知っておきたい!育児・介護休業法と次世代育成法の重要改正点
令和5年9月27日(水)に開催された全世代型社会保障構築本部により、同日付けで、「年収の壁・支援強化パッケージ」が公表されました。
発表直後にも記事を掲載しておりますので、こちらもご参照ください。
記事:厚生労働省より年収の壁・支援強化パッケージが公表されました
これは短時間労働者がいわゆる「年収の壁」を意識せず働くことができる環境づくりを支援するため、当面の対応として決定されたものです。その経緯及び内容についてより詳細に解説していきます。
年収の壁とは
「年収の壁」とは、社会保険料の負担が変わる境目のことを指します。具体的には、第3号被保険者(被扶養者)の収入が一定額以上になると、被扶養者でなくなり、本人が厚生年金保険・健康保険に加入するか、国民年金・国民健康保険に加入することになり、社会保険料の負担が発生するということです。
出典:厚生労働省「「年収の壁」への当面の対応策」
現状と課題解決の方向性
現在の年収の壁の状況と対応の方向性について考えます。
労働者の配偶者の現状
約4割の労働者の配偶者が就労しており、その中には一定以上の収入(106万円または130万円)となった場合の社会保険料負担や、収入要件のある企業の配偶者手当がもらえなくなることによる手取り収入の減少を理由として、就業調整をしている者が存在します。
こども未来戦略方針
106万円・130万円の壁を意識せずに働くことが可能となるよう、短時間労働者への被用者保険の適用拡大、最低賃金の引上げに引き続き取り組むことが求められています。
当面の対応
本年10月から以下の対応が進められています。
106万円の壁への対応:キャリアアップ助成金のコース新設、社会保険 適用促進手当の標準報酬算定除外
130万円の壁への対応:事業主の証明による被扶養者認定の円滑化
配偶者手当への対応:企業の配偶者手当の見直し促進
その他
設備投資等により事業場内最低賃金の引上げに取り組む中小企業等に対する助成金(業務改善助成金)の活用も促進されています。
106万円の壁への対策
106万円の壁への対策として、ざっくり言いますと①キャリアアップ助成金に新たなコースができ、また②社会保険適用促進手当を標準報酬月額の算定から除外できるという制度が始まりました。"106万円の壁"への対策として説明しましょう。
キャリアアップ助成金のコース新設
キャリアアップ助成金に「社会保険適用時処遇改善コース」が新設されました。このコースは、短時間労働者が社会保険(厚生年金保険・健康保険)の適用による手取り収入の減少を意識せず働くことができるよう、労働者の収入を増加させる取り組みを行った事業主に対して、労働者1人当たり最大50万円の支援を行うものです。
この「社会保険適用時処遇改善コース」には3つのパターンがあります。それは
手当等支給メニュー
労働時間延長メニュー
併用メニュー
です。それぞれ内容を見ていきましょう。
手当等支給メニュー
こちらのメニューは、事業主が労働者に社会保険を適用させる際に、「社会保険適用促進手当」の支給等により労働者の収入を増加させる場合に助成するものです。
3年間で労働者1人あたり最大50万円の助成を受けることができます。
出典:厚生労働省「キャリアアップ助成金社会保険適用時処遇改善コース」
労働時間延長メニュー
所定労働時間の延長により社会保険を適用させる場合に事業主に対して助成を行うものです。
以下の表の①~④のいずれかの取組を行った場合に、労働者1人当たり中小企業で30万円の助成受けられます。
出典:厚生労働省「キャリアアップ助成金社会保険適用時処遇改善コース」
併用メニュー
初年度は社会保険適用促進手当を支給し、翌年度は所定労働時間の延長を行うといったように、手当の支給と労働時間の延長を併用して行うものです。
労働者1人あたり最大50万円の助成を受けることができます。
出典:厚生労働省「キャリアアップ助成金社会保険適用時処遇改善コース」
なお、助成金に関してはその他の要件もありますので、詳細については必ず管轄の労働局に確認してください。
社会保険適用促進手当の標準報酬算定除外
社会保険適用促進手当は、被用者保険が適用されていなかった労働者が新たに適用となった場合に、事業主は、当該労働者に対し、給与・賞与とは別に「社会保険適用促進手当」を支給することができます。
この手当は、労働者本人負担分の保険料相当額を上限として最大2年間、当該労働者の標準報酬月額・標準賞与額の算定に考慮しないことになっています。
これらの対策は、「106万円の壁」を意識せずに働くことができる環境づくりを後押しするものです。
Q&A内容のまとめ
また厚生労働省より「キャリアアップ助成金 社会保険適用時処遇改善コース 事業主の方向けQ&A」及び「社会保険適用促進手当に関するQ&A」も示されていますので、その内容を要約したものを一部を紹介します。
- この手当は、「106万円の壁」の時限的な対応策として、臨時かつ特例的に労働者の保険料負担を軽減すべく支給されます。
- 社会保険適用促進手当は、政府から労働者に支給されるものではありません。
- 今回の措置は、新たに社会保険の適用となった労働者であって、標準報酬月額が10.4万円以下の者が対象となります。標準報酬月額11.0万円以上の方は、「106万円の壁」を越えており、今回の措置の対象とはなりません。
- 社会保険適用促進手当は、あくまでも事業主が労働者に対し、労働者の保険料負担を軽減するために自らの判断で支給いただくものであり、新たに社会保険の適用となった場合でも事業主の判断によっては社会保険適用促進手当が支給されないことも考えられます。
- 社会保険適用促進手当については、今回の措置を継続的な賃金の増額につなげていただくという観点から、それぞれの労働者について、最大2年間、標準報酬月額・標準賞与額の算定において考慮しないこととします。
- キャリアアップ助成金は、事業主に対して支給され、労働者個人には支給されません。
- 助成金の支給期間は、令和7年度末までとされています。
- 年収の壁・支援強化パッケージに関する電話でのお問い合わせを受け付ける窓口が開設されています。
- キャリアアップ助成金についての詳細は、厚生労働省の特設ホームページで確認できます。
- 社会保険適用促進手当は、就業規則(又は賃金規程)を変更した上で、原則労働基準監督署への届出が必要となります。
- 社会保険適用促進手当は、標準報酬月額が 10.4 万円超である場合、標準報酬月額に算入する必要があります。
- 社会保険適用促進手当は、月額変更の要件を満たす場合には、標準報酬月額を改定する必要があります。
既に社会保険が適用されている労働者に対し、新たに社会保険の適用となった労働者とのバランスを考慮して、同水準の手当を特例的に支給した場合には、社会保険適用促進手当の標準報酬算定除外の対象となる場合がありますが、キャリアアップ助成金「社会保険適用時処遇改善コース」の対象とはなりません。
助成金の詳細については、管轄の都道府県労働局又はハローワークに問い合わせてください。
参考:厚生労働省「社会保険適用時処遇改善コースに関するQ&A(事業主の方向け)」
参考:厚生労働省「社会保険適用促進手当に関するQ&A」
130万円の壁への対策
パート・アルバイトで働く方々が年収130万円以上になることを避けるための対策について説明しましょう。
「130万円の壁」とは、パート・アルバイトで働く方々が年収130万円以上になった場合、社会保険の扶養から外れることとなるため、自ら国民年金・国民健康保険に加入し、保険料支払いにより手取り収入が減ってしまう問題です。この問題に対して、パート・アルバイトで働く方が、繁忙期に労働時間を延ばすなどにより、収入が一時的に上がったとしても、事業主がその旨を証明することで、引き続き扶養に入り続けることが可能となる仕組みを作ります。具体的には、被扶養者の収入確認を行う際に、一時的な収入変動であることの事業主の証明書を提出することによって、スムーズに引き続き被扶養者として認定されることとなります。
出典:厚生労働省「「年収の壁」への当面の対応策」
事業主の証明書
厚生労働省から、「被扶養者の収入確認に当たっての「一時的な収入変動」に係る事業主の証明書」が示されています。
一時的に年収が130万円以上となる場合には、この書類を提出することで人手不足による労働時間延⾧等に伴う一時的な収入変動であることが証明され、迅速な被扶養者認定が可能となります。
この措置は、原則として同一の被扶養者に対して連続2回まで適用されます。つまり最大2年間ということになります。
出典:厚生労働省「被扶養者の収入確認に当たっての「一時的な収入変動 」 に係る 事業主の証明書」
Q&A内容のまとめ
厚生労働省より、「事業主の証明による被扶養者認定に関するQ&A」が示されています。その内容を要約したものを一部ご紹介します。
- 「年収の壁」とは、社会保険制度上の収入基準により、年収が一定額を超えると被扶養者として認定されなくなることを指します。
- この措置は、あくまでも当面の措置として導入され、今後、さらに制度の見直しに取り組むことが予定されています。
- 対象者は配偶者(国民年金第3号被保険者)に限らず、社会保険の被扶養者全般となります。ただし、年間収入が恒常的に130万円以上となる見込みの方は対象外です。
- この措置は2023年10月20日以降の被扶養者認定および収入確認から適用され、それ以前の認定には遡及されません。
- 被扶養者が複数の事業所で勤務している場合、一時的に年間収入が 130 万円以上となった主たる要因である勤務先から事業主の証明を取得することとなります。ただし、複数の事業所においてそれぞれ一時的な収入増加がある場合は、それぞれの事業者から事業主の証明を取得する必要があります。
- 複数事業所で勤務することで年間収入の見込みが恒常化する場合は、被扶養者に該当しなくなります。
一時的な収入変動と認められる上限額について
130万円を超えて、いくらまでが「一時的な収入変動」と認められるのかが気になるところだと思います。それに対し厚生労働省は、
・仮に上限を設けた場合、当該上限が新たな「年収の壁」となりかねない
・一時的な事情によるものかどうかは収入金額のみでは判断が困難である
といった理由から明示していません。
収入変動が大きく心配な場合は、都度管轄の年金事務所や各保険者にご相談いただく事をお勧めします。
参考:厚生労働省「事業主の証明による被扶養者認定に関するQ&A」
配偶者手当への対応
近年、配偶者手当(扶養手当・家族手当)の見直しが検討されています。それはこういった手当の存在が、労働者の労働時間調整に繋がっている側面があるからです。
例えば、夫の会社の配偶者手当をもらうため、他社で働いている妻が、手当受取りの収入基準を超えないように働き控えをする場合があります。そのため年収の壁を乗り越えるための支援策の一つとして、厚生労働省は配偶者手当の見直し促進を掲げています。
配偶者手当見直しのメリット
厚生労働省は配偶者手当を見直すことで、以下のようなメリットがあるとしています。
若い人材の確保:配偶者手当を見直すことで、企業に入社する若い人材が増える可能性があります。
能力開発:配偶者手当を見直すことで、従業員が能力を十分に発揮できる環境が整備されます。
人材確保:配偶者手当を見直すことで、企業が人材確保に取り組むことができます。
賃金・人事制度の改善:配偶者手当の原資をもとに、共働きの方や独身の方、能力開発に積極的な方など、いろいろな方が活躍できる賃金・人事制度を改めて考えることができます。
配偶者手当見直しのの手順
厚生労働省は配偶者手当の見直しについて4段階の手順を示しています。参照して見直しを進めてみてください。
出典:厚生労働省リーフレット「配偶者手当を見直して若い人材の確保や能力開発に…」
「配偶者手当」の在り方の検討に向けて
厚生労働省では、配偶者手当の見直しに向けて、さらに詳細な資料も提示しています。
下記労使の話合いの例や、既に配偶者手当の見直しが実施された企業の事例等
も示されています。ぜひ参考にしてください。
出典:厚生労働省・都道府県労働局「「配偶者手当」 の在り方の検討に向けて」P.8
出典:厚生労働省・都道府県労働局「「配偶者手当」 の在り方の検討に向けて」P.30
参考:厚生労働省「「配偶者手当」の在り方の検討に向けて」
まとめ
これまでお伝えした情報を踏まえますと、「年収の壁・支援強化パッケージ」は、労働者が自身の働き方を選択する自由を増やし、社会全体の労働力を最大限に活用するための重要な一歩と言えます。これらの取り組みにより、日本の労働市場はより公平で、多様性に富んだものとなることでしょう。
しかしながら、これらの取り組みだけではなく、「第三号被扶養者制度の廃止」など、より根本的な年金制度改革も必要となるのではと考えます。社会保障制度全体がより公正で透明性が高まり、全ての労働者が公平に扱われることが期待されます。今後も引き続き、各種制度の見直しや改善に期待が寄せられます。