自然に近い環境でこだわりの野菜を育てる専門家高木直和

自然に近い環境でこだわりの野菜を育てる専門家

高木直和

葉物や根菜など旬の品をオンラインと対面で提供、自然に親しむ収穫体験も実施

　「うまみがぎゅっと詰まった野菜をぜひ味わっていただきたいです」と話すのは、神奈川県藤沢市で農園「たかぎさんちの畑」を営む高木直和さん。自然に近い環境で多彩な野菜を育て、販売しています。

　「湘南エリアのほぼ中央に位置する藤沢市は南に相模湾、北は相模野台地が広がり、温暖な気候にも恵まれ、漁業や農業が盛んです。当園では約2500平方メートルの畑で、葉物や根菜など年間20〜30種類の野菜を栽培しています」

　オンラインショップでは、旬の野菜の詰め合わせを販売。夏は採れたてのジャガイモをキロ単位で発送し、皮付きのまま塩ゆでや素揚げにすると、ホクホクした風味が一層引き立つそう。ナスやニンジン、黄色ズッキーニなど彩り豊かなセットのほか、「紅はるか」「安納芋」「シルクスイート」といったサツマイモを食べ比べできる秋限定の商品もあります。

　「オーガニックショップや飲食店への卸売りに加え、イベントやマルシェにも出店しています。JR辻堂駅前の神台公園で毎週日曜に開かれる朝市は、お客さまと直接言葉を交わせる貴重な場です。『以前買った野菜がおいしかった』というお声をいただくこともあり、日々の励みになっています」

　また、野菜に親しんでもらうため、収穫体験の機会も用意。家族連れがイモ掘りなどを楽しみ、収穫した一部をおみやげとして持ち帰ることができます。

　「除草剤を使わない畑は草が生い茂り、さまざまな虫がすんでいるので小さいお子さんは虫捕りに夢中になることもあります。母なる大地と触れ合う中で、自然や食に関心を持ってもらえたらうれしいですね」

過度に手入れせず、自然の力を信じて見守る農法で野菜本来の味を引き出す

　高木さんの農業の特徴は、自然のサイクルを尊重した“引き算の農法”です。
　「雑草は必要な分だけ刈り取り、そのまま畑に敷いて土に返します。過度な手入れはせず、自然の力を信じて見守るやり方です。研修先の農家の方が言っていた『子育てと同じで、先回りし過ぎると成長を妨げる』という言葉が印象に残っており、人間が余計なことをしない考え方を畑づくりに生かしています」

　成長のペースは緩やかで、形がふぞろいなこともありますが、時間をかけてじっくり育った野菜は中身が詰まり、味が濃くなるそうです。
　「大量生産はできませんが、農薬や肥料に頼らない食材を求める方々、特に食の安全を意識する子育て世代の皆さまから、『野菜本来の味がする』と喜ばれています」

　かつてビジネスマンだった高木さん。農業に引かれた原点は幼少期にあります。
　「岩手県の山あいで育ち、祖父母が米や野菜を作っていました。刈り取った稲を天日に干したり、牛の世話をしたりしていましたが、当時は“お手伝い”の延長で、特別な思いはありませんでした」

　高校卒業後は上京し、カラオケ店や寝具メーカーに勤務。仕事に追われる中で心身の疲労を感じ、2021年に退職。妻とともに気候の穏やかな湘南に移住しました。

　「1年ほど体を休めながら今後のキャリアを模索するうちに、畑に毎日出掛けて作業をしていたじいちゃんとばあちゃんの生き生きとした表情を思い出しました。土を耕し、産物を得る暮らしの豊かさを見直したんです」

就農希望者の研修受け入れも視野に、地域の農業振興に貢献することが目標

　自らの進路を定め、短期の農業アルバイトを2度経験したことで作物を育てる面白さと、手応えを感じた高木さん。2022年に県内の農家で1年間の研修を受けることにしました。

　「研修先がたまたま自然に近い環境で野菜をつくっている農家でした。研修初日に、シンプルに焼いただけのカブを食べさせてもらい、甘くみずみずしい食感が今でも忘れられません。『自分が目指す農業はこれだ』と確信しました」

　根が張りやすいように土を盛って畝を立てたり、雑草などを抑制するマルチシートを張ったりする一般的な手法ではなく、土や植物の生命力を生かす栽培方法を学びます。
　「手を加えないため作業量が少なく、緻密な技術も不要です。おおらかな性格の自分にはぴったりでした。日々の発見が新鮮で、1年があっという間でしたね」

　2023年に独立して就農。試行錯誤を経て培った知見と併せ、農業の魅力を若い世代に発信していきたいと言います。
　「農業は、人に喜ばれる“究極のサービス業”だと思っています。太陽の光を浴びながら体を動かし、心身ともに健康でいられる利点もあります。将来的には就農希望者の研修を受け入れるなど、地域の農業振興に貢献したいと考えています」

　額に汗して四季折々の野菜を届ける高木さん。「お子さんの食事に気を配るご家庭や、素材を大切にするレストラン、自然派志向のお店の方々に、ぜひ当園の野菜を召し上がっていただきたい。きっと満足していただけるはずです」と自信を見せます。

（取材年月：2025年10月）

自然に近い環境でじっくりと育て、うまみがぎゅっと詰まった野菜を販売

葉物や根菜など旬の品をオンラインと対面で提供、自然に親しむ収穫体験も実施

過度に手入れせず、自然の力を信じて見守る農法で野菜本来の味を引き出す

就農希望者の研修受け入れも視野に、地域の農業振興に貢献することが目標

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