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谷津吉美

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谷津吉美(やつよしみ) / 薬剤師

有限会社むつごろう薬局

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コラム

表と裏  

2018年9月28日 公開 / 2021年3月1日更新

テーマ:漢方の研究

コラムカテゴリ:医療・病院

コラムキーワード: 東洋医学




 さて、今回は大学での講義を題材に、「表と裏」のお話をしていきます。よろしくお願い致します。
 表は良いけれど、裏話とは何ともはや怪しげな話しになりそうな・・・。心配しないでください、これはあくまで東洋医学の考え方ですから。東洋医学では、病気を治すため、患っている場所を大きく二つに分けて考えています。それが表と裏で、専門的には「ひょうり」と言っています。表は皮膚や肌肉、粘膜などの体の表面を言い、裏とは胃腸のことを言っています。そして、病気は原則的に表から始まり、徐々に裏に移っていきます。
 少しだけ専門的なお話をさせて頂きます。風邪の菌に感染した時の事をイメージして下さい。先ず喉が痛くなる場合が多いですが、箘が喉の粘膜に付着したからです(第1ステージ)。その後、薬と免疫で菌を退治できない場合、箘は粘膜から血管の中に侵入して行きます。血液が沢山たまる肝臓付近に戦場が移ります(第2ステージ)。この場所が、表と裏の中間で「表裏間(ひょうりかん)」と言います。その防衛線を突破した箘は、いよいよ胃腸の中に入ってきます(第3ステージ)。この時を病気が「裏」に侵入したと言います。主な症状は便秘です。その後、第4ステージからは免疫が弱り、負け戦となります。お腹が冷えてきて下痢の症状に変わりますが、やはり胃腸が戦場になります。最後の第6ステージでは心臓辺りで最後の戦いが始まります。病原菌に対して背水の陣で臨みます。
 表面から始まり体内に病気が進んでいく事が、東洋医学の基本です。そして病気が潜んでいる場所(ステージ)を探し当て、その症状に合わせた漢方薬を調合できたら病気は風のように退散してしまうのです。しかしその治療はそう簡単なものではありません。病邪は表にいると思っても、もう既にお腹に侵入していたり、中に逃げ込んでいるにも関わらずその症状が皮膚に出ていたりと、見つける事は容易くないのです。

禍は福の倚(よ)る所、福は禍の伏(ふ)す所なり

 これは、有名な老子の言葉です。禍(わざわい)には福がよりそい、福には禍が潜んでいる。だが見極めが難しい。正しさは、いつも正しいとかぎらず、正は邪となり、善は悪となる。だから自分が正しくても人を裁断したり批判したりしない。まっすぐであっても曲げて人に従い、明知であっても人に誇らない。と言っています。大変納得が行く話です。また、ある有名なメンタリストが言っていたのですが、人は心の中に秘めた心情が、表情や行動に出て来るときがある。そこを見逃さないのだと。これもまた興味深い話ですね。最後に、アトピー性皮膚炎治療で有名な焼津の医師林先生のご著書を拝読させて頂くと、皮膚をよくするためには腸の環境をよくする事がに大切と言いオリジナルの整腸剤を作られました。この3名の話の共通点は、「表面的に見えている事柄だけに捉われず、その奥にあるものを見る目を養う」事ではないでしょうか。

表と裏

 閑話休題。医師小倉重成先生の潜証理論は、私の師匠の田畑隆一郎先生からの教えで知りました。運動不足、アイスクリームや甘いものなどの陰性食品の食べ過ぎ、冷房の使用、睡眠不足、過度のストレスなどにより新陳代謝が落ちてしまい、漢方薬があっているにも関わらず改善出来ない場合、体の新陳代謝をよくする漢方薬(裏に使う漢方薬)を午前中に使い、午後に症状を取り除く漢方薬(表に使う漢方薬)を使用することで、漢方の効きが明らかに違うと言うのです。まさに現代社会においては、必要な治療ではないでしょうか。私は孫弟子に当たるのですが、一度もお会いしていない小倉先生の偉大さを感じます。

漢方薬で良くなった例  「尋常性白斑」

30歳の男性。首から顔にかけて白斑が始まり半年前から両手の甲にも出来始めました。舌質は紫色で舌苔は微白苔。頰が赤く汗をかきやすい。寝汗も酷い。小便は1日7−8回。立ちくらみがあり、疲れやすい。唇口乾燥。胃弱で腹満、腹痛、腹冷あり。黄蓍建中湯服用4ヶ月で疲れ、腹満などの症状は改善されるも白斑の変化は何もありません。その後、仕事上のストレスがあり、蕁麻疹や精神面での不安感が強く出ていることから柴胡桂枝乾姜湯に変更しました。蕁麻疹、精神症状は改善されるものの白班は変らず。午前中2回新陳代謝をよくする漢方薬を服用していただき、午後ストレスを緩める漢方薬を2回服用していただく事4ヶ月、首から顎の場所に色素の点状の色素の島ができはじめ、日ごとに広がって来ました。その後3年で顔はほとんど目立たなくなりました。全体で4年間かかりました。

最後に
 表と裏は対極的に見えますが、どこかで繋がっていると、東洋医学は考えています。病気でも表面的で症状が軽いものでも急激に悪くなったり、重症に見えた物でも簡単に治ってしまう事があります。又、体を冷やす食べ物の取り過ぎや、運動不足、睡眠不足は、病気を体の裏側へと隠してしまうと言われます。これからの季節、気温が下がり始め新陳代謝も悪くなり、気持ちも沈みやすくなります。

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