末摘花に使う漢方〜生薬の話「紅花」
枳実は、ミカン科のダイダイ(Citrus aurantium L.、酸橙)やカラタチ(Poncirus trifoliate Rafin、枳、枸桔)などの未熟果実です。枳実の枳という字は、諧声の字(音声を表す文字と意味を表す文字を組み合わせて新しい意味を表す漢字)で、木の意味と只(シ)の発音の合字です。但し、生薬においての読み方はシジツではなくキジツです。
和名のダイダイは、代々という意味で、果実が年を越してもなお枝についていて、新しい果実が実ると旧果が落ちるからと言われています。また、カラタチは、カラタチバナ(唐橘、韓橘)の略された形で、中国から渡来したタチバナの意味です。
ダイダイの学名Citrusは、柑橘類または、レモンの木に対する古い呼び名のラテン名で、その元はギリシャ語のkitoron(箱)に由来します。kitoronのラテン文字表記がcitoron(シトロン)で、漢名は枸櫞(クエン)、クエン酸の原料にもなります。シトロンは、旧約聖書に登場する「禁断の木の実」であったという説があります。諸説はありまして、17世紀にリンゴとして定着するまでに、柑橘類、特にシトロンは有力でありました。しかし、聖書がラテン語に翻訳された際に「善悪の知識の木」を「de ligno autem scientiae boni et mali」と表記したところ、悪と同じ綴りのリンゴ(いずれもmalus、属格はmali)と読み違えられ「善なる知識の木とリンゴ」と解釈されたため、禁断の果実はリンゴであると誤解されたまま流布されたといわれています。
ダイダイの学名aurantiumは橙黄色という意味です。
カラタチの学名Poncirusは、ミカンの1種のフランス名poncireからつけられたもの、trifoliataは3葉のという意味です。
碁石くらいの大きさで、果肉に張りがあり、皮の部分が青黒色で厚く、味が苦く辛味のあるもので、切ると皮部が外側へ反り返るものが良品です。
味は苦、薬性は(微)寒で、ややきつめの芳香があります。
枳実は、滞った気を破る働きがあるので「気実」と覚えると分かりやすいです。胸腹部のつかえ、膨満感のあるものに用い、芳香性健胃剤としてよく使用されます。気の鬱滞を通じるようにし、陽証の腹部の緊張を和らげます。
枳実を用いる漢方薬は、大柴胡湯、四逆散、茯苓飲、排膿散などです。
四逆散は、胸脇がつまり胸腹部に重苦しさのある胃炎、胃痛、腹痛に用いる漢方薬で、柴胡、芍薬、枳実、甘草の4味から成ります。2味の薬徴として、枳実は芍薬と組んで、気を破り滞っていた水をめぐらせ、胃腸の拘攣をゆるませます。また、柴胡と組み、心胸の熱を涼しくし、上にあがる熱を除き、下降させます。
大柴胡湯は、四逆散から甘草を去って、半夏、黄芩、生姜、大棗、大黄を加えたものです。実証の薬です。
茯苓飲は吐き気や胸やけなどに効く漢方薬で、枳実は橘皮(陳皮)と組んで、水毒を消し、気を通じます。