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寺田淳

シニア世代が直面する仕事と家庭の問題解決をサポートする行政書士

寺田淳(てらだあつし)

寺田淳行政書士事務所

コラム

相続放棄の基礎知識 その1

終活~相続に関する問題

2018年3月9日 / 2018年9月25日更新

【今日のポイント】

 今回から2回にわたって相続の中の一形態である「相続放棄」に関する基礎的な案件について、紹介していきたいと思います。

 実際のところ、私への相談の中では相続放棄という選択肢について(内容的に正確に)ご存じだった方は非常に少なかったことから、ここで採り上げたいと思った次第です。



【相続は3パターン】

 まず最初に、基礎中の基礎ですが、相続のパターンについてです。

1)単純承認(による相続)
 一般的に言う相続が該当します。 故人の遺産をそのまま相続することを承認するということで、特に所定の手続き等はありません、相続の発生から3カ月経過すれば単純承認として相続が確定となります。
 ※「相続発生から3か月」の意味と解釈については後述します。

2)限定承認(による相続)
 相続財産を精査した結果、プラスの財産に比べてマイナスの財産(借金、連帯保証人等)が上回ってる(と推察できる)場合に、マイナス分がプラス財産の範囲内であれば相続を承認するというものです。

 この方式を選択する場合は、単純相続に比べ煩雑な手続きを要することになります。
相続の発生から3カ月以内に財産調査を行い、財産目録等を作成し、相続人全員で家裁に申述しなくてはいけません。(民法923,924条) また限定承認後5日以内に「官報による公告」等が必要になります。

3)相続放棄
 文字通り、相続(の権利)を放棄するという選択肢で、初めから相続人にならなかったと見做されます。
限定承認とは違い相続人各自で判断し、申述が可能です。 また「相続の」放棄ですから「相続発生前=被相続人が健在」の間は相続放棄は出来ません。  はなから相続する気はない、と思っていても手続きは相続発生後でしかその意思を行使することが出来なという点は注意が必要です。 参考までに被相続人が健在のうちに意思が表明できるのは「遺留分の放棄」になります。



【相続財産も3パターン】

1)プラス財産
 説明の要もないと思いますが、現金、預貯金、有価証券、不動産、自動車、営業権、貴金属類など等、一般的に言うところの「価値のある財産」です。

2)マイナス財産
 借金、未払いの税金、未払いのカード使用料、そして保証債務(連帯保証人による債務保証等)です。 保証債務の中で、身元保証債務については人的な関係に基づく契約である点からこの対象外と見做される場合もあるようです。

3)別扱いの財産
 所謂「祭祀に関係する財産」を指します。 お墓や仏壇等です。 これは相続放棄した場合でも継承することが可能な財産となります。


 
 

【相続放棄が認められないケース】

1)相続発生(=被相続人の死亡)から3カ月を経過した場合
 大原則は亡くなった日から3カ月を経過したら単純承認になるので、それ以降の相続放棄は認められません。 では、仮に相続人の子供が海外駐在で親の死亡連絡を受けたのが4か月後だった場合で、財産調査の結果負債が大半を占める相続財産が判明したとしてもそのままを相続しなくてはいけないのでしょうか? または親の死は伝えられたものの、帰国出来たのが4か月後であったら、同様に単純相続しなくてはいけないのでしょうか?

 同様に子供に内緒で連帯保証人になっており、死亡から3カ月経過後に初めて負債の存在を知った場合でも債権者から返済を求められたら、子供に返済の義務が発生するのでしょうか?

 この点については次項で詳しく説明します。

2)3カ月の期間中に相続財産の一部、又は全部を売却、贈与した場合
 よくある事例としては、相続財産の調査完了前に一部の遺産を売却等の処分をしてしまうケースで、この時点で単純承認と見做されます。 仮にその後多額の負債が発覚したとしても相続放棄は認められません。 

 このケースで要注意なのがついやってしまいがちな「形見分け」の際の品の価値です。 通常であれば、故人が日常愛用していた時計や筆記具、故人が取集していた趣味品等であれば問題はないと思われがちですが、まれに「その業界では」非常な高額で取引される趣味品が存在します。 所謂アンティークコインや状態のいい戦前のおもちゃ類、人気作家の初版本など等、その分野に明るくない家族間での判断で形見分けの気持ちで相続人で分配し、売却、贈与してしまうと、後日その事実から単純承認と見做されるケースがあるのです。 

 いくらまでなら形見分け、いくらからは相続財産と判断するという区分は明確にはなっていません、少しでも判断に迷うような場合は事前に税務署等に確認を入れた方が無難です。

 また故人の葬儀費用や墓石や仏具購入の為の費用を個人名義の財産から支出した場合はどうでしょうか? これも明確な規定はありませんが、判例では「分相応」「世間相場から見ても不相当な額でなければ」その支出は「処分」とは見做さないとありました。 世間相場がどのくらいか? 世間相場と言えども全額を故人の財産で賄うということに問題はないのかといった点は裁判所の判断に委ねるしかありません。 この場合も事前の確認は不可欠です。

3)3カ月の期間中にプラスの財産の一部を隠匿、私的利用、故意に財産目録に記載しなかった場合
 財産調査を行った相続人が、調査の中でめぼしい財産を意図的に目録から外し、事実と異なる財産目録を作成し、相続放棄を促した場合などです。 この状態で行われた相続放棄や限定承認は発覚時点で無効とされ、単純承認とされます。

 1)や2)と違い、このケースは情状酌量の余地はないでしょう。

 

【3カ月の熟慮期間の解釈】
 前項の1)では「被相続人=親の死亡から3カ月以内」が相続の熟慮期間とあるものの、死亡を知ったのが死後4か月後の場合はどうなるのかと書きました。 これに対しては既に法律で対応がされています。

 「自己の為に相続の開始がことを知った日から3カ月以内に単純若しくは承認、または放棄をしなければいけない。」
~民法915条より

 これは、「親の死亡日から」ではなく、「相続の開始を知った日から」の表記の違いに意味があります。 親の死を知ったのが4か月後であれば相続の開始を知ったのもその時点となる訳ですから、そこから3カ月間の熟慮期間が開始となります。

 但し、現在の情報環境において親の死を3カ月も知らなかったということは、きわめてレアケースでしょう。 親子間で絶縁状態という場合でも兄弟や縁者からの連絡は可能なはずですし、一人っ子で海外放浪に出ていた、等のようなケース以外では「知らなかった理由」が問題になってきます。 

 相続放棄は冒頭で書いたように「家裁に申述」しなくてはいけません。 国内に暮らしていて3カ月も親の死を知らない?なぜ?どこにいて何をしていた? を証明できなければ(裁判所を納得させられなければ)申述は却下されます。 海外の場合でも同様でただ単純に海外で仕事に忙殺されていた程度の理由では却下されるようです。

 では、親の死は3カ月以内に知ったものの、多額の負債の存在に気付いたのが4か月後だったら? これも前項で書いた事例ですが、この場合はどうなのでしょう?

 これについては最高裁の判例を紹介します。(昭和57年4月27日の判例)
「(略)相続人が相続開始の原因事実及びこれにより自分が法律上相続人となった事実を知った場合であっても、当該事実を知った時から3ヵ月以内に限定承認又は相続放棄をしなかったのが、被相続人に相続財産が存在しないと信じたためであり、」
「かつ被相続人の生活歴、被相続人との間の交際状態等の状況からみて当該相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があって、相続人において上記(前半部分)のように信ずるについて相当な理由があると認められるとき」 

 これを思い切り要約すれば「相続財産の存在を知った時~知ることが出来た時から3ヵ月以内」であれば、相続放棄が出来る(認められる)場合がある。  となります。

 この解釈によって、先に挙げたような被相続人の死亡から(故意に)3カ月以降に債権者が債務返済を相続人に求める場合の対抗が可能になりました。

 とはいえここも、オールOKではないことに注意して下さい。 判断はあくまでも裁判所なのです。 上記でも「出来る」ではなく「出来る場合がある。」「認められる場合がある。」と書いたのもこの点を強調したいからです。


  今回はここまでとし、次回は特定の相続人が相続放棄をする際の手続き、遺産分割協議と相続放棄、相続放棄の撤回と取り消し、無効、相続放棄の手続き上の注意事項等について紹介する予定です。

この記事を書いたプロ

寺田淳

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2018-09-25
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