仏教を通して現代社会の課題に寄与するプロ
木村祥泉
Mybestpro Interview
仏教を通して現代社会の課題に寄与するプロ
木村祥泉
#chapter1
秋田県能代市の能代公園の北端に位置し、米代川越しに白神山地を望む高台にある「湯殿山龍泉寺」。県の重要文化財である薬師如来像や十一面観音立像をはじめ、全国にファンの多い仏師・円空作の仏像などを収蔵する古刹です。また石や山、木などの自然物を神聖視し、それを神や仏として崇拝した仏像群、御沢仏(おさわぶつ)はおよそ五十体を安置しています。
ホームページは参拝者向けの情報が充実し、Googleストリートビューでのオンライン参拝にも対応と、開かれた寺という印象の湯殿山龍泉寺。しかし、戦後復興から取り残されたまま、徐々に雑木林に覆われ、朽ちかけた建物が放置された廃寺寸前の状態にあったと言います。
住職の木村祥泉さんが祖父である先代から引き継いだ後、「人々が心を寄せるお寺に」と再生に取り組み、ようやく整備を終えたのは2023年5月。
風通しの良くなった境内では、長く受け継がれてきた年間行事に加え、お茶会などが催され、写経や写仏、ヨガや瞑想の会に足を運ぶ人も見られるようになりました。
「『お寺は先祖供養のためにある』と言う人も多いかもしれません。もちろん祈りの場であることに違いありませんが、私たち自身が生きている意味やどう生きるかを、仏教の教えを通して学ぶ場所でもあります」
木村さんは境内の整備を進めながら、先人たちが大切に受け継いできた歴史や文化を次世代へ継承するために何ができるのかを模索。同時に現代社会の抱える課題にも向き合います。
参拝者から寄せられる悩みごとの一つ一つに耳を傾けるほか、地域の活性化にも貢献。また社員研修などの依頼にも応じています。
#chapter2
湯殿山龍泉寺で生まれ育った木村さんは、地元を離れて仙台のIT専門学校に進学。卒業後は、PCインストラクターの道に進みます。しかし、母が突然の病に倒れ、高齢の祖父に病気が見つかるなど、介護の担い手が必要に。家族の生活を支えるために、寺に戻ることを余儀なくされます。
当時21歳の木村さんにとって、介護と仕事、寺の後継者としての務めに追われる日々は、並大抵の過酷さではありませんでした。
「円形脱毛症を患うほどの状況にも関わらず 、自分自身が“若者ケアラー”だとは思いもしませんでした」と振り返ります。
「祖父が亡くなった折、法要での僧侶の言葉が心に深く染み入りました。22歳で出家し仏教の教えを学ぶうちに、ようやく頑なだった心が安らいでいったのです」
「まずは人々が集える場所に」と寺の再生にも着手。荒れた境内の片付けに取り掛かります。本堂の修繕にはクラウドファンディングも活用し、目標を一部達成。
当初はコンサートやフードイベントなど目新しい企画を次々と打ち出した木村さんでしたが、やがて「集客に終始するのは寺本来の姿ではない」と思い至ります。
「湯殿山龍泉寺には、文化的価値の高い建造物や収蔵物だけでなく、地域の信仰や祈りの対象として長く存在してきた歴史があります。伝統や文化に触れる機会を損なうことなく、人々がより豊かに暮らすための支えとなる場でありたいと考えています」
木村さんは布教師として仏教の教えを人々に説く一方、取得したカウンセラーとしての知見と厳しい守秘義務も携えて、一人一人の苦しみにも向き合います。
#chapter3
木村さんはITスキルを駆使し、寺の情報を発信。国内外からも関心が寄せられています。
地域に根差した取り組みもその一つ。秋田杉を素材にして作成した御朱印は、参拝の記念として県外から求める人も増えています。
「材木屋さんからでた秋田杉の廃材を譲り受け、地元の就労支援作業所の人たちに手作業で御朱印の形にしていただいています。秋田杉ならではの豊かな香りとともに、唯一無二の美しさを味わってほしいですね」
さらに「納涼法話」と題して制作した動画も話題に。湯殿山龍泉寺の収蔵品の一つで、地元に伝わる昔話「羽鳥沼の生面」にも登場する、不気味な形相をした老女のお面について語られたものは、SF童話大賞作家による絵本化も予定されているそうです。
「実はもっと怖い後日譚もあるんですよ。それは実物の前でだけお話します」とのこと。
木村さんのSNSやブログにほっこりした彩りを添えているのは、日本画の技術を元に描くイラスト。仏画の模写や日本の昔話などをテーマにした作品は、雑誌の挿絵やデジタルアートの海外コンテンツでも発表しています。
「人生100年時代、好きな日本画は京都芸術大学で勉強中。もちろんライフワークである密教や歴史、曼荼羅について探究し続ける姿勢は生涯変わりません」
仏教の教えを現在に伝える試みは続きます。
(取材年月:2023年9月)
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仏教を通して現代社会の課題に寄与するプロ
木村祥泉プロ
僧侶
湯殿山龍泉寺
「人々が心を寄せるお寺に」と廃寺寸前の寺の再生に取り組む。仏教の教えを通して現代社会の課題に向き合い、歴史や文化を次世代へ継承、学びの場とする存在意義や情報をさまざまなツールで発信。
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