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原聡彦

医療経営指導の専門家

原聡彦(はらとしひこ) / 医業経営コンサルタント

合同会社 MASパートナーズ

コラム

警察からの患者の照会があった場合の対処方法は?

2021年11月8日

テーマ:院外事務長の視点

コラムカテゴリ:ビジネス

近畿地方の外科系の有床診療所の院長からの相談です。
最近、警察から電話で当院の患者さんに関する照会が数件ありました。どのように対処すればいいか、お教えください。

質問1 警察からの電話で患者の病名などを問い合せがありました。患者情報を電話にて回答しなければならないのでしょうか?

回答1 電話照会は電話の相手が警察官かどうかの確認もできませんし記録も残りません ので、原則としてお断りすることをお勧めします。まずは公文書による照会を要求することをお勧めします。


質問2 警察署長から「捜査関係事項照会書」と題する書面が届きました。照会事項は、当院に通院している患者さんの「病名と通院期間」です。回答しなければなりませんか。患者さんの同意を得ずに回答した場合、個人情報保護法違反にならないでしょうか?

回答2 「捜査関係事項照会書」は、刑事訴訟法197条2項に基づく照会で公文書ですが、
任意捜査ですので医療機関には照会に応ずる法的義務まではありません。しかし、患者の病名や通院期間のように、カルテを見れば容易に回答できる事実の照会には、回答するのが一般的です。なお、この照会に対する回答は、個人情報保護法の「法令に基づく場合」に該当するので、患者の同意がなくても、同法違反にはなりません。警察からの患者照会に関する公文書の様式は警察署によって若干の違いはあるものの、「捜査関係事項照会書」という様式がありますので必ず警察署長の名前の入った照会書をFAXなどしてもらうようにしましょう。


質問3 照会事項は、当院の患者さんBさんの「カルテおよびクリニックが採取した血液の検体」の任意提出です。Bは殺人事件の被害者であり、当院にてすでに死亡しているので、Bの同意は得られませんが任意提出に応じるべきでしょうか。

回答3 任意提出ですから、クリニックが応じないことも可能です。ただ、今回のケースでは、警察がBさんを被害者とする殺人事件の捜査を行っており、その証拠としてカルテおよび血液の検体を必要としているものと推察されますので、当院が任意提出することは、犯人を処罰することに役立つのでBさんの意思に反するものではないと考えられます。また、当院が拒絶した場合、警察は裁判所の捜索差押令状をとって差押えることも可能ですから、いずれ提出させられる可能性がありますのでこのケースでは応じて頂くことをお勧めいたします。


質問4 照会事項は、当院に通院する患者Cさんの「責任能力の有無」でした。
当院は、どう対処すべきでしょうか。

回答4 たとえ殺人犯であっても、責任能力が無ければ無罪になりますので、責任能力の有無の判定は刑事捜査において極めて重要です。そのため、捜査機関が起訴前に被疑者の責任能力を判断する手段として、簡易鑑定と起訴前本鑑定があり、通常、精神科や神経内科などの専門家に鑑定を依頼します。ところが、今回の照会は、外科医に患者の責任能力の有無について意見を求めようとするものですから、事実の照会の範囲を超えているように思います。したがって、「当院は外科であり責任能力の有無については判断できません」と回答することをお勧めします。

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