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小堀將三

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小堀將三(こぼりしょうぞう) / マンション管理士

マンション管理士事務所JU

コラム

マンション標準管理委託契約書改訂案の内容について

2023年5月16日 公開 / 2023年5月17日更新

テーマ:管理組合

コラムカテゴリ:住宅・建物

 国土交通省が、マンション標準管理委託契約書および同コメントの改定案を公表し、意見募集(5月24日まで)を始めています。前回の改定は平成30年で、マンション管理業を取り巻く環境が大きく変化したこと、それによる管理業協会の要望が多々あることから、今回、改訂の検討がなされたものと思われます。
 主なマンション標準管理委託契約書の改訂案は次のようなものとなっています。なお条文数は、改訂案での条文数です。

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第4条(第三者への再委託)
第1項 乙は、前条第1号の管理事務の一部又は同条第2号、第3号若しくは第4号の管理事務の全部若しくは一部を、別紙1に従って第三者に再委託(再委託された者が更に委託を行う場合以降も含む。以下同じ。)することができる。
●第三者に再委託(再々委託も)する場合には、新設される下記の別紙1に明記する必要があります。
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第8条(管理事務の指示)
第1項 甲の乙に対する管理事務に関する指示については、法令の定めに基づく場合を除き、甲の管理者等又は甲の指定する甲の役員が乙の使用人その他の従業者(以下「使用人等」という。)に対して行うものとする。
●カスタマーハラスメントを未然に防止する観点から新設された条文です。
●管理組合が管理業者に対して管理事務に関する指示を行う場合には、管理組合が指定した者以外は行ってはならないことを定めています。
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第12条(有害行為の中止要求)
第1項 乙は、管理事務を行うため必要なときは、甲の組合員及びその所有する専有部分の占有者(以下「組合員等」という。)に対し、甲に代わって、 次の各号に掲げる行為の中止を求めることができる。
一 法令、管理規約、使用細則又は総会決議等(以下「法令等」という。)に違反する行為
二 建物の保存に有害な行為
三 所轄官庁の指示事項等に違反する行為又は所轄官庁の改善命令を受けるとみられる違法若しくは著しく不当な行為
四 管理事務の適正な遂行に著しく有害な行為
五 組合員の共同の利益に反する行為
六 前各号に掲げるもののほか、共同生活秩序を乱す行為
第2項 前項の規定に基づき、乙が組合員等に行為の中止を求めた場合は、速や かに、その旨を甲に報告することとする。
第3項 乙は、第1項の規定に基づき中止を求めても、なお組合員等がその行為 を中止しないときは、書面をもって甲にその内容を報告しなければならない。
第4項 前項の報告を行った場合、乙はさらなる中止要求の義務を免れるものとし、その後の中止等の要求は甲が行うものとする。
第5項 甲は、前項の場合において、第1項第四号に該当する行為については、 その是正のために必要な措置を講じるよう努めなければならない。
●組合員等(占有者を含む。)の有害行為の中止を求めた際の報告と、中止を求めても中止しない場合の書面での報告義務を明記しています。
●この義務を果たしていれば、管理会社はそれ以後の中止を要求する義務を逃れることになります。
●管理会社が管理事務を適正に遂行するにあたって有害行為がなされた場合には、管理組合はそれを是正することが求められます。この場合の有害行為は次のよう場合が該当するとコメントで述べられています。
・組合員等が、管理業者の使用人等(管理員や清掃員等)に対して、契約にない行為や管理規約等、総会決議等に違反する行為を強要すること
・侮辱したり人格を否定するような発言をすること
・文書の掲示やポスティングにより誹謗中傷を行うこと
・執拗につきまとったり、長時間拘束すること
・執拗に電話をしたり、文書等により連絡すること
・緊急でないにも関わらず休日や深夜に呼び出しを行うこと
●上記の組合員等には役員も含まれます。
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第18条(個人情報の取扱い)
第1項 乙は、管理事務の遂行に際して組合員等に関する個人情報(以下「個人情報」という。)を取り扱う場合には、本契約の目的の範囲において取り扱い、正当な理由がなく、第三者に提供、開示又は漏洩してはならない。
第2項 乙は、個人情報への不当なアクセス又は個人情報の紛失、盗難、改ざん、 漏えい等(以下「漏えい等」という。)の危険に対し、合理的な安全管理措置を講じなければならない。
第3項 乙は、個人情報を管理事務の遂行以外の目的で、使用、加工、複写等してはならない。
第4項 乙において個人情報の漏えい等の事故が発生したときは、乙は、甲に対し、速やかにその状況を報告するとともに、自己の費用において、漏えい等の原因の調査を行い、その結果について、書面をもって甲に報告し、再発防止策を講じるものとする。
第5項 乙は、個人情報の取扱いを再委託してはならない。ただし、書面をもって甲の事前の承諾を得たときはこの限りではない。この場合において、乙は、再委託先に対して、本契約で定められている乙の義務と同様の義務を課すとともに、必要かつ適切な監督を行わなければならない。
第6項 乙は、本契約が終了したときは、甲の指示により個人情報を返却又は廃棄するものとし、その結果について、書面をもって甲に報告するものとする。
●個人情報保護法に基づいて、個人情報の取扱いに関して新たに規定されています。
●契約が終了した場合には、管理会社は管理組合の指示により、個人情報のデーターを返却するか廃棄しなければなりません。そして、その結果も報告しなければなりません。
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第25条(ITの活用)
第1項 甲及び乙は、あらかじめ、相手方に対し、その用いる電磁的方法の種類及び内容を示した上で、その承諾を得た場合は、本契約に規定する書面及びその事務処理上必要となる書面を電磁的方法により提供することができる。
第2項 乙は、甲の承諾を得た場合は、第10条第1項及び第2項に規定する報告その他の報告をWEB会議システム等(電気通信回線を介して、即時性及び双方向性を備えた映像及び音声の通信を行うことができる会議システム 等)により行うことができる。
●管理会社の実務軽減のためのIT活用が増えてきていることから、IT活用に関する規定が新たに設けられています。
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第29条(存続条項)
第1項 本契約において別途定める場合を除き、本契約は、その終了後も、 第17条(秘密保持義務)、第18条(個人情報の取扱い)、第20条(契約の解除)、第28条(合意管轄裁判所)は効力が存続する。
●契約終了後においても、秘密保持義務、個人情報の取扱い、契約の解除、合意管轄裁判所に関する規定は効力を有することを新たに明記しています。

 あと、第15条(管理規約等の提供等)、第20条(契約の解除)、第23条(契約の更新等)、第27条(反社会的勢力の排除)で一部変更又は削除があり、別紙4として「通帳等の保管者」の表が新設されています。
 その他、コメントの全般関係において、管理計画認定制度やマンション管理業協会の評価制度に係る業務については別個の契約とする事が望ましいと記載されており、また管理規約で管理組合が管理しなければならない部分がある場合には、契約の開始までに管理組合が管理すべき範囲と管理会社の管理対象範囲を協議して明確にしておく必要があるとしています。それぞれの範囲が曖昧なために問題が多々起きていることからこれは非常に重要なことで、実際、神奈川県逗子市で発生した斜面崩落事故においては、斜面の管理が管理組合なのか管理会社なのかで今なお争われています。

 以上が主な内容です。今回の改訂案をまだ熟読できていませんが、管理組合よりも管理会社の保護、擁護できるための内容がなんとなく多いように思われます。

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