騒音計の指示値と測定値は違う
コンクリート壁や石膏ボード、ガラスといった壁材の防音特性には、質量則と呼ばれる法則があります。 これは、同じ周波数では、壁材の質量が増すほど遮音性能が高くなるというものです。
逆に考えると、質量が一定であれば、低周波帯域では遮音性能が低くなる傾向があるという事になります。
下のグラフは単板ガラス(FL6)の音響透過損失値です。
1/3オクターブバンドの場合で T-2等級の遮音性能があります。(板ガラス協会資料より)
2000Hz 付近に透過損失の低下が見られますが、これはコインシデンス効果といって、ガラスの振動と入射音の波長が一致する事で、遮音性能が著しく低下する現象です。 ガラスの厚さが増すと発生周波数が低くなるといった特徴がありますが、低周波音には関係ないので今回は無視します。
付記したグレーの点線は、質量則に基づいた板ガラスの音響透過損失近似線です。
TL=18×Log(m×f)-44(dB) m:面密度(kg/㎡)、f:周波数(Hz)
(ガラスの面密度はガラス厚×2.5)
総務省「低周波音に係る苦情への対応」から引用
ガラスの音響透過損失は JIS A 1416 に基づいて作成されているため、1/3オクターブバンドの場合は周波数範囲が 100Hz ~となります。 80Hz以下の周波数については質量則に基づいた近似値を参考とすると、20Hz における音響透過損失値は 5dB 程度しかありません。
下図は木造建物の室内外音圧レベル差をグラフ化したものです。
総務省「低周波音に係る苦情への対応」に記載されています。
4種の音源に対する室内外差が記載されていますが、どの場合も質量則の傾向に近似してます。
これらを踏まえて、実際の音源(道路騒音)を使って、低音域の室内騒音を予測してみました。
ガラスの音響透過損失は FL6 を採用し、80Hz 以下の音響透過損失値は質量則に基づいた近似値としました。 サッシや外壁、室条件を考慮していないので参考値となります。
POA を見ると、外部騒音 71.6dB に対し、室内騒音が 44.0dB になりました。
これは環境基準における室内指針値を満たします。
しかし 40Hz ~ 80Hz において「低周波音による心身に係る苦情に関する参照値」を上回る結果となりました。
騒音レベルは A特性補正値により低周波域のレベルを大きく軽減するため、高い周波数で遮音効果が高ければ、騒音レベルも効果的に低下します。
しかしながら、低周波音は透過損失の影響が小さいため、外部騒音に近いレベルのまま透過することになります。 この結果、室内には低い周波数帯域の音だけが残る結果となり、マスキング効果の減少により低周波音が支配的な環境になってしまいます。
今回は一般的な道路騒音を対象に予測しましたが、可聴域の低周波音が「低周波音による心身に係る苦情に関する参照値」を上回ってしまいました。 低周波音というと特別な施設や機械から発生する音のように思われていますが、実際には普通の道路騒音であっても、参照値を上回る可能性があることが示唆されました。
まとめ
建物の遮音対策を行う場合、外部騒音の周波数特性と建築部材の音響透過損失値の特性を考慮し、最も効果的な組み合わせを検討するのですが、ここには低周波音の検討は含まれていません。
というのも、JIS A 1416「実験室における建築部材の空気音遮断性能の測定方法」により、建築部材の空気音遮断性能は 100Hz ~ 5000Hz の周波数範囲で規定されているためです。
私たちには低周波音を評価する為に必要な 80Hz 以下の音響透過損失値は知る由がありません。
先ほどのグラフを参照すると、4Hz以下の室内外差が 0 となっているのが気になります。 資料内でも「 6.3Hz以下では内外レベル差はほとんどない」とまとめていますが、これは外壁やガラスなどの建築部材は、超低周波音対策には無意味であることを意味します。
最後に
近年は高遮音性能の建物が当たり前になっています。 しかしながら、遮音性能が高くなるほど、低周波音が支配的な環境となることも明らかになっています。 静かな室内で息苦しさや圧迫感を感じたら、窓を開けて外部騒音を取り入れることで、症状が軽減される場合があります。
低周波音の特性を理解し、上手に暮らしていきたいものです。