騒音計の指示値と測定値は違う
前回はG特性音圧レベルと参照値についてお話させていただきました。
今回はG特性の活用についてお話させていただきたいと思います。
G特性音圧レベルと参照値の扱いについては、いろいろ注意点がありました。
・G特性音圧レベルの参照値を物的被害の評価に用いる事は出来ない。
・G特性音圧レベルの参照値を外部の超低周波音の評価に用いる事は出来ない。
・G特性音圧レベルの参照値のみで低周波音の評価を行う事は出来ない。
・G特性音圧レベルの参照値を下回った場合でも超低周波音の影響を完全に否定する事は出来ない。
これらは G特性音圧レベル参照値を扱う上でとても重要な事です。
以上の内容は下記資料(P18・19)に詳しく説明されています。
総務省「低周波音に関わる苦情への対応」
G特性音圧レベルが超低周波音を評価する際に重要な指標であることは間違いありませんが、それがG特性の使用を限定するわけではありません。 上記で挙げた超低周波音評価における注意点は確かに重要ですが、G特性音圧レベルはそれ以外の状況でも広く利用されています。
G特性の活用
苦情の内容と参照値に基づいた評価が一致した場合、次に進むべきステップは発生源の特定です。 低周波音はその聞き取りにくさから、その発生が間欠的なのか、定常的なのか、特定の条件下でのみ発生するのかといった点について、客観的な判断を下すことが難しい場合があります。 このような状況において、G特性音圧レベルの観測が役立ちます。
G特性は 1Hz から 80Hz までの低周波数域に焦点を当てており、100Hz 以上の周波数域の影響を受けないため、可聴音の影響を排除しながら低周波音のみを観測することが可能です。 G特性音圧レベルをレベルレコーダーで観測することで、低周波音の特性を正確に捉えることができます。
特に屋外での騒音レベルの上昇に伴い、低周波音を確認することが非常に困難になる場合があります。 しかし、G特性を用いることで、超低周波音まで的確に観測することが可能です。 これにより、低周波音に関する苦情の原因究明において、より的確な情報を得ることができます。
G特性の活用例
下図は大型のディーゼル発電機の運転音をZ特性で録音し、その後、分析ソフトウェアを使用して A特性音圧レベルと G特性音圧レベルの両方で出力したレベル波形図です。
青線は A特性音圧レベルを示しています。 これは一般的に私たちが騒音レベルと称しているもので、私たちが耳で感じている騒音の時間変動を表しています。
レベル波形中の低回転(アイドリング)の騒音レベルは約 62dBA でした。 負荷がかかり回転数が上昇すると、騒音レベルは約 68dBA になります。 観察したディーゼルエンジンは、数十秒から数分間隔で、これらの状態を交互に繰り返していました。
これに対して、G特性音圧レベル(ピンク線)は、エンジンが低回転(アイドリング)にレベルが上昇し、負荷がかかった状態では逆にレベルが減少しています。 これは A特性のレベル変化とは全く逆の状態です。
この観測から低周波音がアイドリング時に発生している事が分かりました。
しかしながら、現地の観測者には、このような変化を感じ取る事が出来ません。 騒音レベルの上昇によるマスキング効果の増大で、低周波音の聴感が更に困難になるためです。
原因の調査
G特性音圧レベルの上昇原因を調査する過程で、周波数ごとの卓越成分を特定するためには、1/3オクターブバンド分析を行います。 この際、周波数分析には Z特性(FLAT)が使用されます。 G特性は周波数応答に補正を加える特性であるため、周波数分析に直接用いることはできません。
下図はアイドリング時と高回転時の 1/3オクターブバンド分析結果です。
アイドリング時には 16Hz と 31.5Hz に明確に顕著な成分が存在することが確認されました。 しかし、高回転時には 31.5Hz の成分が僅かに残るものの、主要な成分は 50Hz へと移行することが観察されました。 この変化により、超低周波音である 16Hz のレベルが上昇し、結果として G特性音圧レベルが顕著に増加したことが明らかになりました。
このように、外部環境音に含まれる低周波音を調査する際、G特性音圧レベルの観測は非常に有効であることがわかります。 特に G特性音圧レベルの時間にわたる変動を観測することにより、特定の状態でどの程度のレベルになるかを明らかにできます。 このような低周波音の状態を詳しく観測するためには、G特性が非常に有効な手段となります。
まとめ
今回ご紹介した活用例を見ても、外部環境音に含まれる低周波音を調査するには、G特性音圧レベルの観測は非常に有効であることがわかります。 特に G特性音圧レベルの時間にわたる変動を観測することにより、特定の状態でどの程度のレベルになるかを明らかにできます。
このような低周波音の状態を詳しく観測するためには、G特性が非常に有効な手段となります。
しかしながら、G特性という用語はまだ一般には馴染みが薄いためか、誤った使い方をしてしまう例もあるようです。
G特性の特性をしっかりと理解し、上手に活用していきたいものです。