中小企業の事業を守るBCP策定を支援するコンサルタント伊藤享佑

中小企業の事業を守るBCP策定を支援するコンサルタント

伊藤享佑

企業ごとの状況にあわせたリアルな〝備え〟をワンストップサポート

　地震や台風、サイバーテロ、感染症の拡大─。自然災害や緊急事態への備えは万全ですか。不測の事態に備える「BCP（事業継続計画）」策定を、中小企業向けに支援しているのが、「光和」取締役の伊藤享佑さんです。

　「大手企業と比べて、中小企業のBCP策定率は低く、2割未満との調査結果もあります。例えば、災害で商品やサービスの提供が止まった場合、取引先がいつまでも待ってくれるとは限りません。損失を最小限に抑え、顧客の信頼を守るためにも、あらかじめ対策を決めておくことが重要。BCPを通じて、リスクマネジメント力を高めることができます」と伊藤さん。

　BCP策定には、概ね3カ月かけて取り組みます。業種・業態はもちろん、社内体制や事業所の立地などによっても、想定されるリスクは異なるため、対策は企業ごとにカスタマイズします。
　「製造業であれば、停電時にどう生産ラインを維持するか。介護施設なら、職員が出勤できるかどうか。一つ一つのリスクを洗い出し、現場に即した対応を一緒に考えていきます。自衛隊として被災地支援にあたった経験があるため、リアリティーのある提案が可能です」

　さらに、策定後のサポートも充実しています。訓練の実施や従業員の安否確認システム、備蓄品管理システムや防災用品の販売、などワンストップサービスを提供。防災用品は卸価格で販売するなど、コスト面にも配慮しています。

　これまでに伊藤さんが支援してきた企業は250社を超えます。2024年4月からBCP策定が義務化されている介護事業者をはじめ、製造、建設など、業種は多岐にわたります。

研修や訓練で社内の理解を深め、より実践的な内容にアップデート

　「BCPは作って終わりではありません。理想は、年に一度、訓練と内容の見直しを行うことです」と伊藤さん。BCP策定後には、必ず従業員向けのオンライン研修を行い、納品後1年間は、無料のアフターフォローを設けています。
　「BCPの作成は、主に経営層が進めますが、緊急時にその内容を実行するのは従業員なので、社内全体で理解を深めておくことが不可欠です。会社が機能不全になれば、従業員も職を失う可能性があります。だからこそ、会社を守るためにできることを自分ごととして考えてもらえるように、研修を通じて第三者の立場から伝えます」

　訓練メニューも、「事業を止めない」という視点を軸に設計します。たとえば、停電を想定して発電機を実際に稼働させてみる、パソコンの故障を想定してバックアップデータから復旧作業を行うといった、現実に即した内容です。訓練の中でうまくいかなかった点があれば、改善点としてアップデートしていくことができます。
　コンサルティングは単発型とサブスクリプション（サブスク）型の両方に対応しており、2年、3年と継続する企業も少なくないそう。
　「BCP策定や訓練を、単発でお手伝いすることもできますが、サブスク型ではトータルでお得な料金設定にしています。年月を経ると人事異動や事業の変化などがあるため、常に実情に即した内容にできるサブスク型をおすすめしています」

　実際に支援を受けた企業からは、社内業務が効率化できたという声も。
　「現状を洗い出す過程で、自社の課題や強みが明確になり、業務改善にもつながります」

東日本大震災の復興支援を経験し、中小企業の防災力強化に関心

　子どもの頃から自衛官を目指し、陸上自衛隊に約11年間在籍した伊藤さん。「小学生の頃から世のため人のためになりたいという思いがあり、国防に興味がありましたね」と振り返ります。

　大きな転機となったのが、2011年の東日本大震災でした。現地では行方不明者の捜索や避難所の訪問など、復興支援活動に従事。しかし、準備が整っていても、指示がなければ動けない場面も多く、もどかしさを感じることもあったと言います。
　「大手企業や官公庁など大きな組織では、すぐに動けないこともあります。一方、中小企業は社長の一声で迅速に対応でき、地域にも根差しています。中小企業の防災力を高めることは、地域の防災力につながるのではと考えるようになりました」

　その後、独立を視野に入れ、ベンチャー企業に転職。子会社の立ち上げなどを経て、2022年にBCPコンサルティング業で起業しました。〝救える命を救いたい〟という思いは自衛官時代から一貫しています。
　「当時は、常に非常事態を想定して訓練していました。その危機管理意識は、企業の危機管理を考える上でも生かせます」

　防災に関する幅広い相談に対応できる存在を目指す伊藤さん。中小企業の経営者に向けて、こうメッセージを送ります。
　「BCPの策定は、自社を見直すきっかけにもなります。自然災害が原因で倒産し、仕事を失って困っている方々を見てきました。有事に立ち向かえる体制を整え、事業を守ることはもちろん、地域にも貢献できる組織を一緒につくっていきましょう」

（取材年月：2025年4月）

元自衛官が提案する、中小企業のためのBCPコンサルティング

企業ごとの状況にあわせたリアルな〝備え〟をワンストップサポート

研修や訓練で社内の理解を深め、より実践的な内容にアップデート

東日本大震災の復興支援を経験し、中小企業の防災力強化に関心

専門家プロフィール

Other Interview