品質を追求し、きれいに洗うことにこだわるクリーニングのプロ堤一成

品質を追求し、きれいに洗うことにこだわるクリーニングのプロ

堤一成

洗い、すすぎ、柔軟加工の各工程で不純物を除去する蒸留型マシンで洗浄

　「愛着のある品を末永くお召しいただけるよう、当方が細やかにお手入れします」と話すのは、福岡県北九州市で「クリーニングキッズ」を営む堤一成さん。

　スーツ、シャツやブラウス、学生服といった日常着、コートやダウン、セーターなどの季節もの、ぬいぐるみ、羽毛・羊毛布団、毛布といった多岐にわたるアイテムを洗濯。

　「水を使うと色落ちや縮みが生じる衣類は、石油などを用いた有機溶剤で洗いますが下水に流すことができず、繰り返し使用します。排水することなく循環させる上で、溶剤をろ過して新液を精製しなければ臭いや汚れが付着します。当方では洗い、すすぎ、柔軟加工の各工程で不純物を除去する3浴蒸留機を導入しています」

　汗や皮脂、食べこぼしなどのシミにアプローチし、くすみのない状態へ。ワイシャツは縮みやすい襟や袖口、前立てをすっきりと伸ばし張り感を出します。

　「襟は丸みをもたせて立体的にプレス成型することで首になじみ、ネクタイの滑りもよくなります。“治療”するがごとく細部まで手を施して形を整え、クリーンな風合いを取り戻します」

　防虫・防カビ加工、シミや水が染みこむのを防ぐガード加工にも対応。ファスナーの修理やボタン付け、かけつぎ、ウエスト補正も請け負います。

　「あきらめていた汚れが落ち、感動してリピートしてくれる方、遠くからドライブついでに来てくださる方もいます。安価ではありませんが、美しさを優先したいというお客さまの期待に応えます」

母が営むクリーニング店を継ぎ、師匠との出会いで技術と設備の拡充へ

　小さい頃からプロ野球選手を夢見ていた堤さん。学生時代は練習に打ち込み、高校卒業後は野球を通じて地元の大手鉄鋼メーカー関連の企業に就職。2年ほど勤め、母親が一人で切り盛りしていたクリーニング店に入ります。

　「母は『今のお客さまを守ればいい』という考えでした。私が家業を継いでからは事業の拡大や収益アップなど、15年ほど数字ばかりを意識していました」

　堤さんは35歳のとき、のちに師匠として慕う同業者から「堤くんはなんのためにクリーニング屋をしているんだい」と問われ、自らの商売について省みるように。

　「経営方針を改めるべく、暇があれば師匠のもとに足を運びました。工場は古いながらも清掃と整備が行き届き、洗い上がりも清潔感にあふれ感銘を受けました。“きれい”を追求する技術を磨くとともに、設備を充実させることも重要だと教わりました」

　師の言葉に従い、蒸留式のドライ機を導入することを決め、新たな工場探しにも着手。5年がかりで物件を見つけ、2006年に「クリーニングキッズ葛原本店」を立ち上げました。

　「クリーニングは閉鎖的なイメージがあると感じていたので、衣服がどんな工程を経ているのか、作業風景が見えるような造りにしました。名前から、子ども服専門と間違えられることがあるのですが、地域の皆さまに親しまれるように、また私自身が常にクエスチョンを持ち、物事を探究していく子どものような気持ちで事業にまい進したいという思いを社名に込めています」

利益ではなく品質を追い求め、クリーニング業界全体の底上げに貢献したい

　店頭に持ち込む以外にも、堤さんのもとでは小倉北区と小倉南区を対象に各家庭に赴く集配サービスも展開。丁寧な仕事が支持を集め、紹介による新規顧客も増え、高価な品物を預ける顧客も多いと言います。

　「利益を追う経営も過去にしてきましたが、今はひたすら品質を追い求めています。ご満足いただける結果であれば、おのずと私たちを求めるお客さまが来てくださると考えています」

　複雑なデザインやデリケートな素材も手掛け、「汚れは時間がたつほどに手ごわくなるので早めのケアを」と呼び掛ける堤さん。店から遠くに住んでいて利用できないという人には、自社と同じ志を持ち、信頼が置けるクリーニング店を案内。「お気に入りの洋服でおしゃれを楽しみたい」「清らかな身だしなみでビジネスに臨みたい」といった要望をかなえていきたいと話します。

　「従業員が最高のクオリティーを提供できるよう、働きやすい職場づくりにも力を入れています。やりがいをもって職務に励み、お客さまに喜んでもらうことでさらにモチベーションを高め、当店で働いて良かったと思ってもらいたいんです」

　クリーニング業界は競争が激しい世界。業界を担っていく次世代へ、自身のノウハウやこだわりを伝えていくこともにも意欲を見せます。

　「安かろう、悪かろうを望むお客さまはいませんよね。きれいに仕上げることが前提で、スピードや安さは二の次です。実直に取り組む姿勢を若い世代に伝えて、業界全体の底上げに貢献したいですね」

（取材年月：2025年2月）

洗いにこだわるクリーニングで汚れを落とし、きれいで美しい仕上がりに

洗い、すすぎ、柔軟加工の各工程で不純物を除去する蒸留型マシンで洗浄

母が営むクリーニング店を継ぎ、師匠との出会いで技術と設備の拡充へ

利益ではなく品質を追い求め、クリーニング業界全体の底上げに貢献したい

専門家プロフィール

Other Interview