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小堀將三

充実したマンションライフを支えるマンション管理士

小堀將三(こぼりしょうぞう) / マンション管理士

マンション管理士事務所JU

コラム

マンション内での転倒事故

2021年11月15日

テーマ:その他

コラムカテゴリ:住宅・建物

 とても気になった記事が日本経済新聞に掲載され、今後、管理組合でも気を付けなくてはならないと思われたことがありました。
 それは、「買い物中転倒は店のせい?水や商品で滑りけが、訴訟増」という記事です。
スーパーでの転倒事故が増えており、近年、転倒で負傷したお客が損害賠償を求めて訴訟している事案が増加しているというのです。
 記事には、2つの事例が記載されており、1つは、スーパーのサニーレタス特設売り場で、売り場を通りかかった男性客が転倒し、左ひじを骨折した事故です。サニーレタスのみずみずしさが売りだったのですが、みずみずしさゆえに床が水浸しで滑りやすい状況だったようです。この男性客は、スーパー側に約1億円の損害賠償を求めて訴訟しています。判決は、「一定の間隔で清掃するなど転倒を防ごうとした形跡がうかがえない」として、店側の「サニーレタスの水が垂れたとしても床がぬれた範囲は狭いはず」の反論を退けて、店側に約2100万円の支払いを命じています。
 もう1つは、店内のレジ前に落ちていたカボチャの天ぷらで足を滑らせことによる訴訟で、こちらの方は、「(転倒が起きた)レジ前に天ぷらのような商品を利用客が落とすとは想定しがたい」としてお客が敗訴し、現在上告しているとのことです。裁判所が判断を下すポイントは、①事故を予想できたか②回避のための措置を講じていたか、のようです。スーパーや商業施設内で滑った原因では、鮮魚コーナーやトイレの水濡れが最も多く(次に雨、野菜や油などの落下物と続く)、このような原因での転倒事故では、店側の「事故を予想できなかった」という主張は認められない可能性があるとのことです。
 転倒の原因は、床が滑りやすかったのか、それともお客の不注意だったのかはわかりませんが、店側としてはトラブルにならないように、床をこまめに清掃する、転倒しやすい箇所への対応等を取らざるを得ない状況のようです。
 2019年の政府の統計によりますと、不慮の事故による死因で「スリップ、つまづき及びよろめきによる同一平面上での転倒」による死亡者数は7644人で、交通事故の4279人の2倍に近い数字です。また、この7644人のうち、65歳以上が7340人で、80歳以上ですと6310人です。つまり、転倒での死亡者のほとんどが高齢者だということです。

 マンションでの居住者の平均年齢数も高くなっており、65歳以上が半数以上を占めるマンションがますます増えていくことを考えますと、マンション内での転倒事故でお亡くなりになる方がでてくる恐れがあります。そうなった場合には、先程のスーパーでないですが、管理組合が管理不足で訴えられる可能性もあります。
 もし、転倒の原因となる箇所を把握しておきながら、何ら措置を講じず放置していた場合には、裁判所の判断ポイントの①②とも出来ていないことになり、管理組合が損害賠償しなければならないことになります。
 それでは、マンション内で転倒の可能性がある箇所は何処でしょうか?
 清掃時に水を使用し濡れたままにした場所、地盤沈下等の不陸による段差がある場所、その他各マンションで考えられる場所があると思います。特に注意して欲しい箇所は、共用廊下の長尺シートの端部が捲れあがっているところです。ほんの少し程度でしたら構わないですが、明らかに捲れており足が引っかかる状態ですと、転倒する可能性は大きいです。2,3年後の大規模修繕工事で全面貼り替えを実施するとのことで、補修を先延ばしすることを判断する場合もありますが、それまでに不慮の転倒事故が起きてしまう可能性はゼロではありません。
 大規模修繕工事までの一次応急部分補修を行うのか、それとも大規模工事まで待つことにするのかは、是非慎重に検討して結論を出してもらいたいと思います。しかし、誰が見てもシートが捲れあがっており足を引っかけて危険な状態であれば検討の余地はなく、すみやかに補修していただきたいと思います。もし、管理組合がこれを放置して死亡者が出て訴えられた場合には絶対に逃れられないと、この記事を読んで思いました。

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小堀將三

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