIONAL
STORIES

Mybestpro Interview

多世代が交流するこども食堂を通して、人に寄り添い、個性や多様なあり方を尊重し、共に支え合う地域へ

こども食堂の運営を通して地域と人々をつなぐプロ

笹渕隆広

笹渕隆広 ささぶちたかひろ
笹渕隆広 ささぶちたかひろ

#chapter1

食育と農育を取り入れ、地域の人が集い、悩みを共有し、第3の居場所を創出

 「ここは、子どもを真ん中にして、幅広い世代の人々が触れ合う場です。毎回200人ほどが集まり、一緒に学んだり体験したりしながら、共に成長しています」

 こう語るのは、「いとしまこども食堂 ほっこり」の代表・笹渕隆広さん。2016年からこども食堂を開始。現在は、糸島市健康福祉センター「あごら」で月1回開いています。

 運営の柱になっているのが「食育と農育」。多世代が一緒に調理をする中で食の大切さを伝え、子どもが「作る、食べる、片付ける」という基本的な食生活習慣を身に付けることを趣旨の一つとしています。また、農園での収穫体験などを通して、農業の大変さや楽しさも伝えています。

 「こども食堂を始めたのは、『子どもが家の手伝いをしない』という保護者から寄せられた声がきっかけでした。子どもが大人になった時に困ることのないよう料理の仕方を教え、出来上がったごちそうを地域の人にふるまうことで親睦を図りました」

 回を重ねると、さまざまな人が集うように。特性のある子どもと保護者、ひとり親世帯の親子、一人暮らしの高齢者など。共に食事をし、語り合うことで、地域交流の場が悩みを共有する場、居心地の良い場所へと変わり、学校や職場、自宅とは異なる“第3の居場所”になりました。活動が評価され、2024年度には福岡県から「ふくおか共助社会づくり表彰」を受賞しました。

 「スタッフもお客さんも、周囲に気になる人がいれば『一緒に行こう』と誘って連れてきます。世代や性別、障がいの有無や国籍などに関係なく、誰もが参加でき、実家のような温かさを感じられるのが『ほっこり』のよさだと思います」

#chapter2

体験講座や学習支援で子どもの可能性を伸ばし、未来を切り開く力に

 「『ほっこり』には、特性のある子どもたちも多数参加しています。そこには、特別支援学校の教員や放課後等デイサービスのスタッフが参加し、専門家を含め、子どもとの関わりを通じて、コミュニケーション力や協調性などを育んでいます」

 それぞれがやりたいことを見つけ、自分らしく生きていく糧にしてほしいと、地域の人が講師となって自分の特技を教える体験講座も開催しています。

 「ある小学生は、87歳の師匠から習った折り紙にはまり、向上心が生まれました。何事にも積極的になり、今は教える立場になっています。周囲から『先生』と呼ばれ、講師としての自覚と責任も生まれたようです」と目を細める笹渕さん。

 世代の垣根を越えて同じものに取り組み、「僕、上手だね」「おじちゃん、下手だね」などと会話をすることで、おのずと子どもの自尊感情も高まっていると言います。

 「生活困窮世帯では、経済的な理由で学習の機会を十分に得られず、授業についていけなくなったり、進学を諦めたりするケースも少なくありません。可能性の芽を摘むことがないよう、学習支援も行っています」

 大学生ボランティアが子どもたちの学びもフォロー。分からなかった問題が解けて勉強する楽しさを覚えるだけでなく、「あのお兄ちゃん、お姉ちゃんのようになりたい」といった目標も生まれているそう。

 「経済的に厳しくても、奨学金を受給して好きな道を進むという選択肢もあります。子どもたちが自分の力で未来を切り開いていけるよう、支援は惜しみません」

笹渕隆広 ささぶちたかひろ

#chapter3

行政や地元企業と連携し、見守りや生活改善が必要な人もサポート

 「ひとり親世帯や生活困窮世帯、高齢の単身世帯など、見守りが必要と思われる人からは、緊急時の連絡を受けられるようにしています。『失業して家賃が払えない』『パートナーから暴力を振るわれている』など、生活環境の改善が必要な場合には適切なサポートをし、支援機関につなぎます」

 20年以上にわたり地域の役員を務める笹渕さん。現在も保護司として孤立を防ぎ再生を支え、市役所や警察など関係機関と連携。JA糸島の女性部や不動産会社、食品会社など地元の企業とも業務提携し、協力を仰ぎます。

 「実は私も、地域に救われた一人です。義母の介護のために知らない土地に来て、世話で1日中家に閉じこもっていました。悩みや愚痴を言える相手がほしいと思う半面、男性が仕事をせずに家にいるのは恥ずかしいことだという思い込みもあって。もんもんとしていた時、地域の人が訪ねてきて事情を聞き、地域活動に引っ張り出してくれたのです。自分は一人じゃないんだ、自分でも役に立てることがあるんだと前向きになれました」

 地域活動では、主に人権啓発の推進に携わり、さまざまな研修を企画。尊厳の保持について啓発した経験が、個性を尊重し、支え合い、多様なあり方を認め合えるこども食堂の運営につながっています。

 「一人で悩みを抱えず、まずは、子ども食堂に遊びにいらしてください。スタッフがたくさんいるので、誰かしら自分と波長の合う人や、友達になりたいと思う人がいるはずです。胸のうちを明かしてもらえれば、何かしらの力になれます」

(取材年月:2025年6月)

リンクをコピーしました

Profile

専門家プロフィール

笹渕隆広

こども食堂の運営を通して地域と人々をつなぐプロ

笹渕隆広プロ

地域と人をつなぐコーディネーター

特定非営利活動法人いとしまこども食堂 ほっこり

地域交流の場、悩みを共有する場、第三の居場所として機能。世代や性別、障がいの有無、国籍を問わず誰でも参加できます。多世代交流を通して、多様性を認め、支え合う地域づくりを実践。

\ 詳しいプロフィールやコラムをチェック /

掲載専門家について

マイベストプロ福岡に掲載されている専門家は、新聞社・放送局の広告審査基準に基づいた一定の基準を満たした方たちです。 審査基準は、業界における専門的な知識・技術を有していること、プロフェッショナルとして活動していること、適切な資格や許認可を取得していること、消費者に安心してご利用いただけるよう一定の信頼性・実績を有していること、 プロとしての倫理観・社会的責任を理解し、適切な行動ができることとし、人となり、仕事への考え方、取り組み方などをお聞きした上で、基準を満たした方のみを掲載しています。 インタビュー記事は、株式会社ファーストブランド・マイベストプロ事務局、または九州朝日放送が取材しています。[→審査基準

MYBESTPRO