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鈴木寛彦

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鈴木寛彦(すずきひろひこ)

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コラム

漢方薬を畑から作る(乾燥編)

2019年5月15日 公開 / 2019年5月20日更新

テーマ:漢方の研究




日本で医薬品を作ることは非常に大変です。まだ30代の血気盛んな男は、畑の無農薬・有機肥料で作った薬草「芍薬」と「当帰」を真剣に薬にする事を考えました。そこには大きな壁が立ちはだかりました。それは、沢山の難しい検査試験と製造するための施設の建設、そして何よりも私の頭を悩ませたのは、答えがない製造工程を自前でゼロから作る事でした。時代は20年前に遡り、当時の様子を思い出してみました。

「芍薬試験方法には、乾燥減量とペオニフロリンの定量法があり、乾燥減量では14%以下で、ある程度の乾燥が求められ、しかしペオニフロリンの量が少なすぎるとものにならない。重要工程は、乾燥工程にある。芍薬とにらめっこをしながら、何回となく乾燥を試みる。バサバサしすぎたり湿りすぎたり、どうもうまくいかない。赤外線水分計を使い、乾燥機の温度を35℃から50℃に少しずつ上げ24時間、45時間、57時間乾燥したものを測定してみた。結果、18.7%、5.9%、5.6%の水分量となった。トータル57時間のものを採用して作業を進めた。乾燥機は、山口県からしいたけ乾燥機を取り寄せた。山積になっている芍薬を約4kgに小分けしてステンレスのエビラに1本ずつ重ならないように引きつめていく。

1月の朝6時の仕事場は寒さが厳しい上、床がコンクリートのため冷えが足の裏からつき上がって来る。冷えから身を守るため余分な水分を外へ出そうとして小便が近くなる。こんな時は腰から下を温める漢方薬の苓姜朮甘湯が助けてくれる。また、冷えて腹痛が起これば、当帰四逆加呉茱萸生姜湯の出番となる。まだ私が小学生のころ、寒い日の講堂で30分立っていると必ず腹痛が始まっていたことを思い出す。冷っ腹による下痢は、東洋医学では「疝気」といって、この漢方薬がよく使われる。

30枚のエビラに芍薬が引き終わるころ、上半身はほのかに温まってくる。乾燥機に点火して、機内を1時間に5℃のペースで少しずつ温度を上げ、55℃で一度停止させる。芍薬の芯の水抜きのためだ。少しずつ温度を上げていくのは芍薬の有効成分ペオニフロリンの揮発を極力防ぐためである。また、始めの1時間は乾燥機の排気口をいっぱいに開き、120kgの芍薬からの蒸気による急激な温度上昇を防ぐ。  
芍薬の香りが、乾燥機の熱によって部屋一面に広がるころ、緊張が緩んで少し眠くなる。芍薬の成分は筋肉の異常緊張を緩める働きがある。私が大好きな小建中湯はこの芍薬を多く含み、疲れて少し頭が熱くなり、手足の平がほてり、緊張して手に汗をかき、唇口の皮が剥けるタイプが服用すると、お腹の緊張が緩み、少し心地よい便意をもよおし、肩の荷がスッと下りる。30分で効いてくる。

乾燥機の温度設定と排気口の開閉具合で、仕上がり具合が大きく変わる。特に始めの4時間が大切だ。排気口を思い切って広げると乾きはよいが、灯油がすぐに底を突き灯油代が馬鹿にならない。逆に排気口を閉めすぎると、乾きが悪く、1月であってもカビが生え始める。三日三晩、乾燥機を動かし四苦八苦した後やっとのことで乾燥工程が終了した。乾燥機のドアを開けると、芍薬の香りがドッと押し寄せてきた。香りが刺激となり、気持ちが高揚してくる。
さあ、次は最終工程の粉砕の始まりだ。」


 今になって思うのですが、我ながら良くやったと思います。若さ故の勢いと、漢方薬に対するあくこと無き探究心が自分を動かしたのではないでしょうか。ゼロから作ると言うことは自信と理解が増します。そして、何よりもこの世で一つしか無い本物の漢方薬が作れると思うのです。
 今年収穫された当帰がもうすぐ検査を通過し、お店にやってきます。袋を開けた時の香りが私の心と体をいつも元気にしてくれます。とても楽しみです。

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