遺品整理士の資格を持つ特殊清掃の専門家末吉芳郎

遺品整理士の資格を持つ特殊清掃の専門家

末吉芳郎

専門の機材・薬剤を使いこなし、二次汚染を食い止める

　「特殊清掃」という業務をご存知ですか。特殊清掃とは主に孤独死や自殺などのご遺体があった屋内の汚染除去、消臭、消毒、害虫駆除、残置物処理などをトータルにサポートするサービスです。千葉県東金市で特殊清掃を手がける株式会社美装空間の代表取締役社長末吉芳郎さんに、お話を伺いました。

　美装空間の特殊清掃では、お部屋の清掃・消臭・原状回復を行い、遺品整理も平行して行います。「現場は人が入れる状況ではありません。異臭と菌などが発生しているからです。一番初めにやらなくてはいけないのが、除菌をして臭いを軽減すること。周りへの被害を止めることです」と末吉さん。
　特に発見まで時間が経過した現場は、臭いや害虫の発生だけでなく感染症のリスクなどもあり、専門の機材・薬剤を使いこなすプロの技術とノウハウが不可欠です。スタッフは使い捨ての防護服を着て、イオン発生器での消毒やオゾン消臭を行います。
　消臭・消毒の後、部屋に残された物（残置物）を処分。残置物の運搬・処理にも気を使います。例えば畳もビニール材でぴったりとラッピング。「密閉した専用の車両で運びます。普通のコンテナやトラックでは臭いや菌が出ますし、物を落として二次被害を招いてはいけませんから」管理会社が慌てて専門業者以外に清掃を頼んだため汚染が広がってしまい、末吉さんに“やりなおし”が依頼されたこともあるそうです。

　ほとんどの場合クロスや畳などの内装材を撤去し、室内リフォームします。一般的なリフォームと違い、どこまで汚染が広がっているかは開けてみないとわかりません。根太などまで汚染されている場合もあります。クロスや床材など表面のものだけでなく、下地ボードを張り替える、塗装し直すなど、必要に応じて細かに手当てし臭いの発生源を取り除きます。また天井にアスベストが使われていて除去の専門職を呼ばなければいけないこともありますが、連携している業者がいるためすべての工程を自社で行うことができます。

信頼を高めるため遺品整理士の資格を取得

　末吉さんが特殊清掃に携わったのは、まったくの偶然でした。末吉さんは約30年、地元密着の内装業を営んできました。そのスキルを生かして入退去時の原状回復を中心とした賃貸物件のリフォーム業務を請け負っていたところ、消臭や消毒を行っている業者からのリフォーム依頼が舞い込んだのでした。

　初めて現場に赴いたのは4年ほど前。特殊清掃という業種があることさえ考えたことがなかったといいます。「リフォームをやっていると色々なものがあるなぁ程度の思いでした。でも仕事をもらえば、当然そこに入らなければいけない。目視して立ち会い、大変だと思いました。その時の強烈な臭いは忘れることができません」

　その後、アパートの管理会社から直接オファーが来るようになります。方法などは経験しながら身につけ工夫を重ねてきましたが、その大変さに慣れることには苦労したといいます。それでも、特殊清掃を手がける理由を「終わったときに『助かりました』とありがたがってもらえる、それが一番大きい」と末吉さん。依頼の頻度は決して多くありませんが、埼玉・神奈川など関東一円からの依頼に応じています。

　さらに末吉さんは特殊清掃をやっていく中で必要だと感じ、遺品整理士の資格を取得しました。「何もない人に頼むのは不安じゃないですか」遺品整理の取り扱い手順や遺品整理に関わる法規制等の知識を身につけたうえで業務にあたっています。依頼主は管理している不動産会社などとはいえ、信頼を高めるための日々の努力は欠かせません。

生前整理の考えを浸透させたい

　いまや日本の高齢化率は30％に迫る勢い。さらに核家族化や家族構成が変化した現代、誰にも気がつかれず亡くなる孤独死や自殺の増加は社会問題になっています。孤独死は周りの住人からの通報で発見されることがほとんどですが、それは部屋から漏れた異臭で気がつくことが多いからだそう。「だからこそ、われわれの仕事は不動産価値に直結するもの」と、末吉さんは語ります。

　今後について伺うと、生前整理の業務に力を入れていきたいという末吉さん。「生前整理をすることで、特殊清掃につながることが減るのではないでしょうか。事前にやるということは余裕がある人が考えるわけですから」機会があるごとにエンディングノートを配布し、その考えの浸透にも尽力しています。

　実は取材にお伺いしたのは、台風19号の来襲を控え15号による被害への対応に忙しい最中。にも関わらず、丁寧に対応してくださいました。今後ますます必要とされるであろう仕事を担う末吉さん。困った人を助けるという強い意志が印象的でした。

（取材年月：2019年10月）

自身の技術と知識と経験を、困っている人のために

専門の機材・薬剤を使いこなし、二次汚染を食い止める

信頼を高めるため遺品整理士の資格を取得

生前整理の考えを浸透させたい

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