時代の変化に対応した柔軟な取り組みで理容師の道を切り開くプロ菊池暢芳

時代の変化に対応した柔軟な取り組みで理容師の道を切り開くプロ

菊池暢芳

半個室・衛生管理・先端技術を導入し、快適さを追求したサロンを展開

　価値観などが多様化する現代、「理容院」の在り方も変わりつつあります。愛媛県松山市の「髪床時代屋」の代表・菊池暢芳さんは、店名に“今の時代”という意味を込め、今を生きるすべての人に寄り添うサロンを目指しています。

　「当店の特徴は三つあります。一つ目はプライベート性を確保した空間です。座席は半個室で、女性のお客さま向けの美容メニューは完全個室のエステルームでご提供しています。周囲の目を気にせず、くつろいでいただけます」

　二つ目は高い衛生レベルを追求した店内設備です。各ブースに換気扇を設置して空気を入れ替え、入り口には手洗い場を設けるなど感染症対策を徹底しています。

　「三つ目は先進的な技術を積極的に取り入れている点です。肌への負担を和らげる美容ライト脱毛をはじめ、きめ細やかな水流で洗う自動洗髪機を採用し、快適性をかなえています。理容院の先駆けになりたいと考えており、常にアンテナを張り巡らせることを心掛けています」

　菊池さんは鏡にディスプレイを内蔵したスマートミラーの導入も検討。画面上でヘアスタイルやカラーのシミュレーションができるため、「視覚的に仕上がりを共有できるだけでなく、新しいスタイルに挑戦するきっかけになる」と提案しています。

　「当店のお客さまのメイン層は40～50代で、すでに決まったスタイルをお持ちの方が多いです。イメージチェンジに消極的な傾向がありますが、スマートミラーを使えば『こんな髪型も似合うかも』と気付くきっかけにもなります。何歳になっても理想の自分を描いてワクワクしてもらいたいですね」

安心して髪と肌を預けられる場所を目指し、誠実な対応で信頼を構築

　早くから理容師を志していた菊池さんは、高校在学中に通信教育で知識を習得。卒業と同時に市内の理容店に勤め、一年後に免許を取得し技術を磨きました。1992年、25歳で「髪床時代屋」を開業。顧客のニーズに応え女性向けのメニューも数多く打ち出し、地域に根差した店づくりで勤務時代から40年来の常連もいると言います。

　スタイリングやメークで「美を引き出す」のが美容室の趣旨で、外見を「整える」ことを目的とした理容室では、ムダ毛を処理するフェイスシェービングを施せます。プロの顔そりは肌を傷めず産毛と古い角質を除去できるため「肌そのものがきれいになる」と定期的に通う女性客も少なくありません。

　「当店はフェイスケアメニューが充実していることもあり、カットのついでに肌の悩みを寄せられることも多いです。特に中高年の男性の方は『かみそり負けや黒ずみなど、気になることを気軽に相談できる』と、当店を頼りにしてくれるようです」

　パーソナルな部分に触れる仕事柄、顧客に安心してもらえる場所であることを何よりも大切に考えている菊池さん。プライバシーに配慮した個室ブースや、アロマによる空間演出といったハード面だけでなく、親身な対応や誠実な受け答えで信頼関係の構築に努めています。

　「お客さまが施術中に眠ってくれると『やった！』と思います(笑)。それだけリラックスしていただいているということですからうれしいですね。これからも実直に励み、皆さんの期待に応えられる店でありたいです」

技術の継承と進化のため理容師の「道」を開き、業界を活性化

　菊池さんが次々に新しい取り組みを展開する背景には、高齢化が進む理容業界への思いがあります。高等学校で長く体験授業を実施してきた経験を生かし、現在は県外の理容師養成学校で講師を務めるなど人材育成にも注力しています。

　「理容師はお客さまの顔に触れるので、手の柔らかい女性や若い方こそ力を発揮できる仕事だと思います。お顔そりのようにエステとの相性も良く、技術を生かせるシーンは少なくないはず。業界も若い世代を求めています」

　理容師が減少している要因は、アシスタント時代の給与の低さや、立ちっぱなしや無理な姿勢で肉体的にきつい点にあるのではないかと語ります。

　「養成学校では実践的な講義を行い、卒業後すぐに一人前の理容師としてデビューできるくらいのスキルを身に付けさせたいと考えています。肉体面に関しては、デジタル機器の導入でどこまで負担を軽減できるか自身で試行中です。理容師業界の働き方改革に一石投じられたらと願っています」

　いずれ理容師と美容師免許が統合される可能性に備え、2022年に美容師免許も取得した菊池さん。自分が道を切り開くつもりで、今後も時流に乗り変化し続けると言います。

　「理容師として現場に立っていると、私たちがまだまだ必要とされていることを肌で感じます。技術も途絶えさせてはいけないと思います。充実感を持って働く理容師でなければ、充実した顧客体験も提供できないので、お客さまのためにも業界の在り方を変えてきたいですね」

（取材年月：2025年4月）

理容の枠を超えて。現代の“整える”を提案し、自分の理想をかなえる機会に

半個室・衛生管理・先端技術を導入し、快適さを追求したサロンを展開

安心して髪と肌を預けられる場所を目指し、誠実な対応で信頼を構築

技術の継承と進化のため理容師の「道」を開き、業界を活性化

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